望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ

文字の大きさ
87 / 109
ベルフォール帝国編

交渉ではないんじゃないかな

しおりを挟む

 これでもかというばかりにある無数の顔面の傷・・。
 すっごい深い傷もあるんですけど。
 他にも左目が無いんだけどそれを隠そうとしていない。一応薬はあるんだし・・治療する事を考えないのかな。絶対不自由だと思う。
 でも残っている右目の圧が半端ない。なんと言えばいいんだろ。感情も無く命を奪ってきた鬼の目?みたいな・・。
 この人絶対堅気じゃないでしょ。
 更に威圧感を増加しているのがその体だよ。
 馬鹿でかい鎧がボクの視界を殆ど覆っている感じ。
 明らかに特注のばかでかさ。筋肉の塊すぎて普通の鎧じゃ着用できないからだろう。
 剥き出しに出ている前腕がその証拠だ。ボクの胴体はあるんじゃないか位太い。
 堅気云々じゃなくて・・・人間ですか?
 顔も赤らんでいるから赤鬼とか呼ばれているんじゃないか。
 これで騎士らしいのだけど。
 ま、顔で騎士はやらないか。
 師匠の配下の人達もどっちかというとそっち寄りだもんなあ。地位がなければ野盗と間違われる人もいるもんなあ。
 帝国に来てから帝国騎士のイメージが崩れまくりですよ。
  

 その武人が睨んでいるのは・・何故かボクなんだよなあ。
 なんでこんな人と話しをしないといけないんだよ。
 つくづく砦の責任者になってしまったのが悔やまれる。
 今回ボクが自由に動くための条件の一つだったから受けてしまったんだよなあ。
 やっぱし失敗だったかも。

 さっさと師匠を追いかけなかった事が悔やまれる。そしたらこれもクラウス爺に丸投げ・・・もとい・・任せられたもの。
 全く・・ルークとザシャが揉めなければ今頃馬上で移動中のはずだったんだ。あいつら覚えてろよ。

 ベルトラム公国軍との戦後交渉は続いているけど元々交渉系はクラウス爺の役目だったし。ボクが残っている理由はなかったんだよなあ。
 ・・こんちくしょう。

 ・・悔やんでもしかたないか。
 でも今のこの時間が無駄に思えて仕方ない。
 なのだけど・・ながーい沈黙はなんの意味があるのだろうか。

 相手の挨拶待ち状態なんだ。
 だから未だに床几に座ることすらできていない。これって普通に礼儀を欠く行為だよ・・ね。
 隣のクラウス爺の気配はいつも通りだ。ま、この程度では怒らないか。
 後ろに控えているクレアはちょっとやばい。表向きは淑女の微笑みをキープしているようだけど。落ち着けとハンドサインを送っているけど。頼む大人しくしてくれ。
 
 クラウス爺はゴホンとせき込む。よく見るといつもより厳しい目をしているかも。
 一応怒っているのね。最近違いがちょっと分かるようになってきた。

「軍使から用向きは聞きました。ですが我が大将と挨拶をしてからに致しませぬか?」

 クラウス爺から話をはじめる。
 赤鬼がやっと反応したようだ。置物かと思うくらい動かないんだもんな。
 ちらりとクラウス爺を見て軽く頷いた・・ようだ?
 直ぐに赤鬼の後ろに控えている従者が口を開く。
 何の連携?

 「我らはアウフレヒト公国の北部を統括する軍であります。司令官はこちらのバイヤール閣下であります。貴軍と交戦している軍に用件がございます」
 
 ん?
 ベルトラム公国と何かあったの?
 なんんか言葉足りない感じがする。そもそも交戦中の横槍は礼儀に反するんだぞ。
 まずはボク達とベルトラム公国軍の決着がついてからじゃないか。
 
「用件は伺いました。ですが我が軍はベルトラム公国軍に戦いを挑まれたのです。勝敗がつくまでお待ち頂くのが通例でございましょう」

 クラウス爺はまっとうな事を言う。うん、当たり前の事だ。
 戦じゃないけど勝手な横槍じゃん。赤鬼の様子を伺うとボクを睨んだままだ。何この人?言葉を知らないのか?
 ・・・なんかむかついてきたぞ。

 赤鬼の従者は自軍の主張を続ける。なんか嫌味な感じ。

 無駄な発言を省いて要約すると。
 どうやらベルトラム公国軍の指揮官と直接話し合いをしたいようだ。
 ボク達に対する要望は即時停戦だそうだ。話し合いでベルトラム公国軍を引き上げさせたいらしい。

 無茶苦茶だ。
 もう決着はついたんだ。ウチの大勝利だ。これは覆らない。
 その旨クラウス爺は返答するんだけど・・相手の態度は変わらない。

 なんなんだか・・もう。
 クレアもかなり怒っているな。顔に出してないだろうな。かなり心配だ。
 ハラハラしていると隣のクラウス爺がボクに着席する事を促してきた。
 おおう。ちょっとビックリ。
 座っていいの?かな?
 ならば座っておくか。ちょっと疲れたし。
 
「ゲルフエーネ砦を預かっている司令官はこの方だ。クリューガー公爵配下の騎士トラジェットである。この砦のハーゲン軍を率いておられる。最終決定権が与えられておる」

 クラウス爺は口調を変えてきたぞ。・・・やっぱり舐められていたんだよね。
 早くも赤鬼の従者がビビっている。この程度の圧で態度を変えるなんて小物か?
 反対に赤鬼は未だに置物だ。

 さてと。
 ボクからもなんか言わないといけなくなっちゃったぞ。

「我々は咎も無くベルトラム公国軍にいきなり宣戦されました。街道防衛のための砦を築くのはハーゲン軍に与えられた権限です。我々は権利を守るため防戦しました。昨日我々の勝利で決着しております」

 赤鬼従者の顔色がみるみる変わっていくぞ。シナリオと違うという反応か。なかなか感情豊かだな。

 ・・ふうん。
 ま、主張はしとくけどね。

「昨日から戦後交渉を続けています。もう間もなく暫定合意となるでしょう。その後で貴軍がベルトラム公国軍と話をされたら宜しいかと考えます。ああ、その中に貴軍の兵がいるやもしれませんが等しく賠償金は支払って頂きます」

 みるみる赤鬼従者の顔が赤く染まっていく。なんか面白い人だな。こんなに分かりやすくていいのか?ま、交渉官というより純粋な武人なのかもしれない。
 一方の赤鬼は未だに置物だ。
 ・・お?

「ふむ。では貴公に問おう。ベルトラム公国軍は我が領を無断で通過したのだ。あまつさえ兵まで無断で持っていきよった。賠償を優先してもらう権利があると思わぬか?」

 はい?
 なんだそれ。・・知らんよ。
 そんな事言わないけど。表情にも出さないけど。迂闊な態度で戦いに発展はさせない。
 ちょっとだけ笑みをこぼしておく。言うねぇ~という感じだ。

「我々に挑んできたのはベルトラム公国軍です。他公国の兵や盗賊が混じっていようが変わりません。当方の交渉が終了後に権利の主張をお願い致します」

 赤鬼達は睨んでくるけど流しておく。怖い顔ならウチの隊にも結構いる。口が悪いのもいるんだ。怖くもない。
 むしろムカついてくるだけだ。
 帝国の貴族は礼儀を軽視しているのかなぁ。
 でもハッテンベルガー将軍は礼儀正しい人だったよね。こっちが普通だと思いたい。
 何事も例外はあるという事か。どっちが例外かは分かんないけど。
 さておき、周知の事だと思うけど念を押しておくか。

「今回は特殊な事例でしょう。何しろ帝国の独立軍に公国軍が戦いを挑んできたのです。通常許されない事です。戦いは回避できなかったのでやむを得ず戦いました。結果、勝者である我々は相手の公王に直接賠償を請求します。今回は事前交渉の位置づけです。本交渉はその後になりますので相応の時間がかかるでしょう。その間は雑兵に至るまで拘束する事となります。解決するまでは例え皇帝であろうと介入はできないのが法です」

 一気に言ってやった。
 交渉したくても今すぐは無理って事だ。法を無視したごり押しなんだろうけど。ダメって事を強調しとく。脅かされても屈しない事を認識してもらう事だ。
 ガキだからって舐めんなよ。

 そもそもクリューガー公爵家の格は公国の公王より上だ。
 当然目の前の赤鬼はもっと下だ。
 当主である師匠からここの差配を一任されているんだから逆らいようも無いんだ。
 そうなんだけど・・赤鬼従者は抜剣しそうな勢いだぞ。あれ?もしかして分かってないのか?
 ボクの背後で不穏な空気を漏らしているクレアを手で抑えて赤鬼を見返す。睨みはしない。ボクの顔じゃ睨んで迫力がないからね。

 こちらの主張はした。
 なんらかの反応が欲しいんですけど。

 ・・・・・。
 
 本気で置物になっているつもり?
 それとも強制的に喧嘩という名の戦争にするのか?赤鬼従者はその気になっている雰囲気だ。
 

「成程。法か。小僧の言う通りだな。では我が軍の兵の返還はベルトラム公国に行おう」

 お?
 厳しい顔のままだけど承諾してくれたようだ。
 なんだちゃんと話通っているじゃん。
 拳で語るぞと言われたらどうしようと思ったけど。言葉が理解できる人でよかった。
 そんじゃ交渉は終わりだね。ちらりとクラウス爺を見るとニッコリ笑いながら頷いてくれた。・・・相変わらずきつい笑顔だ。泣く子も黙るとはこの事だ。

「御理解頂けて安堵致しました。今後については当方の交渉が終わりましたらご報告するという事で宜しいでしょうか?」
「うむ。その権についてはそちらのクレマー卿と詰めておきたい。何、確認事項だけだ。すぐに終わる」

 すんなりと進むかと思えばクラウス爺を残せと?どういう事?
 再びクラウス爺を見ると笑って頷いている。
 問題無いという事か。・・顔が怖いけど。

 ボクがいても問題無いと思うのだけど。
 もしかしたら二人は知り合いなのかもしれない。怖い顔同士で話が合うのだろうか。
 ならば邪魔しちゃ悪いか。

 アウフレヒト公国軍は殺気だっているし。あまり長居はしたくない。クレアの苛々も頂点に近いし。
 さっさと砦に戻ろう。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

幻獣を従える者

暇野無学
ファンタジー
 伯爵家を追放されただけでなく殺されそうになり、必死で逃げていたら大森林に迷う込んでしまった。足を踏み外して落ちた所に居たのは魔法を使う野獣。  魔力が多すぎて溢れ出し、魔法を自由に使えなくなっていた親子を助けたら懐かれてしまった。成り行きで幻獣の親子をテイムしたが、冒険者になり自由な生活を求めて旅を始めるつもりが何やら問題が多発。

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

処理中です...