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第一札 洋館の定番と言えばメイドさんですよね!
しおりを挟む俺こと逢沢利剣がこの洋館に住み始めたのがつい一週間前。
ぶっちゃけてしまうと異世界転移者ってやつだ。
話せば長くなるので省くが、偶然元いた世界とこの世界とを繋ぐ穴が生まれ、運悪く俺はそこに飛び込んでしまったようだ。
皆、聞いてくれ!
女神様はいた! 確かにいたんだ。
だが転生モノでよくある、能力の付与や技能等のギフトは一切もらえなかった。
代わりに与えられたのはこの無駄にデカい洋館と戸籍、前所有者の資産だった。
何だよそれ…なんて不満を言いつつ銀行で資産額を確認した時は目が飛び出るかと思ったけどな。
正直、あんなに0が並んだ数字を見たことなどなかった。
あぁ、あと誤解のないように言っておくと「異世界」と言うよりはどうやら「並行世界」って言う方がしっくり当てはまるみたいだ。
文明レベルや国家、言語は元いた日本と全く同じだし。
でもこの洋館に住みついて一週間。
いくつか元いた世界と違った点を発見した。
その1つ目がこいつ―――目の前にいるサキの存在だ。
元の世界では霊感はおろか、幽霊や妖怪の類とは一切無縁だった俺。
その無縁の存在が今こうして俺の目の前で腹を抱えてケタケタ笑っているんだから並行世界とは実に面白い。
くそ。いつまで笑ってんだ殺してやろうか。
いやもう死んでるけど。
サキとは俺がこの館で生活を始めてから三日目の夜くらいに出会った。
深夜に俺がトイレへ行こうと歩いていた時、こいつが廊下にヌッと佇んでいた時は心臓が止まるくらいビビった。
サキは自分の名前がサキという事くらいしか覚えておらず、死因も不明。
物にも触れられない、こちらからも触れない、壁とか床も平気で抜けられるというチート技を使う。
こういう時は神社やお寺に行って祓ってもらうのかも知れないが実害はないし何より、俺がこっちに迷いこんで一人で寂しかったからって理由が大きい。
だって、知人や家族も居ない世界に突然放り込まれたんだぜ。
会話が出来る幽霊の一人にすがりたくなる気持ちも多少は分かるだろ?
「とはいえ、このままじゃ良くない」
「はー、……何がー?」
笑いすぎて涙目になっているサキがふよふよとまた俺の隣に戻ってくる。
「サキのお祓いをしてもらおうかと」
真顔で返す俺に、サキが慌てて両手をばたばたと振る。
「ちょーっ!!待ってよやめてよ!サキ悪い霊じゃないしっ!!」
「人に殴りかかってくる幽霊はいい幽霊とは言えない」
「当たってないじゃん!?すり抜けたし!ほらっ!ほらっ!!」
言ってズボズボと俺のボディに両手をぶっ刺してくる。
確かに痛くはないがビジュアル的に気持ち悪いからやめて下さい。
「と言うのは冗談で、この洋館を清掃と管理してくれる人手が欲しいと思ってなー」
「脅かさないでよ……。ほんと、死ねばいいのに…」
ボソッと呟くサキ。おい聞こえてるぞ。
「だけどなぁ、お前がいる時点で――」
「サキ」
「……お前がいる時点で誰かを――」
「サ・キ」
笑顔で近づいてきて圧を掛けてくるサキ。目が笑ってない。
こいつ、何のこだわりかお前呼ばわりを超嫌う。
「……サキがいる時点で誰かを雇う事に超絶不安があるなと」
「よろしい」
さほど無い胸を張り、偉そうに頷かれた。
思えばいつから上下関係が逆転してしまったんだろうか。
「だからってサキを祓うのは良くないとおもいまーす」
片手をピっと上げ、発言するサキ君。
「祓うとは言ってないが、掃除の時くらいは姿を隠していてもらわんと働きに来た人が逃げちゃうだろ」
「えー……ここ、サキの家なのにー…」
「その証拠はないし、死者に所有権などない」
そうそう。
サキは自分の名前がサキである事との他にこの家は自分の家だと主張している。
だが転移時に説明してくれた女神様が言うには所有者は既に死亡しており、所有者が不在だったので名義を俺の名義にしてもらったのだ。
そして仮にサキが所有者だったとしてもそれは生前の話。
館の今の主は俺なのである。
「今は俺の名義だから、決定権は俺にある」
「横暴だー!暴政だよー!!」
市民であるサキ君が吠えているが、その意見は聞き入れられない。
「よって我が家は……家政婦を募集するっっ!!!」
室内に、魂を込めた俺の…いや全世界の男の想いが響き渡った。
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