【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
174 / 174
番外編

おまけ3。出戻りヒロインは仕事がしたい

しおりを挟む
「仕事をする、じゃと? 何でまたそんなことを言い出したのじゃ」
「だって、もう私この世界で生きていくことにしたんだもの。生活するにはお金が必要でしょ?」

心底分からないという顔をしているエリザにそう言って、私は困った顔で紅茶を飲んだ。


元の世界、というか、飼い猫達に連れ戻された異世界で再び過ごすようになってから一週間。

戻ってすぐは私を当分家から出したくないと言い張るマゼンタとシアンvs戻ってきたならさっさと顔を見せろと言い張る城と不動産屋メンバー、という対立構造に巻き込まれ微妙に大変だったが、ようやく落ち着いてきた。


そこで冒頭の会話である。

今のところ、私の日々の生活にかかる費用は全てマゼンタとシアン持ちだ。
私からは一銭も出していない。


「いつまでも飼い猫におんぶに抱っこでいるわけにはいかないわよ」
「金など出させれば良かろう。連れ戻した方が責任を取るのは当然じゃ。お主が気にするものではない」
「まあそう言われるのは予想ついてたけど。でも、やっぱり働いて自立したいのよ」


多分……というか絶対に、あの二人はお金のことなんて気にしないけど。
下手したらシアンなんか「僕らなしで生きていけなくなるって、素敵ですよね……」なんてうっとりしそうな気すらするけど!

だからこそ、万が一の時のためにも、経済力はちゃんとつけないと。


拳をグッと握りしめて力説する私を、今度はマヤさんが不思議そうに見つめた。

「ソフィアさんはそんなことしなくても、さっさとどちらかと結婚して養ってもらえばいいじゃない!」


ーーブフッ、ゴホゴホッ‼︎


は、ハンカチっ! じゃなきゃタオル!
どうしよう、テーブルクロスに染みが……後でメイドさんに謝らないと……。

テンパる私の向かいではエリザが渋い顔をしている。


「今はあの猫どもは両方とも子供じゃろう? 我が国では未成年の婚姻は認めとらんぞ?」
「あら、そうだったかしらぁ~。じゃあまだ無理ねぇ。あ、ならウチで働くのはどうかしら!」
「マヤさんのところ、ってことは不動産屋さんですか?」

あ、確かにいいかも。
エリザにお城の下働きをさせてもらえないか頼むつもりだったけど、城よりマヤさんのお店の方が気楽そうだし。

「そそっ! まずはリュウの下で見習いしてもらってー。慣れたらあのお店の店長になっちゃうとか!」
「って、気が早すぎません?! それにリュウさんはどうするんですか」
「リュウも結構歳だし、そろそろ引退してもいいと思うのよね~」
「なら、わらわの補佐として働くのはどうじゃ? 仕事はクロエに教えてもらえばよい」
「どっちも責任が重すぎるわよ……」

まだまだこっちの世界に慣れてない部分もあるし、できればもっとこう、気軽なアルバイトから始めたい。カフェのウェイターとかその辺のやつ。


「でものぉ、わらわやマヤの目の届く場所ならともかく、その辺の街中の店では猫どもの許可が下りぬと思うぞ?」
「……問題はそこよね……」


実は、エリザに相談する前にシアンとマゼンタにもそれとなく言ってみたのだ。
結果は言うまでもなく惨敗だった。

マゼンタは「足らなくなってたなら言ってくりゃいいのに」と大金貨を何枚も渡してこようとしたし、シアンは「退屈しているんですね、気づかずに申し訳ありません」と山ほど本を渡してきた。

どっちの猫も、『働きたいから働く』と言う感覚自体が理解できなかったらしい。


「働くってもちろんお金を得るための手段でもあるけど、やりがいって面も大きいわよね~分かるわぁ~」
「とはいえ、迷い子のお主を適当な雇い主に任せるわけにもいかぬという点では、猫達の言い分ももっともじゃからな。悩ましいのぉ」
「でしたら良い案がございますわ」
「あ、クロエさん!」


お久しぶりですと宰相様と挨拶を交わす横で、なんだかエリザの顔色が悪い。
どうしたのかと首をひねるが、それより今は『良い案』っていうのが気になる。

「クロエさん、その仕事って……?」
「勤務先は城内になりますが、責任重大というわけではございません。勤務時間もソフィア様のご予定に合わせますわ」
「なんかこちらに都合が良すぎな気もしますけどーーそれで、仕事内容は?」
「陛下の監視です」

ガシャンッ


あ、せっかくの高級そうなティーカップが、見るも無残な姿に……。
っていうか、エリザ?

「あなたーー仕事サボって私とお茶会してたワケ?」
「ち、違うぞソフィア! これは適正な休憩時間というもので……」
「もう二時間近くおしゃべりしたわよね? まさか今日そんな忙しかったなんて……クロエさん、申し訳ありません」
「いえ、お構いなく。ーーそれでソフィア様、この仕事お受けくださいますか?」

微笑みかける宰相様クロエさんに、こちらもニコリと笑顔を返す。

「ええ、喜んで。とりあえず今日は試用期間ということで、無給でいいです。私が邪魔したようなものですし」
「なっ、ソフィア?! お主裏切ったな!?」
「問答無用よ! 書類整理くらいは手伝うから、さっさと部屋に戻って仕事しなさい!」


逃げようとするエリザを羽交い締めにして執務室に連行する私の後ろで、クロエさんが「やはり適任ですわね」と黒い笑みを浮かべたのは、今後のためを思って気づかぬフリをした。

どこの世界でも、雇い主との関係は拗らせないに越したことはないのである。






******************************

クロエとソフィアはwin winの関係を築けそうです。エリザはしばらく真面目に仕事するしかないですね。

次のおまけ話はシアンの話orクレイの話で悩み中。
サイラスさんや、元の世界のお姉ちゃんもそのうち書きたいところ。
マゼンタとのデートもそういえばまだだったけど、需要あるのか……? シアンとマゼンタってどっちが人気あったんでしょう。


話は変わって、新作連載中です!

『ちっちゃな魔女様は家出したい!~異世界の巨人の国で始める潜伏生活~』

以前掲載したショートショート『ちっちゃいちっちゃいおっちょこちょいの魔法使いがね』の連載版となります。
ただ前作は童話、今作では恋愛ファンタジーにしたため、なんかもう別物となってしまいそうですが。
良ければ是非x2お読みください!
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

名無しのR
2020.08.14 名無しのR

初コメント失礼します
完結おめでとうございます🎉🎉
ずっとこの作品見てました〜
ちょっときゅんってして面白くて
大好きです(*´꒳`*)

2020.08.14 夕木アリス

めると様


お祝いコメありがとうございます…! 
大好きだなんて…めちゃくちゃ嬉しいです(//∇//)

番外編はこれからもあげる予定なので、またきゅんきゅんして頂けるように頑張りますっ(`・ω・´)

解除
yasu
2020.08.01 yasu
ネタバレ含む
2020.08.01 夕木アリス

yasu様

ご感想ありがとうございます☆

ジュリアスはかなり気まぐれなので、ちょうどいい辺りまで食べてもらえるかは神(本人)のみぞ知る感じでしょうか。
でも横に女王様も控えてるので、きっとほどほどで止めてくれるはず! ……って彼女もかなりの気まぐれ屋さんですがw

解除
yasu
2020.07.09 yasu
ネタバレ含む
2020.07.09 夕木アリス

yasu様

ご感想ありがとうございます♪なろう様への投稿遅くてすみません…

大丈夫です、猫達がノラに戻るような未来はこないはず!

バッドエンドは読むのも書くのも苦手なので、ちゃんと最後は大団円を目指します!_φ( ̄ー ̄+

解除

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。