もう一度、やり直せるなら

青サバ

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4章 実らせる為の一歩

4-4 もう1つの戦い

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 同じ日。

 駿がコートに立っている頃、果奈は小さく息を吐き、美生の家の前に立っていた。

 インターホンを押す。

 すぐに扉が開いた。

「果奈ちゃん、待ってたよ」

 家の中は温かい匂いがした。

「お邪魔します。遅い時間になって、ごめんね」

「大丈夫だよ。お父さんは仕事で今日居ないの」


 台所は既に、準備が整っていた。
 
「今日は肉巻きと、きんぴらね」


 “肉巻き”。

 胸の奥が、きゅっと縮む。

「ちゃんと教えるから大丈夫だよ」
「前回の弁当の写真、あったら見ても良い?」

 正直見たくない。

「見た目は良いけど、味がね……」

「ここまで出来ているのなら、上出来」
「駿君が驚くような肉巻きを作ろうね」
「まずは合わせ調味料から」


大さじ、小さじ。

 前よりも、ちゃんと見える。

 量る。混ぜる。味見。

 舌に広がる甘辛さ。


 ――大丈夫。

「合わせ調味料出来たよ」

「味見はした?」

「ちゃんとやったよ」
「分量通りにやったから、バッチリ」

「そしたら、具材を切っていくから準備するね」
「分かった」

 美生に見てもらいながら、具材を切る。

 アスパラの断面が瑞々しい。

「こんな感じで大丈夫?」
「うん、上手く切れているよ」


 アスパラガスを茹で上げ、肉を巻く。

 問題はここから
 
「後は焼くだけだね」

 頭にもう1つのトラウマが過ぎる。

「前回、焼く時、油の量が多すぎて、パニックになっちゃってね……」

「でも、焦がさずに出来たのだから、自信持って」

「それをお母さんが対処してくれて、実質お母さんが焼いたんだよね……

「今回は私が見てるから、安心して」

「うん」
 

フライパンに油を落とす。

 じわ、と光が広がる。

 
 火を入れる。


 肉巻きを置いた瞬間――

 パチッ。

 
 肩が跳ねる。

 油が弾ける。

 前と同じ音。


 一瞬、息が止まる。

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫。見てるから」

 美生の声は静かだった。

「分かった」


 深呼吸。

 
 逃げない。

 
 肉の色がゆっくり変わる。

 じゅう、と焼ける匂い。

 
 トングで返す。

 今度は、目を逸らさない。


 焼き目が、きれいにつく。

 火を弱め、合わせ調味料を回しかける。

 甘い香りが立ちのぼる。

 
 とろり、と絡む。

「……出来た」
 
「出来たね、果奈ちゃん」

「うん。ありがとう、美生」


 初めて調理するきんぴらもきちんと仕上げた。

 
 最後に美生が味噌汁を作り、全ての料理を完成させる。

「いただきます」
 
 肉巻きを一口。

 肉の旨みと、やわらかい甘さ。
 
 自然と、息がこぼれる。

「美味しい」

 美生も頷く。

「うん。これは自信持っていいよ」

 胸の奥が、静かに熱を持つ。


 帰り際、美生にお礼を言う。

「今日はほんとにありがとう」

「どういたしまして、今度またやろうね」

「うん。お邪魔しました。」

 玄関を開けると、雨が降っていた。

「え……」

 天気予報は晴れだったはずなのに。

「傘借りる?」

「お願い」


 傘を受け取り、外へ出る。

 冷たい雨が地面を打つ。


 それでも、さっきまで震えていた指は、もう震えていない。


 今度は、自分の手で焼いた。

 雨の中、小さく笑う。

 胸の奥だけが、あたたかかった。
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