【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
160 / 174
4章

33★ 一方その頃

しおりを挟む
「お主は一体何をやっとるんじゃ! こんの阿呆がっ!」


ブラッドレイ城の執務室には現在大の大人七名がーーより正確にいうならば猫二匹に犬一匹、人間の大人三人に幼女一人が一堂に介していた。

広い部屋ではあるが人数も多い上に、不機嫌ここに極まれりといった感じにイライラMAXで執務用の椅子にふんぞり返る女王様ーーエリザベスから放たれるオーラのせいで、室内には息苦しさが漂っている。


「まさか青い方がやらかすとは思っていませんでしたね。何かあるなら赤い方かと思っていましたわ」

エリザの隣からは同じように不機嫌な調子でクロエがため息をつく。

「酷っ!? オレ、見た目の色で誤解されてない? これでもこいつよりは常識ある方だからな!?」

さりげにシアンだけでなく自分もディスられたマゼンタは抗議の声を上げたのだが、女王と宰相の親子に揃って冷たくスルーされて撃沈した。


「アンタ達ってセット扱いだもの~連帯責任ってヤツよね!」
「勝手にセットにすんじゃねーよ!」
「……まあ諦めろ。オマエがどう思っていても、マヤ達コイツらの認識が変わるわけじゃないからな?」

何を言っても無駄だと諭すように、リュウがマゼンタの肩を叩く。

なんでこんな揃いも揃って理不尽なんだ、とその場に崩れ落ちるマゼンタ。
張本人のシアンはそんな兄弟をちらりと見遣ったが、特に表情を変えることもなくダンマリを決め込んでいる。

しっぽをバタリバタリと自分の脚に打ちつけ耳をスッと伏せたまま、瞬きもせず目の前の女王を睨みつけるという全く反省の色のない態度を見て、そこここからため息が漏れた。


「はあぁ~……まあ予定外に早かったとはいえ、どのみち元の世界に戻るのは止められんかったろうからの。せっかくならもう少しをしっかりしてからが良かったのじゃがーー」
「そういう話をされていたから、距離を詰めようと努力したんですが?」

ようやく会話をする気になったシアンをエリザは呆れ顔で見つめる。

「一気に詰めようとしすぎじゃ阿呆が。結局逃げられたではないか」
「ソフィーが逃げようとしたわけではなく、たまたまタイミング悪く塔が崩れてしまっただけです」
「ほう? ならばそのまま受け入れてもらえる自信があったというわけじゃな?」

問われてツイと視線を逸らすシアン。急ぎすぎた自覚はあったらしい。


「あー、エリザ。猫いじりはその辺にしておかないかい? 私はともかく、皆そこまで暇でもないのだろう?」

それまでゆっくりお茶と茶菓子を楽しみつつ待っていた七人目ーーサイラスが、エリザを嗜めた。

隣国の前皇帝陛下がこの国の女王の執務室でくつろいでいることに突っ込む者はここには居ない。皆慣れたものである。

「そうですよお母様。お父様だってこうおっしゃってはいますが、一番無理を言って来ていただいておりますのよ?」
「むっ。言われずとも、わらわもそろそろ話を進めるつもりだったのだ!」


娘と元夫両方から『いい加減にしてさっさと進めろ』とせっつかれて頬を膨らましつつ、エリザは引き出しから古びた革の首輪を取り出してテーブルの上に置いた。

それを見たリュウとマヤの夫妻が驚きで目を見張る。

「ーーおい、それってまさか“護りの首輪”かーー?」
「ちょっとエリザベス! あなたまさか、この猫達にソフィアさんを迎えに行かせる気なの……?」

信じられない、と言った顔の二人と対照的に、猫二人は淡々としたものだった。

「それが例の首輪ですか。割と普通なんですね」
「へぇ、これが? 前に使ったのがリュウってことは相当古いっぽいけど、まだ効果あんの?」
「なっ!? オマエらこれが何か分かってるのか?」
「リュウがこっちの世界にマヤを拉致ってきた時に使ったやつでしょ? 女王様の日記で読んだし」
「!! エリザベス、あなたあの件に関しては記録を残してないって話だったんじゃ……」

それぞれの反応を示しつつ、首輪を見つめる四人。

ちなみにサイラスは「こんな型破りの魔道具を作れるなんて、やっぱり私の妻は天才だよね」と嬉しそうに話し、「妻じゃ、元をつけんか!」とエリザに怒られている。
皆が皆好き放題に会話を始めてしまって、一向に収拾する気配がない。


そんな混沌とする場を止めたのは、それまで黙って茶器を傾けていた宰相クロエだった。

「ーー全員、お静かにしてもらえませんか? お父様も、お母様を揶揄われるのは程々になさって。また話が止まってしまったでしょう? いちゃつくなら他所でやって下さいませ」

皇族の完璧な微笑み。
しかしそこから発せられるのは、絶対零度の威圧だった。





*******************************

しばらく三人称視点が続きます。
ヒロインソフィーもしばらく出てきませんが、その分猫成分多めとなる予定。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...