155 / 174
4章
28。思わぬ待ち人
しおりを挟む
「うわぁ……なんだか久しぶりに帰った気がする……」
およそ二週間の入院生活から解放され、ようやく戻った自宅。
旅行で家を空ける直前までは留学もしていたので、もはや帰宅というより帰省のような感覚。懐かしき我が家、なんて言いたくなるレベルだ。
「入院長引いちゃったしね。その前も研究室旅行で家ではゆっくりできていなかったから、そう思うのも当然よ。お帰りなさい、ソフィー」
「ふふ、ただいまお姉ちゃん」
お互いにちょっと気取った感じに挨拶を交わして、笑いながら門扉をくぐる。
街の中心部からは少し離れた場所の一軒家で、昔は住み込みの家政婦さんまでいたくらいだから、お屋敷とまでは行かないまでもそこそこに広い家だ。
手入れされた前庭には小さなバラ園があり、ちょうど秋バラが見頃になっていた。
バラは、母の好きな花だった。
「私は明日からは仕事に出ないといけないんだけど……ソフィーは家に一人で平気? お手伝いさんとか手配しましょうか?」
「そこまでは大丈夫。部屋で大人しく、教授や研究室の人達にお詫びの手紙でも書いておくわ」
私の失踪事件なんてものであの時の旅行は台無しにしてしまっただろうし……私の人生でも一、二を争うくらいのやらかし案件だ。
入院中にスマホに来ていたメッセージには全部返事を返したが、教授にはちゃんと面と向かってもお詫びをしないといけない。
土下座で許されるもんならそうしたいけど、きっと意味が分からずにキョトンとされて終わりだろう。他に何か考えないとーー。
「そうね。先生は気になさっていないとは思うけれど、私からも改めてお詫びはしたいわ。あの日は本当に大変だったのよ……」
「うっ……本当にごめんなさい……謝って済む話ではないと思うけれど……」
「良いのよ。だってこうして無事にーーではなかったけど、生きて戻ってこれてるのよ? それが一番だわ」
怪我が完治したら一緒に謝りに行きましょうねと言われて、お願いしますとペコリと頭を下げながら玄関を通ると、そこで意外な人物ーー父親に遭遇した。
「ーーへっ? え、なんで……?」
「…………」
ーーーーびっくりした。
そういえば、ここはこの人の家でもあったわね。会わなさすぎて頭から抜け落ちてしまっていたけど。
前に会ったのはいつだったか……お姉ちゃんが大学を卒業した年だから、五年前とかかしら。
私も相当に驚いたがそれ以上に父が喫驚しているようで、一言も発することなく固まってしまっている。
そのままお見合い状態で数秒経過して、耐えきれずに自分から声を掛けた。
「……ええと、ただいま? それともおかえりなさい?」
「…………ああ」
「帰ってたんだ? 仕事は大丈夫? しばらくは家に居るの?」
「……今日までだ。明日の朝には発つ」
「あ、そうーー」
うぅ……頑張ったのに、これ以上会話が続かない。めちゃくちゃ気まずい。どうすれば。
……いやでも。この場合、向こうから話してくれても良くない? 『無事でよかった』とか『身体はもう平気なのか』とか一言くらい掛ける言葉ってあるでしょ?
仮にも行方不明になっていた娘が見つかったのに、ダンマリってどうなの?
ーーあ、なんか微妙に腹立ってきたわ。
お姉ちゃんはどうやら私と父に二人で話して欲しかったらしく途中まで後ろで見守っていたが、雲行きが怪しくなってきたのを察して私を部屋に送ってくれた。
およそ二週間の入院生活から解放され、ようやく戻った自宅。
旅行で家を空ける直前までは留学もしていたので、もはや帰宅というより帰省のような感覚。懐かしき我が家、なんて言いたくなるレベルだ。
「入院長引いちゃったしね。その前も研究室旅行で家ではゆっくりできていなかったから、そう思うのも当然よ。お帰りなさい、ソフィー」
「ふふ、ただいまお姉ちゃん」
お互いにちょっと気取った感じに挨拶を交わして、笑いながら門扉をくぐる。
街の中心部からは少し離れた場所の一軒家で、昔は住み込みの家政婦さんまでいたくらいだから、お屋敷とまでは行かないまでもそこそこに広い家だ。
手入れされた前庭には小さなバラ園があり、ちょうど秋バラが見頃になっていた。
バラは、母の好きな花だった。
「私は明日からは仕事に出ないといけないんだけど……ソフィーは家に一人で平気? お手伝いさんとか手配しましょうか?」
「そこまでは大丈夫。部屋で大人しく、教授や研究室の人達にお詫びの手紙でも書いておくわ」
私の失踪事件なんてものであの時の旅行は台無しにしてしまっただろうし……私の人生でも一、二を争うくらいのやらかし案件だ。
入院中にスマホに来ていたメッセージには全部返事を返したが、教授にはちゃんと面と向かってもお詫びをしないといけない。
土下座で許されるもんならそうしたいけど、きっと意味が分からずにキョトンとされて終わりだろう。他に何か考えないとーー。
「そうね。先生は気になさっていないとは思うけれど、私からも改めてお詫びはしたいわ。あの日は本当に大変だったのよ……」
「うっ……本当にごめんなさい……謝って済む話ではないと思うけれど……」
「良いのよ。だってこうして無事にーーではなかったけど、生きて戻ってこれてるのよ? それが一番だわ」
怪我が完治したら一緒に謝りに行きましょうねと言われて、お願いしますとペコリと頭を下げながら玄関を通ると、そこで意外な人物ーー父親に遭遇した。
「ーーへっ? え、なんで……?」
「…………」
ーーーーびっくりした。
そういえば、ここはこの人の家でもあったわね。会わなさすぎて頭から抜け落ちてしまっていたけど。
前に会ったのはいつだったか……お姉ちゃんが大学を卒業した年だから、五年前とかかしら。
私も相当に驚いたがそれ以上に父が喫驚しているようで、一言も発することなく固まってしまっている。
そのままお見合い状態で数秒経過して、耐えきれずに自分から声を掛けた。
「……ええと、ただいま? それともおかえりなさい?」
「…………ああ」
「帰ってたんだ? 仕事は大丈夫? しばらくは家に居るの?」
「……今日までだ。明日の朝には発つ」
「あ、そうーー」
うぅ……頑張ったのに、これ以上会話が続かない。めちゃくちゃ気まずい。どうすれば。
……いやでも。この場合、向こうから話してくれても良くない? 『無事でよかった』とか『身体はもう平気なのか』とか一言くらい掛ける言葉ってあるでしょ?
仮にも行方不明になっていた娘が見つかったのに、ダンマリってどうなの?
ーーあ、なんか微妙に腹立ってきたわ。
お姉ちゃんはどうやら私と父に二人で話して欲しかったらしく途中まで後ろで見守っていたが、雲行きが怪しくなってきたのを察して私を部屋に送ってくれた。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる