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1章
永遠の誓いと海竜の祝福
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マウリの海を一望する丘の上の、母さんの眠るお墓の前で、レオリムとこの先もずっと一緒にいる約束を交わした。
うれしい。
心がそわそわと跳ねて、なんだかじっとしていられない気持ち。
何か。もう一つ、足りない感じがする。
もっと、レオリムと、繋がる何かがほしいな。
そうだ。
僕は、きょろきょろと周りを見渡した。
あった!
海を見晴らす丘の先で、少し早咲きのフィアルクスの花が海風に揺れている。
僕は、レオリムの手を引いて、そこまで行った。
はじまりの光の花を一輪手折る。祝福と、求愛の花。
白い小さな花は、本当に、光のよう。
僕は、その花びらにそっと唇を寄せて、そして、レオリムに向けて、両手で握った花を掲げた。
「レオリム・サンタナ、僕と、結婚、してください」
そうだよ。
そもそも、結婚の申し込みを待つ必要なんてなかった!
僕から申し込んだって、いいんだから!!
レオリムは、びっくりした顔をして、固まった。
ふふ、レオリムのびっくり顔!!
ごくん、と、レオリムの喉がなって、それから、じわじわと顔が赤くなっていくのを見て、僕の顔も熱くて今にも火が出そう。うう、プロポーズって結構恥ずかしい!!
レオ、早く答えて……!!
レオは、右手で口を覆い、左手で花を掲げた僕の手を下から包んだ。
「……けっこん。そうか、結婚。そうだな、うん、そうだった。…………一緒にいるには、そういう契約が大事なんだったな……」
覆った手の下で、なにやらもごもごと呟いて、レオリムの眉間に大きな皺が寄った。
あ、悔しい時の顔。
「あー。シーラ。その、俺……」
眉間の皺を元に戻すと、レオリムは、僕の手からフィアルクスの花を受け取って、その白い花びらに口付けた。
「シーラン・マウリ。愛しい我が半身。魂の伴侶として、永遠に共にあることを誓う」
レオリムの瞳の奥で、青い炎が情熱的に揺らめいた。
「はい。永遠に、誓います」
僕も、心を込めて、レオリムにそう言葉を返した。
僕たちの間で、フィアルクスの花が、小さく揺れて、眩い光を放った。
……これは、誓約の魔法? まだ教育が行き渡らず、文字を知らない人が多かった時代に良く使われた魔法……。
今でも、結婚式なんかで時々使われる、二人の誓い……。
僕は、とても厳かな気持ちになって、光る花を見詰めた。
それを見詰めるレオリムも、とても真摯な眼差しで。
レオリムは、光が収まると、いつかのマリーアの時みたいに、それを僕の髪に差し込んだ。
なんだか、もう、ほんとの結婚式みたいだね。
わくわくと、楽しい気分になってレオリムに抱き着けば、レオも笑いながら僕を抱き締めた。
やりたい事は、まだこれから見つける。
レオと一緒なら、きっといつでも幸せ。
二人で抱き合って、見つめ合って、くすくすと笑いながら、屋敷に戻ろうとしたその時だった。
『水の巫覡よ、誓いと旅立ちを祝福します』
海の方から、ふわりと温かい風が吹いて、頭の中に直接響く声がした。
びっくりして、慌てて海の方を見ると、波間に、船よりも大きな影が見えた。
マウリ家の船より、大きな、影。
「海竜……」
僕を守るように抱き締めたレオリムが、僕の耳元で、唸るように呟いた。
まさか。
あれが。
僕は、目を凝らして、波間に揺れる巨躯を見た。
丘の上と海面と、かなり距離があるけれど、僕たちを真っ直ぐ見詰めているのが分かる。長い顔、大きな口、大きな瞳。
ウミヘビのように長い体の先で、ゆらゆらと、尻尾が揺れて……その、なんというか、すごく大きいんだろうけど、遠くに在るせいか、大きな犬が懐いて尻尾を振っている……ような気がしちゃうんだけど……気のせいかな……?
波飛沫と日の光を受けて、青く煌めく鱗は、僕が知るどの生き物よりも美しく、神秘的だった。
『我が今も在るのは、そなたの母のおかげです。感謝と、祝福を』
え、なに? どういうこと? 僕の母さん?
海竜様は、空を向いて、鱗が青白く波打つ喉を晒した。
咆哮……なんだろうか。
海鳴りのような音が辺りに響いて、海と、樹々と、小さな白い花と、僕たちの身体を揺らした。
その音と共に、大きな魔法の気配が僕を包んで、だんだんと身体の中へ浸透していく。
清らかで、温かで、包み込むような優しい魔法の波動……。
「……ちっ」
ん? レオ、今舌打ちした?
優しい魔法の波動に、ぼうっとしていた僕の耳に届いた小さな音に、我に返った。
くるりと首を回してレオリムを見ると、何故か悔しそうな顔。
えっと…全然事態が呑み込めないけど、なんか、すごく、ありがたい事をされたよね?僕。レオはなんで舌打ち?
レオは、ぼそりと、俺だけのシーラなのに……と不機嫌そうにつぶやいた。
も、もしかして、海竜様の魔法が僕の中に入って、やきもち焼いてるの?!
横目でちらりと僕を見たレオリムは、海の方を向いて、顎をくい、と動かした。
慌てて海を見ると、海竜様が、海の中へ姿を消すところだった。
「あ……」
僕は、慌てて、海に向かって叫んだ。
「ありがとう、ございます……!!」
はぁぁぁと大きな溜息が、僕を抱き締めるレオリムの口元から漏れた。余計なことをって聴こえた気がするけど、気のせいだよね?
レオ、知ってると思うけど、海竜様は、マウリの海の守護竜だよ……!
ーーーーー
2023.11.13
海竜の言葉を修正しました。
(『誓いと』を追加)
うれしい。
心がそわそわと跳ねて、なんだかじっとしていられない気持ち。
何か。もう一つ、足りない感じがする。
もっと、レオリムと、繋がる何かがほしいな。
そうだ。
僕は、きょろきょろと周りを見渡した。
あった!
海を見晴らす丘の先で、少し早咲きのフィアルクスの花が海風に揺れている。
僕は、レオリムの手を引いて、そこまで行った。
はじまりの光の花を一輪手折る。祝福と、求愛の花。
白い小さな花は、本当に、光のよう。
僕は、その花びらにそっと唇を寄せて、そして、レオリムに向けて、両手で握った花を掲げた。
「レオリム・サンタナ、僕と、結婚、してください」
そうだよ。
そもそも、結婚の申し込みを待つ必要なんてなかった!
僕から申し込んだって、いいんだから!!
レオリムは、びっくりした顔をして、固まった。
ふふ、レオリムのびっくり顔!!
ごくん、と、レオリムの喉がなって、それから、じわじわと顔が赤くなっていくのを見て、僕の顔も熱くて今にも火が出そう。うう、プロポーズって結構恥ずかしい!!
レオ、早く答えて……!!
レオは、右手で口を覆い、左手で花を掲げた僕の手を下から包んだ。
「……けっこん。そうか、結婚。そうだな、うん、そうだった。…………一緒にいるには、そういう契約が大事なんだったな……」
覆った手の下で、なにやらもごもごと呟いて、レオリムの眉間に大きな皺が寄った。
あ、悔しい時の顔。
「あー。シーラ。その、俺……」
眉間の皺を元に戻すと、レオリムは、僕の手からフィアルクスの花を受け取って、その白い花びらに口付けた。
「シーラン・マウリ。愛しい我が半身。魂の伴侶として、永遠に共にあることを誓う」
レオリムの瞳の奥で、青い炎が情熱的に揺らめいた。
「はい。永遠に、誓います」
僕も、心を込めて、レオリムにそう言葉を返した。
僕たちの間で、フィアルクスの花が、小さく揺れて、眩い光を放った。
……これは、誓約の魔法? まだ教育が行き渡らず、文字を知らない人が多かった時代に良く使われた魔法……。
今でも、結婚式なんかで時々使われる、二人の誓い……。
僕は、とても厳かな気持ちになって、光る花を見詰めた。
それを見詰めるレオリムも、とても真摯な眼差しで。
レオリムは、光が収まると、いつかのマリーアの時みたいに、それを僕の髪に差し込んだ。
なんだか、もう、ほんとの結婚式みたいだね。
わくわくと、楽しい気分になってレオリムに抱き着けば、レオも笑いながら僕を抱き締めた。
やりたい事は、まだこれから見つける。
レオと一緒なら、きっといつでも幸せ。
二人で抱き合って、見つめ合って、くすくすと笑いながら、屋敷に戻ろうとしたその時だった。
『水の巫覡よ、誓いと旅立ちを祝福します』
海の方から、ふわりと温かい風が吹いて、頭の中に直接響く声がした。
びっくりして、慌てて海の方を見ると、波間に、船よりも大きな影が見えた。
マウリ家の船より、大きな、影。
「海竜……」
僕を守るように抱き締めたレオリムが、僕の耳元で、唸るように呟いた。
まさか。
あれが。
僕は、目を凝らして、波間に揺れる巨躯を見た。
丘の上と海面と、かなり距離があるけれど、僕たちを真っ直ぐ見詰めているのが分かる。長い顔、大きな口、大きな瞳。
ウミヘビのように長い体の先で、ゆらゆらと、尻尾が揺れて……その、なんというか、すごく大きいんだろうけど、遠くに在るせいか、大きな犬が懐いて尻尾を振っている……ような気がしちゃうんだけど……気のせいかな……?
波飛沫と日の光を受けて、青く煌めく鱗は、僕が知るどの生き物よりも美しく、神秘的だった。
『我が今も在るのは、そなたの母のおかげです。感謝と、祝福を』
え、なに? どういうこと? 僕の母さん?
海竜様は、空を向いて、鱗が青白く波打つ喉を晒した。
咆哮……なんだろうか。
海鳴りのような音が辺りに響いて、海と、樹々と、小さな白い花と、僕たちの身体を揺らした。
その音と共に、大きな魔法の気配が僕を包んで、だんだんと身体の中へ浸透していく。
清らかで、温かで、包み込むような優しい魔法の波動……。
「……ちっ」
ん? レオ、今舌打ちした?
優しい魔法の波動に、ぼうっとしていた僕の耳に届いた小さな音に、我に返った。
くるりと首を回してレオリムを見ると、何故か悔しそうな顔。
えっと…全然事態が呑み込めないけど、なんか、すごく、ありがたい事をされたよね?僕。レオはなんで舌打ち?
レオは、ぼそりと、俺だけのシーラなのに……と不機嫌そうにつぶやいた。
も、もしかして、海竜様の魔法が僕の中に入って、やきもち焼いてるの?!
横目でちらりと僕を見たレオリムは、海の方を向いて、顎をくい、と動かした。
慌てて海を見ると、海竜様が、海の中へ姿を消すところだった。
「あ……」
僕は、慌てて、海に向かって叫んだ。
「ありがとう、ございます……!!」
はぁぁぁと大きな溜息が、僕を抱き締めるレオリムの口元から漏れた。余計なことをって聴こえた気がするけど、気のせいだよね?
レオ、知ってると思うけど、海竜様は、マウリの海の守護竜だよ……!
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2023.11.13
海竜の言葉を修正しました。
(『誓いと』を追加)
応援ありがとうございます!
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