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3章
40★ 末路②
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「残念だったなぁ、青猫の兄ちゃんよぉ! 形勢逆転ってやつだ、後でたっぷりお礼してやるからなぁ!? おい、ソイツの手足の腱を切ってやれ!」
顔を愉悦に歪ませた男がそう叫んだが、錆び猫は動こうとしなかった。
「何を、何をしてるんだっ! 早くソイツをーー」
「マゼンターー僕は兄弟と言えど、男に抱きつかれて喜ぶ趣味はないんですよ?」
「奇遇だな~、オレもそんなんねぇよ」
ちょっと面白く演出してみただけだろ~? とツマラなさそうに言って離れた猫は、艶やかな赤紫色のしっぽをパタリと振ってみせた。
「なっーー?! お前ーー!?」
「本当に頭が悪いですね……僕が姿を変えていたと教えたのに、何度も同じ勘違いを繰り返せるなんて」
マゼンタの腕を剥がして、シアンが感情のこもらない目で男を見下ろした。
これ以上痛めつけられないということで興味が失せたらしい。
「それで、そっちは?」
「終わったぜ。人質も犯人も全員まとめて城の女王様んとこに送ったし、フィアもマヤに預けてきた」
「上出来です。できることならソフィーを送るのは僕がやりたかったのですが」
「それは先に今回の件に噛んだオレの役得ってことで」
マゼンタはニンマリ笑うと、床に這いつくばった状態の男を見遣った。
先程の会話から自分たちの犯行が失敗したと悟ったのだろう、完全に放心状態で目が虚になっている。
騒ぎ出すと面倒だと、男の頭を掴んで口に銃身を突っ込み固定した。
「なぁ、コイツが主犯?」
「実行犯のリーダーではありますが、糸を引いたのはアッチの国のお偉いさんじゃないですかね」
「充分。つまり、フィアを泣かせたのはコイツってことだろ」
「……泣いたんですか? 彼女が?」
「ああ。怖かった、ってさ。ーーにしてもやり過ぎだろ、これだとオレが嬲れねえじゃん」
出血量的にギリギリだろコレ、とマゼンタが眉をひそめる。
「オレだって、お礼してやりたかったのに」
「……いいんじゃないですか。もう少し遊んでも」
自分の飼い主がこんな屑に泣かされたなんて、と冷めていたシアンの表情に苛立ちが混じる。
「女王様になるべく生かして連れてこいって言われたんじゃねーの? だからここで止めてたんだろ?」
「気が変わりました。一人ぐらい喋れないのが混ざっても良いんじゃないですかね」
「あっそ。なら遠慮なく」
捻じ込んでいた銃の撃鉄を上げ流れるように引鉄を引けば、男が全身をビクリと硬直させ崩れ落ちる。
実際は空砲だったのだが恐怖で気を呑まれたのだろう。白目を剥いて失神していた。
「あれ、ヤらないんですか?」
「死に掛けいたぶっても楽しくねーし? オレの分は血の量が戻ってからにすんの」
「申し訳ないですけど、ソフィーに触れた方の耳ならもうありませんよ?」
「ーーなるほどね、それでここまで徹底して削ったワケか」
オマエマジでえげつねーのな、と呆れた目で兄弟を見る。
「当然の報いでしょう? 僕の飼い主に手を出したんですから」
「オレらの、な。ーーまあなら、オレは反対の耳落とすだけで勘弁してやろうかな」
「おや、君も耳ですか。何かこだわりでも?」
よく分からないと言った顔で首を傾げたシアンの耳を、マゼンタが苦笑いしながらちょいとツツく。
その部分は、赤黒く固まった血で変色していた。
「ーーまあ仕返しというか意趣返し?」
大事なものは一つとは限らない。
マゼンタにとっては、飼い主も兄弟も同じくらい大事なのだから。
顔を愉悦に歪ませた男がそう叫んだが、錆び猫は動こうとしなかった。
「何を、何をしてるんだっ! 早くソイツをーー」
「マゼンターー僕は兄弟と言えど、男に抱きつかれて喜ぶ趣味はないんですよ?」
「奇遇だな~、オレもそんなんねぇよ」
ちょっと面白く演出してみただけだろ~? とツマラなさそうに言って離れた猫は、艶やかな赤紫色のしっぽをパタリと振ってみせた。
「なっーー?! お前ーー!?」
「本当に頭が悪いですね……僕が姿を変えていたと教えたのに、何度も同じ勘違いを繰り返せるなんて」
マゼンタの腕を剥がして、シアンが感情のこもらない目で男を見下ろした。
これ以上痛めつけられないということで興味が失せたらしい。
「それで、そっちは?」
「終わったぜ。人質も犯人も全員まとめて城の女王様んとこに送ったし、フィアもマヤに預けてきた」
「上出来です。できることならソフィーを送るのは僕がやりたかったのですが」
「それは先に今回の件に噛んだオレの役得ってことで」
マゼンタはニンマリ笑うと、床に這いつくばった状態の男を見遣った。
先程の会話から自分たちの犯行が失敗したと悟ったのだろう、完全に放心状態で目が虚になっている。
騒ぎ出すと面倒だと、男の頭を掴んで口に銃身を突っ込み固定した。
「なぁ、コイツが主犯?」
「実行犯のリーダーではありますが、糸を引いたのはアッチの国のお偉いさんじゃないですかね」
「充分。つまり、フィアを泣かせたのはコイツってことだろ」
「……泣いたんですか? 彼女が?」
「ああ。怖かった、ってさ。ーーにしてもやり過ぎだろ、これだとオレが嬲れねえじゃん」
出血量的にギリギリだろコレ、とマゼンタが眉をひそめる。
「オレだって、お礼してやりたかったのに」
「……いいんじゃないですか。もう少し遊んでも」
自分の飼い主がこんな屑に泣かされたなんて、と冷めていたシアンの表情に苛立ちが混じる。
「女王様になるべく生かして連れてこいって言われたんじゃねーの? だからここで止めてたんだろ?」
「気が変わりました。一人ぐらい喋れないのが混ざっても良いんじゃないですかね」
「あっそ。なら遠慮なく」
捻じ込んでいた銃の撃鉄を上げ流れるように引鉄を引けば、男が全身をビクリと硬直させ崩れ落ちる。
実際は空砲だったのだが恐怖で気を呑まれたのだろう。白目を剥いて失神していた。
「あれ、ヤらないんですか?」
「死に掛けいたぶっても楽しくねーし? オレの分は血の量が戻ってからにすんの」
「申し訳ないですけど、ソフィーに触れた方の耳ならもうありませんよ?」
「ーーなるほどね、それでここまで徹底して削ったワケか」
オマエマジでえげつねーのな、と呆れた目で兄弟を見る。
「当然の報いでしょう? 僕の飼い主に手を出したんですから」
「オレらの、な。ーーまあなら、オレは反対の耳落とすだけで勘弁してやろうかな」
「おや、君も耳ですか。何かこだわりでも?」
よく分からないと言った顔で首を傾げたシアンの耳を、マゼンタが苦笑いしながらちょいとツツく。
その部分は、赤黒く固まった血で変色していた。
「ーーまあ仕返しというか意趣返し?」
大事なものは一つとは限らない。
マゼンタにとっては、飼い主も兄弟も同じくらい大事なのだから。
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