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4章
30。隠したかったのは
しおりを挟む「じゃあ私は出掛けるけどーー安静にするのよソフィー? お昼ご飯はキッチンに置いてあるから。戸締りはちゃんとしてね?」
「もうお姉ちゃんったら……小さい子供でもないんだからそんなに心配しなくても大丈夫よ」
「でもまだ大人でもないでしょう? 怪我だって治り切ってないんだし……」
退院してから二週間。
もう普通に過ごす分には痛みもあまりないのだけど、心配してくれる姉にそれを言ってもさらに心配されるだけなので素直に応じることにする。
「わかってる、ちゃんと治るまで大人しくしてるわ。ーーいってらっしゃい」
にっこり笑って手を振ると、姉は渋々といった感じで仕事に向かった。
「……さて、と」
姉の姿が見えなくなってから、私は自分の部屋を素通りして二階の角部屋ーー亡くなった母の部屋の前に立った。
そのままドアに手を掛けたが、しっかりと鍵が掛かっている。
もうずっとこの部屋には入っていないが、今日はこの中に用事があるのだ。
昨日、家に警察の人達が来ていた。
といっても私は寝ているように言われて部屋から出してもらえなかったのだが、警官の一人がダンボールを運び込んだのを窓から眺めて知っていた。そして、帰りは手ぶらで帰っていったことも。
その後何を持ってきたのかを姉に聞いたのだが、はぐらかされてしまったのだ。
このタイミングで警察が来るということは十中八九は私絡み。
そしてこの家で常に鍵が掛けられているのは、この部屋しかない。
私はポケットからいくつかヘアピンを取り出すと、そのドアの鍵穴に差し込んでしばらくカチャカチャと動かした。
ちゃんとしたピッキングツールではないから時間は掛かったけど、なんとか解錠に成功する。
「本当に開けられちゃったわね……」
必要ないと言ったのにマゼンタに嬉々としてロックピックのやり方を教えられたのはいつだったか。
まさか役に立つ日が来るなんて、あの時は思いもしなかったけど。
部屋の中に入ると懐かしい景色が広がっていた。
たくさんの本棚に書き物机、明るい窓辺に置かれたドレッサーとスツール。あとは……その横に置かれた違和感満載のダンボール。
少しだけ躊躇ったが、封をしているテープを剥がして箱を開ける。
予想が正しければこの中身はーー
「……やっぱり……」
中から出てきたのは個別に袋に入れられた衣類やバッグ、靴なんかの服飾品。
一番上には髪留めやブレスレットなどのアクセサリーに混じって、濃い水色のリボンとピンクのペンダントが置かれていた。
「ーーやっぱり、夢じゃない」
あの世界での最後の日に、初めてのデートで身につけていたもの。
それらを箱から取り出して手に載せ、そっと撫でる。
『元の世界のヤツなんか選ばないでーーオレを選んでよ』
『あなたのことが好きですーーまだ帰らないでください』
「マゼンタ……シアン……」
結局、ちゃんとお別れをすることもできずに戻ってしまった。
帰らないでほしいと言われて、残れる可能性も有ると聞いて、だったら……と思っていたところだったのに。
約束を、してたわけではないけどーー
「ごめんなさい……」
何に対しての謝罪なのかは自分でもよく分からない。
口から溢れでた言葉を噛みしめると目頭が熱くなってきたが、何度か深呼吸を繰り返して誤魔化したーー泣けばいいってもんじゃない。
まだ、やらなきゃいけないことが残っているから。
ドレッサーの前に座ってペンダントとリボンを身につけると、私は自分の両頬をバシッと叩いた。
衝撃で折れた骨の辺りまで痛くなったのは予定外だったけどーー気合を入れるにはちょうどいい。
残りの荷物には手をつけず、ドアの鍵も開けたままで部屋を出る。
まずはーーお姉ちゃんに、話をしないと。
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