水の巫覡と炎の天人は世界の音を聴く

井幸ミキ

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3章

王都の市場・1

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 王都の中で一番大きくて盛況だという大通市場は、中街大通りの南口となる、大通広場にある。王都南の街門と貴族門を結ぶ街道の真ん中辺り。
 王都は、王城のある貴族街を中心に、中街、外街と外側へ向かって広がっている。東西南北に区画が分かれていて、大まかに、北は職人が多くいる工業地区、南は市場を中心とした商業地区、東西は居住区に分かれていると聞いた。
 大通広場は、真ん中を街道が貫いていて、中心には円形の水場がある。街道を含めた広場を挟む形で、たくさんの屋台や天幕が並んでいる。
 多くの人で賑わっていて、マウリの港の、競りの声が飛び交う市場の活気とは少し違うけど、懐かしくなった。

「早朝はもっと賑わっていると思いますよ」

 マーチナーさんが、さっそく、飲み物を買ってくれた。皮ごと林檎の搾りたてジュース。甘味と酸味がちょうど良くて、中街大通りを買い物をしながら歩いて乾いた喉を優しく潤してくれた。

「おいしいね」
「ああ」

 レオリムを見ると、一気に飲み干していて、手元のコップはもう空だった。おいしいものは、無言で飲んだり食べたりするもんね、レオ。
 レオリムが、いい匂いを漂わせる屋台の前で足を止めた。

「うまそうだな」
「はいはい、レオリム様、では、あちらのお席でお待ちください。シーラン様も召し上がりますよね」
「お願いします。マーチナーさん達も、好きなものを食べてくださいね」
「えぇ、ありがとうございます」

 広場の街道に近い場所に、座って食事の出来る席が設置されていて、エイプハラフさんに、こちらで待ちましょう、と言われて移動する。

「おみやげは何がいいかな?」

 市場を眺めながら、レオリムと、良さそうなお店を探す。小物のお店、野菜やお肉が山と積まれた食べ物のお店、何を売っているかよく分からないお店、たくさんあって目移りしてしまう。

「食べ物がいいんじゃないか? あの店のなんて、良さそうだ」

 レオリムが、マーチナーさんが並ぶ屋台……いや、その隣の、大きめの天幕を張ったお店の軒先に下がる、豚の丸焼きや、腸詰肉を見ながら言う。平台には、精肉や燻製肉、乾燥肉、鳥の丸焼きなんかも並んでる。

「……そうだねぇ。普段みんな、お魚ばっかりだもんね。お肉、喜んでくれるかも」

 ほんとは、おみやげというより、自分が食べたい、だね、レオ?
 でも、乾燥肉なら日持ちもするし、良さそう。

「シーラン様、あちらの店の干し果物はいかがですか?」
「わぁ、それもいいですね」

 エイプハラフさんが、指差した先にあるお店は、さっき林檎のジュースを買ったのとは別の果物屋だった。いくつも並んだ木箱に、新鮮な果物と、干し果物がぎゅうぎゅうに詰められている。

「ちび達も喜びそうだな」
「だね!」

「お待たせしました」

 マーチナーさんが戻ってきて、木盆を角卓に置いた。ひき肉のパイ包み焼きと、温かいスープが二つずつ。

「マーチナーさん達の分は?」
「我々は任務中です。気にせずお召し上がりください」
「……はい、いただきます」

 申し訳ない気持ちになるけど、無理に勧めるのは多分、迷惑になってしまうんだろうな、と思う。
 マーチナーさんもエイプハラフさんも、にこにこと、さぁ、どうぞ、ごゆっくりと勧めてくれる。レオリムを見ると、こくりと頷いたので、遠慮なく、食べる事にした。

「……! おいしい!!」
「……うまい」

 サクサクのパイ生地と、中に包まれた粗めのひき肉を口に入れると、じゅわと肉汁のあふれるお肉と、パリパリとしたパイ生地が口の中で絡んで、うまみが口の中に広がる。
 付け合わせの玉菜の酢漬けが良いアクセント。スープには、豆がたくさん入ってる。

「本当にうまそうですねぇ。帰り際に、持ち帰り用を買ってもよろしいですか」
「ぜひ、そうしてください!」

 レオリムは、あっという間に食べ終わると、マーチナーさんから硬貨をもらって、串にささった腸詰肉を買って来た。僕にもほしいか訊いてくれたけど、断った。
 僕とレオ、そんなに身体の大きさは違わないんだけどな。どこに入るんだろう。腸詰肉は、くるくるの渦巻きになっていて、一口もらったけどね。

 食べ終わると、片付けをして、それから、まずは乾燥肉を買った。そのまま食べても良いし、スープやシチューの煮込み料理に使ってもいいって。港の奥さん達へ渡してもらおう。番屋で作る鍋に入れてもいいんじゃないかな。
 次は、果物屋さん。お店の人が、気前の良いおかみさんで、味見を勧めてくれて、干し果物だけじゃなくて、もぎたての果物もいくつも味見させてもらった。おみやげ用には、3種類の干し林檎と、干し杏、2種類の干し葡萄を包んでもらった。
 おみやげの他にも、自分達の分も結構買い込む。僕は気に入った干し果物をいくつか。レオリムは、乾燥肉を。今も、味見にもらった細切りの乾燥肉を噛んでいる。塩っ気が利いてて、おいしいよね、それ。

 果物屋のおかみさんは、買ったものを包みながら、東通り側にあるお菓子屋も覗いてごらん、と勧めてくれた。妹さんがやっているお店で、甘い物が好きなら、そっちもオススメだよって。
 受け取りを、迎えに来た馬車と一緒に来た従僕さんに任せて見に行くと、確かに、美味しそうなお菓子がたくさん並んでいた。焼き菓子に、果物のパイ、それに、きらきらした砂糖菓子。

「きれい」

 色とりどりの小さな粒の砂糖菓子は、玉だったり、小石みたいだったり、形も不揃いで、まるで、魔石の屑石みたいだった。

「これは、精霊糖だよ」

 果物屋のおかみさんとよく似た、お菓子屋のおかみさんが、はい、と精霊糖と呼んだ砂糖菓子を何粒か、僕たちの手の平に乗せてくれた。砂糖菓子はどこにでもあるけど、色付きのものはあまり見た事がなかった。
 スーリアの、甘い物好きの学者が作ったらしくてね、とおかみさんは、今度は焼き菓子を差し出しながら教えてくれた。おかみさんの息子さんが、その学者さんから作り方を聞いて、それを教わった旦那さんが、これを作ってお店の商品にしたんだって。

「うちの倅、あたしと旦那の子と思えないくらい、出来が良くてねぇ、スーリアの学園に入って、そのまま向こうで学者になるって、帰って来やしないのよ。店の後継ぎはどうするんだいって言ったら、代わりにこの作り方を教えるからって言うんだよ。まったくねぇ。ま、これを気に入った姪っ子が、継いでくれるって言うから、とんとんかしらね!」 

 もちろんこれも、おみやげに決定!
 家族の分と、友達の分と、自分たちの分。

「シーラ、あーん」

 レオリムは、おかみさんからもらった赤い精霊糖をひとつ摘まんで、じっと見た後、僕の口に放り込んだ。

「魔石を食べるみたいで、変な気分だな」

 僕も、水色の精霊糖を、レオリムの口へ運んだ。

「あまいな」
「うん」

 手を掴まれて、指先に、ちゅ、と唇が当たる。

「あらあら、仲良いのねぇ」

 ……フード被ってて、良かった!
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