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サンダーランド王国編

ボクは何をするべきか

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「カシュパル殿の報告は如何でしたか?」
「う~ん。なかなか情報が集まらないようだよ。領都に未だに入れないみたい。フレーザー家の状況は掴めていないんだって。今の所カゾーリア王国軍は民までは殺してはいないようだよ」
「そうですか・・。閣下の消息だけでも早く知りたいものですね。セシリア様は屋敷から逃れて以降、消息が掴めていないようですし。やはり我らが現地で・・」
「うん。僕もそうしたいけど。それは難しいって話したよね」
「・・・」

 ジャスティンは悔しそうな顔をしている。うん、分かっているならいいけどさ。分からないでもないけどさ。
 停戦になったからだ。緊張感が薄れて来たんだろう。家族が心配になったんだと思う。ジャスティンの両親はフレーザー領に残っているし。勿論他の兵達も殆どが家族をフレーザー領に残している。その家族の消息は分からない状態なんだ。
 できれば帰してあげたいのだけど。言う程簡単じゃなくなったからね。帰郷は現状難しい。

 カゾーリア王国軍がフレーザー領から北に進出してからフレーザー領境は厳重な警戒が行われているそうだ。カゾーリア王国によってだ。
 カシュパルでさえ超えるのは難しいと言っていた。出入りを相当警戒しているみたいだ。
 街道からフレーザー領に入る関所は警戒が厳重になっているそうだ。もともと関所はあったのだけど。その関所から障壁のような壁を建築しているとか。・・国境かよ。
 まともな通行が全くできない。支道はもっとひどい。封鎖されたり、酷い所は破壊されているそうだ。これはカシュパル報告で知った。
 フレーザー領に入る残った手段は険しい山越えしかないそうだ。それも道が無き道を進む事になるそうだ。
 領内の人のネットワークもかなりダメージがあるようだ。
 マクレイ町の長であるクロンプトンさんは町にいない。連絡手段も無いそうだ。フレーザー領内での情報網も再構築の必要があるとカシュパルは肩を落としていた。
 フレーザー領はかなりの部分を壊されている。
 一応この事はジャスティンにも伝えているんだけどね。だけど感情は別だ。フレーザー領の現状に納得できないのはとっても分かる。

 ボクも早く戻りたい。

 フレーザー領については停戦中だから軍事行動はできない。
 引き続きカシュパルに情報収集を続けてもらうしかないんだ。大変だろうけど頑張ってもらうしかない。
 いずれ南下してカゾーリア王国軍を退ける事も来ると思う。・・・いや、必ず来る。
 停戦は見せかけの筈だ。カゾーリア王国は国力ギリギリで軍事行動をしていたと思う。今がギリギリの筈だもの。
 いずれ力が回復したら停戦を無かった事にすると思う。カゾーリア王国がフレーザー領だけで大人しくする筈がない。
 それまで耐えるしかない。・・それは一体何時になるんだろう。
 むしろ別の手段でカゾーリア王国を揺さぶる。これが効果的なんじゃないかと考えるようになった。
 でも・・サンダーランド王国で出来るだろうか?

 停戦が成立してから毎日ボクは考えている。・・・燻っているといってもいい。
 考えてはいるんだけど。
 悔しいけど・・ボクは何にもできない事がよっく分かった。
 
 フォレット家の人間になった。でもボクはピーター叔父さんの家に厄介になっている居候だ。なんの権限も無いっす。
 そのピーター叔父さんはフォレット家の分家に養子に入った。今は分家の当主となってマーヴィン叔父さんを支えているそうだ。執事みたいな立場なんだってさ。
 その家の一室をあたえられて生活する事になった。
 のだけど・・・当面はフォレット家領内もあまり出歩かないようにと言われているんだ。
 今回の停戦についてマーヴィン叔父さんは強硬に異議を申したてた。それが悪い印象を与えたようで王家の意思に逆らったとして距離を置かれているそうだ。・・目立つ行動は取るなという事らしい。
 できるのはフェリックス隊とウエストブリッジ隊の訓練のみ。ベルフォール帝国の戦闘方法でヒントを貰ったので色々変えてみた。
 ついでに隊も一つにまとめた。便宜上スパーク隊と呼称する事にした。それでも百人にも満たない。やはりボクの指揮下いる兵だけでカゾーリア王国と戦うのは無理だ。
 仮に数が揃ってもフォレット家に所属している以上勝手な行動はとれない。
 叔父さん達はボクにフレーザー領奪回を望んでいないのだと思う。情報は求めるけど、戦えとは言わない。アーサー叔父さんの家に送られたのもそうだと思う。
 その辺の情報が全く入ってこなくなったし。今は勉強しろと言われるばかり。何の勉強かと聞けば武芸と言われた。フォレット家は武術の家だ。でもそれは個人の技術でボクが欲しいものじゃない。
 
 なんかモヤモヤする。
 落ち着いて考えたい・・・。
 ボクは一人外に出る事にする。ジャスティンの護衛も断る。フォレット領は安全だからと主張して一人で行動する。・・なんか久しぶりだ。
 グリーンヒル方面まで遠乗りしようかと思う。なかなかいい運動になると思う。厩から馬を出して屋敷を出る。
 出るなと言われているからコッソリ出るけど・・使用人にはバッチリばれている。あとで叔父さんに怒られると思うけど構うもんか。
 久しぶりの風を切る感触にほっと安心する。・・体もすっかり鈍ってしまった。

 道行く人達が増え平常に戻ったんだという様子を感じながら、街道をゆっくりと進む。
 
 しばらく進むと背後がなにやら騒がしい事に気づく。
 振り向くと・・王都方面から武装した集団が近づいてくる。
 ・・・あれは。
 
 青に統一された軍装。一糸乱れぬ行軍。
 これはベルフォール帝国の軍か。
 ・・そっか。王都での交渉事が終わって帰国するのか。
 
 街道を通行している一般人はなぜか道を譲っている。威風を見せつけようとしているのか道幅一杯に隊列を組んで行軍しているもんな。
 無視してもいいんだけど。突っ張ってもしかたない。街道を外れて草原に行こう。彼らの行軍を眺めていたら時間がかかる。
 
 ふと思う。
 ボクにあの数の兵があったら何をする?

 規律が整った五千の兵。
 この兵を率いてカゾーリア王国軍と戦う。
 ・・・ただ戦うだけじゃダメだ。
 相手を知る事。自身の兵を把握する事。適切な戦場を選択する事。
 ・・・もっとある。
 
 足りない事ばかりだ。
 前世の知識があるから何でもできるって事は無い。全くの勘違いだ。
 どうしたら学べるんだろう。前の家にはエイブラム爺のように教えを請える人がいた。エイブラム爺は歴史と魔法の先生だった。また教えて貰えないかなぁ。
 エイブラム爺はどうしているんだろか。
 色々考え、悲しくなる。・・・振り返ると悲しい事ばかりだ。

 ・・ため息しかでない。

 
「待ちなさい」

 背後から声が掛かる。後ろから誰かが来たことはわかっていた。けど・・声を掛けられるとは思って無かった。どっかで聞いた声だなぁと思って振り返ると・・・。
 ハッテンベルガー将軍がいた。御供も連れずにだ。ベルフォール帝国軍を見ると止まることなく行軍を続けている。
 え?
 一人隊列を離れてボクの所に来たの?
 ボクが言葉にならない状態だと思ったようでハッテンベルガー将軍から声を掛けてくれた。

「君はフォレット家の帷幕にいた少年だな?」

 ・・・覚えてくれたんだ?挨拶もしていなかったし。何より子供だから眼中になかったと思っていた。
 ・・どうして?

「違ったのかな?」
「あ、いいえ。その通りです」
 
 ボクは慌てて下馬をして挨拶しようとした。そしたら止められた。

「そのような挨拶は不要だ。公式の場でもない。君は私の事は知っているのかな?」

 馬を横に並べる形で歩く状態でハッテンベルガー将軍は尋ねてくる。ボクが悪意を持った暗殺者とかだったらどうするのさ。ま、子供だから安全だろうけどさ。
 
「ベルフォール帝国で三代将軍に数えられているハッテンベルガー将軍です。会見の場では自己紹介できず失礼しました。僕はレイ・フォレットと申します。見ての通り子供です」
「他国の人間である私を知っているとはね。それ程私が有名なのか。君の情報に対する意欲が大きいのか。どっちらだろうね」
「将軍の異名は他国でも知れ渡っています。ボクはそれを知る事ができる立場にあったというだけです」
「それにしても大したものだよ。今はフォレットと名乗っているんだね。フレーザー領については残念な事になったのは知っている。帝国側としては援軍要請の範囲でしか動けなくてね」
「援軍に応じて頂いただけでもありがたいと思います。サンダーランド王国軍ではあれ程完璧に敵軍を打ち破る事はできなかった筈です」
「そうか。戦場から離れた高台で見物していたのは君だったか」
「・・・気づかれておられたのですか?」
「当然の事だよ。戦場には絶対という事はない。少しでも危険と判断したら排除していたよ。君達はサンダーランド王国の関係者と判断したから放置したんだ」

 呆気にとられてしまう。表情を変えないように緊張感をもって話をしていたつもりなのに・・。戦場の把握や警戒が凄すぎる。
 帝国が最強と呼ばれる理由がよく分かった。今だって普通に話しかけてくれている。でも、ボクに対する警戒は解いていないんだろうな。子供だから違うか。・・どっちだろ。
 それに子供のボクに対しても馬鹿にする事もなく丁寧に話をしてくれる。・・本当に凄い人だ。

 うまく表現できないけど職業軍人といえばいいのか。
 サンダーランド王国ではフレーザー侯爵が近い人物だと思う。でもフレーザー侯爵は領地を経営する領主の比重が高い気がする。専従の軍隊は所有しているけどフレーザー侯爵は指揮官タイプでは無いような気がする。
 ハッテンベルガー将軍も確か爵位は伯爵だと聞いてる。でもこの人には領地を経営している雰囲気がしない。
 そんな違いがあるような気がする。
 
 こういう人にボクはなれるだろうか。
 
 ボクが目指すのはどちらなんだろう。
 どちらが最適なんだろう。
 まだ十歳になっていない。でも時間はあるようで無い。
 明日がどうなるか分からない世界だもの。
 悠長に考えている時間はない。
 そもそも理想を追いかけられる環境では無いんだ。
 厳しい環境の中で努力しないと明日を迎えるのは難しい世界だ。
 
 少しづつでも意識を変えていかないといけない。
 ハッテンベルガー将軍を見て思うボクだった。
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