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第十札 れじすとれーしょん!! =登録=
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まえがき
一方その頃、利剣と流那は都心にある法術師の関東管轄所を訪れていた。
「あー、多分ここだ」
「ふぇー……」
ビルを見上げた流那が呆気に取られて力が抜けそうな声を漏らす。
目の前の十階建ての大きな黒いビル。
石板には達筆っぽく「法術師連盟青龍管轄所」と刻まれている。
「さっさと法術師登録して帰ろう。サキと静流の事が気になってしょうがないし」
そう言ってビル内へと歩く俺の後を流那がとたとたっとついて来る。
「あ、はいっ。でも静流さんなら大丈夫だとは思いますよっ?」
「うーん…」
そうだろうか?
まぁ約束を簡単に破る子には見えないけどさ。
つい勢いで除霊しました、申し訳ありません。っていう可能性もゼロではない気がする。
自動ドアをくぐると天井の高い広々としたホールの奥側に受付カウンターがあり、お姉さんが微笑みながら迎えてくれている。
床も壁も大理石っぽいし、良く分からないが高そうな彫像や絵画も置かれている。
カウンターの脇にはエレベーターが二基あるが左右に屈強な警備員が二名、後ろ手を組んでこちらをジロリと見ていた。
俺がツカツカとカウンターに近づくと受付のお姉さんが「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」と笑顔で応対してくれる。
「えーと、法術師の登録をしに来ました。この子もです」
俺の言葉を受けて流那は「こんにちわぁ…」と言ってぺこりと頭を下げる。
「畏まりました。それでは登録料ですが――」
え、有料なんすか。
いやぁ、お金はあるから別にいいけどさ。
「登録料はお一人様三万円となっております」
しかも高ぇ!!
「あー…じゃあ二名で六万ですね。分かりました」
「あのっ、利剣さんっ…」
突然流那が俺の袖をクイクイッと掴む。
「ん?」
「えっと……、流那は今日そんなにお金を持ってきていなくてっ……」
突然の事態で一人称が流那となっている辺り、心中結構慌ててるなぁ。
「心配しなくていいよ。俺が出すから」
「ええっ! そんな…ダメですよっ!」
驚いた顔で首を大きく振る流那。
「大丈夫だって。ちゃんと給料から天引きするから」
「えっ…あっ……。な、なるほどっ…」
「俺が出す」という言葉を奢るという意味で捉えていた流那が一瞬キョトンとした顔になり、すぐに違う意味だと気付いて納得する。
「んー? もしかして、俺が奢ると思ってたのかなぁ~?」
「す、すみませぇんっ……」
ニヤニヤとからかう俺に素直にぺこぺこ頭を下げる流那。
うーん、反応がいちいち面白い。
「ウソウソ。俺が負担するから気にすんなって」
「えっ…。も、もぉ~っ! あっ、いえ! でもそれはっ……」
怒ったり拒否したりと忙しいやつだ。
まぁ、素直に奢られない流那を無視して俺はカウンターのお姉さんに向き直る。
「じゃあ、はい。六万円です」
「利剣さんっ!?」
俺は流那の声を無視してお姉さんに支払いをするが、お姉さんは困ったような表情でぺこりと頭だけを下げる。
「申し訳ありません。その前に法術師かどうかの確認をさせて頂いてからの金銭受領になります」
「あ、はい……」
俺は取り出した現金を再び財布に戻した。
お姉さんの説明は最後まで聞こう、ってね。
「それでは法術師かどうかの確認ですが、こちらの宝玉に触れて頂けますでしょうか?」
そう言いながらお姉さんがカウンターの下から紫の座布団に乗っかった握り拳2つ分位の大きさの宝玉を取り出した。
「へぇ…綺麗だなあ」
透明の宝玉に目を奪われながら俺は右手で宝玉に触れる。
「後は手に力をこめるイメージで、強く念じて下さい」
凄い抽象的な説明だ。
うーん、俺の右手に力を…。
―――はぁぁぁぁ! 俺の体内に眠る闇の力よ! 今こそ漆黒の力を示せ!―――
こんなんでいいのかな。
「はい、大丈夫です。手を離してしばらくお待ちください」
言われた通り手を離した俺はじっと宝玉を見る。
闇の力、とか思ったから闇属性とかになんねーだろうな?
てか俺この世界の人間じゃないから法力とかないんだけどなぁ…。
これも並行世界の狭間をくぐった影響だろうか?
「見えました。あら………?」
お姉さんが不思議な声を上げる。
「どうかしました…か?」
宝玉を見てみればうっすらと微かな光が五つの色。
青、赤、白、黒、黄色。
「凄い……」
ぼーっと宝玉を見つめるお姉さん。
凄い? もしかして……。
「凄いんですか?」
俺は内心わくわくしながら平静を装ってお姉さんに尋ねる。
「はい……未だかつて見たことがない弱弱しい光です……」
「あ、はぁ……」
そっちかーーーーい!!!!
そっちかいそっちかいそっちかーーい……
大声で叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて心の中で10回位お姉さんにツッコミを入れる。
「ただ、五神の反応がある人も私は今まで見たことがありません……」
「えっ…」
いや、それって凄くない?
落として上げる的なやつなの?
そっちに驚いて欲しいし、そっちを先に言って欲しい。
「法術は普段どの系統をお使いでいらっしゃいますか?」
「…使った事がありません」
少しの間。
「…一回もでしょうか?」
「はい、一回も」
あ、お姉さんが固まった。
だって、ねえ?
俺つい最近まで法術が認識されていない並行世界に住んでたのよ?
それがひょんな事で突然こんな世界に来ちゃったのよ?
使えるものなら使いたいさ!
帰ったら静流に聞いてみようっと。
「か、畏まりました。ではこちらの用紙に情報を書いてご提出下さい」
あ、お姉さん復活した。
「分かりました」
俺は手渡された用紙とボールペンを持ってカウンターの隣にある記入スペースに移動する。
とりあえず名前と住所と連絡先を順番に書いていく。
「普段使う系統の術…? えーと、無しっと…」
「何歳頃から法術を学んだか…? 学んだ事がない、っと…」
みるみるうちに個人情報以外が無し、分からない、知らないと言う無意味な用紙が出来上がっていく。
「利剣さぁん……」
と、流那に呼ばれた俺は用紙に記入する手を止めて顔を上げた。
「ん? どうした流那。そんな声を出されても俺は猫型機械人形じゃないぞ」
「分かってますよぅっ! えっと……流那は法術師さんではないみたいです…」
「え? そうなの?」
俺は受付のお姉さんを見る。
「申し訳ありませんが、お連れ様は宝玉の反応が一切なく、歪曲札も見えておいでではありませんでした」
そう言って左手を上げると、お姉さんの左手がうっすらとぼやけていた。
前に見た静流の刀、紫苑の時のようだ。
「あー…そうですかぁ…」
うーん、じゃあ何で流那にはサキが見えるんだろう。謎だ。
そういうのも聞いた方がいいのかな?
いや、何か話して調査しますとか言われても面倒だ。
今日はいいや。
「なので今回の登録料はお客様一名分でございます」
「分かりました」
俺はいそいそと残りの質問事項の欄を埋めてから、お姉さんに三万円と用紙を渡した。
「確かに登録料を受領いたしました。合わせて法術師の登録も受理させて頂きます。」
「お願い致します」
「最後ですが一時間程度の講習を受けられますか? お受けにならない場合は法術師の手引書をお渡しさせて頂きます」
うーん、講習は気になるといえば気になるが流那を待たせるのも申し訳ない。
それに静流とサキの事を考えたら一分一秒でも早く帰るべきか。
というか受けるか手引書かを選択できる辺り、絶対に聞いておかないといけない重要な内容ではないのだろう。
「あー……、今回は手引書でお願いします」
「かしこまりました。後日お聞きになりたい場合はまたこちらにお越しいただければご説明させて頂きますので」
再訪問も可能なのね。
「了解です」
「それではこちらが法術師の手引書になります」
手渡されたのはA4サイズで厚さ5ミリくらいの冊子だった。
意外にしょぼいな。まぁいいけど。
「ありがとうございます」
俺はお姉さんに一礼して踵を返した。
「逢沢様の今後のご活躍をお祈りしております」
「どうも。流那、帰ろうか」
「あ、はいっ!」
こうして、俺の人生初の法術師登録が無事完了した。
管轄所を出た直後に流那がニコニコしながら、
「六万円ではなくて三万円で済んで良かったですねっ…」
と言ってきた。
「そうだなぁ…」
とだけ返事を返しておいたが、自分が法術師ではなかったことよりも出費の方が気になるとはつくづく主婦っぽいなと思ったのは内緒。
さて急いで館に帰ろう。
サキ、いなくなってたりしないよな……。
あとがき
先に利剣と流那の方を載せた方が良かったかなぁ、なんて今更思いました。
一方その頃、利剣と流那は都心にある法術師の関東管轄所を訪れていた。
「あー、多分ここだ」
「ふぇー……」
ビルを見上げた流那が呆気に取られて力が抜けそうな声を漏らす。
目の前の十階建ての大きな黒いビル。
石板には達筆っぽく「法術師連盟青龍管轄所」と刻まれている。
「さっさと法術師登録して帰ろう。サキと静流の事が気になってしょうがないし」
そう言ってビル内へと歩く俺の後を流那がとたとたっとついて来る。
「あ、はいっ。でも静流さんなら大丈夫だとは思いますよっ?」
「うーん…」
そうだろうか?
まぁ約束を簡単に破る子には見えないけどさ。
つい勢いで除霊しました、申し訳ありません。っていう可能性もゼロではない気がする。
自動ドアをくぐると天井の高い広々としたホールの奥側に受付カウンターがあり、お姉さんが微笑みながら迎えてくれている。
床も壁も大理石っぽいし、良く分からないが高そうな彫像や絵画も置かれている。
カウンターの脇にはエレベーターが二基あるが左右に屈強な警備員が二名、後ろ手を組んでこちらをジロリと見ていた。
俺がツカツカとカウンターに近づくと受付のお姉さんが「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」と笑顔で応対してくれる。
「えーと、法術師の登録をしに来ました。この子もです」
俺の言葉を受けて流那は「こんにちわぁ…」と言ってぺこりと頭を下げる。
「畏まりました。それでは登録料ですが――」
え、有料なんすか。
いやぁ、お金はあるから別にいいけどさ。
「登録料はお一人様三万円となっております」
しかも高ぇ!!
「あー…じゃあ二名で六万ですね。分かりました」
「あのっ、利剣さんっ…」
突然流那が俺の袖をクイクイッと掴む。
「ん?」
「えっと……、流那は今日そんなにお金を持ってきていなくてっ……」
突然の事態で一人称が流那となっている辺り、心中結構慌ててるなぁ。
「心配しなくていいよ。俺が出すから」
「ええっ! そんな…ダメですよっ!」
驚いた顔で首を大きく振る流那。
「大丈夫だって。ちゃんと給料から天引きするから」
「えっ…あっ……。な、なるほどっ…」
「俺が出す」という言葉を奢るという意味で捉えていた流那が一瞬キョトンとした顔になり、すぐに違う意味だと気付いて納得する。
「んー? もしかして、俺が奢ると思ってたのかなぁ~?」
「す、すみませぇんっ……」
ニヤニヤとからかう俺に素直にぺこぺこ頭を下げる流那。
うーん、反応がいちいち面白い。
「ウソウソ。俺が負担するから気にすんなって」
「えっ…。も、もぉ~っ! あっ、いえ! でもそれはっ……」
怒ったり拒否したりと忙しいやつだ。
まぁ、素直に奢られない流那を無視して俺はカウンターのお姉さんに向き直る。
「じゃあ、はい。六万円です」
「利剣さんっ!?」
俺は流那の声を無視してお姉さんに支払いをするが、お姉さんは困ったような表情でぺこりと頭だけを下げる。
「申し訳ありません。その前に法術師かどうかの確認をさせて頂いてからの金銭受領になります」
「あ、はい……」
俺は取り出した現金を再び財布に戻した。
お姉さんの説明は最後まで聞こう、ってね。
「それでは法術師かどうかの確認ですが、こちらの宝玉に触れて頂けますでしょうか?」
そう言いながらお姉さんがカウンターの下から紫の座布団に乗っかった握り拳2つ分位の大きさの宝玉を取り出した。
「へぇ…綺麗だなあ」
透明の宝玉に目を奪われながら俺は右手で宝玉に触れる。
「後は手に力をこめるイメージで、強く念じて下さい」
凄い抽象的な説明だ。
うーん、俺の右手に力を…。
―――はぁぁぁぁ! 俺の体内に眠る闇の力よ! 今こそ漆黒の力を示せ!―――
こんなんでいいのかな。
「はい、大丈夫です。手を離してしばらくお待ちください」
言われた通り手を離した俺はじっと宝玉を見る。
闇の力、とか思ったから闇属性とかになんねーだろうな?
てか俺この世界の人間じゃないから法力とかないんだけどなぁ…。
これも並行世界の狭間をくぐった影響だろうか?
「見えました。あら………?」
お姉さんが不思議な声を上げる。
「どうかしました…か?」
宝玉を見てみればうっすらと微かな光が五つの色。
青、赤、白、黒、黄色。
「凄い……」
ぼーっと宝玉を見つめるお姉さん。
凄い? もしかして……。
「凄いんですか?」
俺は内心わくわくしながら平静を装ってお姉さんに尋ねる。
「はい……未だかつて見たことがない弱弱しい光です……」
「あ、はぁ……」
そっちかーーーーい!!!!
そっちかいそっちかいそっちかーーい……
大声で叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて心の中で10回位お姉さんにツッコミを入れる。
「ただ、五神の反応がある人も私は今まで見たことがありません……」
「えっ…」
いや、それって凄くない?
落として上げる的なやつなの?
そっちに驚いて欲しいし、そっちを先に言って欲しい。
「法術は普段どの系統をお使いでいらっしゃいますか?」
「…使った事がありません」
少しの間。
「…一回もでしょうか?」
「はい、一回も」
あ、お姉さんが固まった。
だって、ねえ?
俺つい最近まで法術が認識されていない並行世界に住んでたのよ?
それがひょんな事で突然こんな世界に来ちゃったのよ?
使えるものなら使いたいさ!
帰ったら静流に聞いてみようっと。
「か、畏まりました。ではこちらの用紙に情報を書いてご提出下さい」
あ、お姉さん復活した。
「分かりました」
俺は手渡された用紙とボールペンを持ってカウンターの隣にある記入スペースに移動する。
とりあえず名前と住所と連絡先を順番に書いていく。
「普段使う系統の術…? えーと、無しっと…」
「何歳頃から法術を学んだか…? 学んだ事がない、っと…」
みるみるうちに個人情報以外が無し、分からない、知らないと言う無意味な用紙が出来上がっていく。
「利剣さぁん……」
と、流那に呼ばれた俺は用紙に記入する手を止めて顔を上げた。
「ん? どうした流那。そんな声を出されても俺は猫型機械人形じゃないぞ」
「分かってますよぅっ! えっと……流那は法術師さんではないみたいです…」
「え? そうなの?」
俺は受付のお姉さんを見る。
「申し訳ありませんが、お連れ様は宝玉の反応が一切なく、歪曲札も見えておいでではありませんでした」
そう言って左手を上げると、お姉さんの左手がうっすらとぼやけていた。
前に見た静流の刀、紫苑の時のようだ。
「あー…そうですかぁ…」
うーん、じゃあ何で流那にはサキが見えるんだろう。謎だ。
そういうのも聞いた方がいいのかな?
いや、何か話して調査しますとか言われても面倒だ。
今日はいいや。
「なので今回の登録料はお客様一名分でございます」
「分かりました」
俺はいそいそと残りの質問事項の欄を埋めてから、お姉さんに三万円と用紙を渡した。
「確かに登録料を受領いたしました。合わせて法術師の登録も受理させて頂きます。」
「お願い致します」
「最後ですが一時間程度の講習を受けられますか? お受けにならない場合は法術師の手引書をお渡しさせて頂きます」
うーん、講習は気になるといえば気になるが流那を待たせるのも申し訳ない。
それに静流とサキの事を考えたら一分一秒でも早く帰るべきか。
というか受けるか手引書かを選択できる辺り、絶対に聞いておかないといけない重要な内容ではないのだろう。
「あー……、今回は手引書でお願いします」
「かしこまりました。後日お聞きになりたい場合はまたこちらにお越しいただければご説明させて頂きますので」
再訪問も可能なのね。
「了解です」
「それではこちらが法術師の手引書になります」
手渡されたのはA4サイズで厚さ5ミリくらいの冊子だった。
意外にしょぼいな。まぁいいけど。
「ありがとうございます」
俺はお姉さんに一礼して踵を返した。
「逢沢様の今後のご活躍をお祈りしております」
「どうも。流那、帰ろうか」
「あ、はいっ!」
こうして、俺の人生初の法術師登録が無事完了した。
管轄所を出た直後に流那がニコニコしながら、
「六万円ではなくて三万円で済んで良かったですねっ…」
と言ってきた。
「そうだなぁ…」
とだけ返事を返しておいたが、自分が法術師ではなかったことよりも出費の方が気になるとはつくづく主婦っぽいなと思ったのは内緒。
さて急いで館に帰ろう。
サキ、いなくなってたりしないよな……。
あとがき
先に利剣と流那の方を載せた方が良かったかなぁ、なんて今更思いました。
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