同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る

海狼ゆうき

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炎上配信者の再始動

隣の観測者

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 それは、学校だった。  
 零が配信を始めてからも、表向きは普通の高校生を続けている。

 昼休み。  
 教室はざわついていた。

「見た? あれ」  
「昨日のやつ?」

 視線が刺さる。  
 零は無視する。

 だが一つだけ、視線の質が違った。

 窓際。  
 結城 七瀬。  
 小学校からの幼なじみ。  
 唯一、零が配信をしていることを知っている人間。

 七瀬はスマホを伏せたまま、零を見る。

「……本当に死んだの?」

 小さな声。  
 零は答えない。

「零」

 呼び捨て。  
 昔から変わらない。

「あなた、止められたんじゃないの」

 責めていない。  
 確認だ。

 零は視線を逸らす。

「閉鎖空間だった」

「言い訳だね」

 胸がわずかに痛む。

 七瀬は続ける。

「あなたが始めたんでしょ」

 否定できない。

 零は小さく言う。

「制御してる」

「足りてない」

 即答。

 その瞬間。  
 教室の後方で声が上がる。

「なあ」

 男子生徒が立ち上がる。

「今やってみね?」

 ざわつき。  
 零の鼓動が早まる。

「単語決めてさ」

 軽いノリ。  
 最悪のノリ。

 七瀬が眉をひそめる。

「やめなよ」

「何で?」

 笑い声。

「本物かどうか見たいじゃん」

 スマホが一斉に上がる。  
 配信ではない。  
 録画。  
 だが関係ない。

 揃えば、形になる。

 零は立ち上がる。

「やるな」

 低い声。

「お前に関係ないだろ」

 空気が変わる。  
 挑発。

「単語は“立つ”でいいじゃん」

 誰かが笑う。

《立つ》 《立つ》

 冗談半分で打ち始める。  
 クラス内グループチャット。

 二十数人。  
 少ない。  
 だが閉じている。  
 集中する。

 零の視界が狭くなる。

「やめろ」

 七瀬が立ち上がる。

「ほんとに危ないから」

「何が?」

 男子が笑う。

「零の信者?」

 揃う。

《立つ》 《立つ》

 空気が張り詰める。  
 教室の椅子が、微かに揺れる。

 零の心臓が跳ねる。

「止めろ!!」

 叫ぶ。

 だが。

 七瀬の体が、ゆっくりと持ち上がる。  
 椅子から数センチ。

 教室が凍る。

「……え」

 七瀬の目が見開く。  
 浮いている。

 零の喉が凍る。

《本物》 《やば》

 “立つ”は曖昧だ。  
 立つ=立ち上がる。  
 重力に逆らう。  
 定義が拡張する。

 七瀬の足が床から離れる。

「零」

 視線がぶつかる。  
 恐怖と、どこか確信。

 零は叫ぶ。

「“止まる”!!」

 自分のスマホを開き、クラスチャットに打ち込む。

《止まる》 《止まる》

 数人が追従する。

 だが混線する。

《立つ》 《立つ》

 二つの単語が衝突する。

 七瀬の体が、不自然に揺れる。  
 上へ、下へ。

「やだ」

 七瀬の声が震える。  
 天井の蛍光灯が近づく。

 零は机を蹴飛ばして前に出る。

「見るな!!」

 クラスメイトに怒鳴る。

「打つな!!」

 だが恐怖は加速剤だ。  
 パニックがコメントを増やす。

《立つ》 《立つ》 《立つ》

 数が一気に偏る。

 七瀬の体が、天井に叩きつけられる。  
 鈍い音。  
 悲鳴。

 血は出ない。  
 だが衝撃は強い。

 そのまま重力が反転したように、床へ落ちる。

 零が受け止める。  
 衝撃が腕に走る。

 七瀬の呼吸が荒い。

「……生きてる」

 小さく呟く。

 クラスは静まり返る。  
 スマホを持つ手が震えている。

 零は七瀬を抱えたまま、教室を睨む。

「二度とやるな」

 低く。  
 怒りではない。  
 殺気。

 誰も言葉を返せない。

 保健室へ運ぶ。

 廊下。  
 七瀬が零の制服を掴む。

「……あなた、止められたよね」

 弱い声。

 零は答えない。

「本気出せば」

 胸が締めつけられる。

「私、死んでた?」

 零は初めて震える。

「分からない」

 七瀬は目を閉じる。

「ねえ」

 小さな声。

「私も、できるかもしれない」

 零の足が止まる。

「何言ってる」

「さっき、浮いたとき」

 息が浅い。

「怖かったけど……」

 間。

「分かったの」

 嫌な予感。

「揃う感覚」

 零の背中に冷たい汗が流れる。

 共鳴。  
 近くで観測した者。  
 体験した者。  
 中心に近い者。

「零」

 七瀬が目を開ける。  
 まっすぐ。

「私、あなたの隣にいる」

 それは宣言だった。

 零は理解する。  
 守る対象が、媒介になる。  
 最悪の形。

 スマホが震える。  
 偏差。

『始まったな。』  
『止められるか』  
『無理だ。』

 短い返答。

『彼女は、強い。』

 零は七瀬を見る。  
 強い。  
 だから危険。

『二人目は、あなたの隣だ。』

 零は拳を握る。

 中心が二つになれば――  
 揃いは倍加する。  
  制御はさらに難しくなる。

 七瀬が小さく笑う。

「怖い顔してる」

 零は目を閉じる。

 守りたい。  
 だが。

 この現象は、守るほど増幅する。

 零は悟る。

 物語は、二人称になった。

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