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4章
魔法の遊び
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ほぅほぅという夜鳥の声が、森の奥から泉の上を渡って野営地まで届く。森の影も濃さを増し、夜の深まりを感じる。
今夜の寝床となる馬車や天幕は、焚火を囲っていて、幾人かはもう中へ入って休んでいるけど、天幕の側で作業をしている騎士さんや、従者さんもまだいるし、火の側には交代で番をする騎士さんがいる。
二人だけ、立派な寝台で眠るのはなんだか気恥ずかしくて、レオリムが馬車の扉を開けても、乗り込めずにいた。
そんな僕に気付いて、レオリムは、馬車の中から敷布と肩掛けを取ると、扉を締めた。
「少し、泉の方へ行こうか?」
レオリムが差し出した手を取って、泉へ向かった。
レオリムが敷いた敷布の上に一緒に座る。僕は、レオリムが敷布を敷く時に受け取った肩掛けを、レオリムと僕の頭の上から被せた。
外套を着ているけど、夜も更けてきていて、露出している肌が寒い。泉の上を風が吹くと、ぴり、と頬が引き攣った。
「夜は冷えるね」
僕がそう言うと、レオリムは、僕の手を取って、魔法を流して温めてくれた。すぐにぽかぽかと温かい空気に包まれる。
「ありがと」
レオリムの肩に頭を乗せると、首を巡らせて、おでこの少し上にキスをされた。
肩掛けに包まれて、目の前には夜闇の中で水面を揺らす泉と深い森だけ。背後から、時折人の気配はするけれど、パチパチと跳ねる焚火の音と、樹々の葉音と夜鳥の声の方が大きいほど。たまに、獣の遠吠え。
まるで、二人だけの世界のよう。
ぎゅ、とレオリムに身を寄せる。
視線を下げると、重ねた手が目に入る。レオリムの左手の中指が闇色に光る。お揃いの指輪の輝きは、夜の泉と同じ色。
「明日には、スーリアだね」
「あぁ」
左手を伸ばして、レオリムの指輪を撫でた。
「こういうの、僕も、出来るようになりたい」
ラドゥ様が、この指輪を造ってくれた時の様子を思い出す。壮大で、美しい魔法だった。
レオリムの右手が伸びてきて、僕の左手の指輪を上から撫でた。
「シーラなら、もっとすごい魔法が使えるようになるよ」
「うん。レオも」
僕たちは、久しぶりに、魔法の遊びを始めた。僕たちが時々する魔法の遊び。魔法で火球や水球を作って、その形を変える遊び。
手の平の上に魔力を集めて、魔力の塊を作る。僕は水の魔法が得意だから、水球を。
そこに頭の中で描いたイメージを注ぐ。
僕は、今まで、魚をイメージすることが多かったんだけど、精霊湖で出会った水の精霊を思い浮かべることにした。水の球はゆらゆらと揺れて、やがて小さな人の形になった。透き通った身体に、水の衣を纏った、水の精霊が、僕の手の平の上で、楽しそうに踊り出した。月色の衣は再現できないし、本物の水の精霊みたいにおしゃべりはしないけど。ただ、くるくると踊るだけ。
「シーラ……」
可愛く出来て満足していると、レオリムがむすりと僕の名前を呼んだ。レオリムを見ると、フクザツそうな顔。
「レオも仲良しになったでしょ?」
レオリムは、黙って僕の作った水の精霊もどきに手を伸ばした。手を開いて握ろうとして、そのまま精霊もどきの水の塊の中で拳になる。
レオリムの手が触れても、形を保っていられたので、僕はさらに満足した。触れられるとイメージが崩れて、水球が崩れたりするんだけど、だいじょうぶだったから。
レオリムは、水の精霊もどきの中で、何度も手を開いたり握った。
「本物そっくりだな」
今度は、感心したような声。へへ。うまくできたでしょ。
「レオは何作る?」
「そうだなぁ……」
レオリムは、手を引っ込めながら、う~んと唸った。
濡れた手の平を上に向けて、集中を始めると、すぐに火球が現れる。
火先が揺れて、渦を巻き、ぶわりと膨らんで、しゅっと縮んで形を作った。ぴんぴんと伸びる二つの長い耳。丸い尻尾。
「兎だ!」
「うん……」
レオリムは、兎の形になった火球を集中して見つめたまま。
炎の兎は、耳をぴくぴくと何度か動かすと、じゅっと消えてしまった。
「だめだ。上手く動かせない」
「そんなことないよ、かわいかったよ!」
レオリムは、火球を作るのは得意だけど、形を変えて維持をするのはあまり得意じゃない。特に魚は、水の魔法とは相性がいいみたいだけど、炎とは相性が悪いみたい。魚は水の中の生き物というイメージが、炎で形を作る邪魔をするのかも、と、動物や虫で試すことが多かった。
「でも、兎も、炎ってイメージじゃないよなぁ」
「そう? かわいかったよ」
「もっと強そうなのがいいと思うんだ」
「やっぱり、炎の鳥が一番合うんじゃない?」
レオリムは、そうだなぁと言って、もう一度火球を作って、今度は炎の鳥を作った。今までレオリムが作った中で、一番安定しているのが、炎の鳥。
レオリムは、炎の鳥を、泉の方へ向けて放った。尾をたなびかせながら飛んで、泉の中ほどですっと消えた。
僕も、水の精霊もどきを、泉の方へ放つ。踊りながら、ぱしゃっと泉の中へ溶けて消えた。
「虎とか、狼はどうかな」
「強そうけど、本物見たことないからむずかしいんだよね」
「それに、手の平に乗るくらいだと、うまくいっても迫力ないよな……」
それは確かに、かわいいね。
今夜の寝床となる馬車や天幕は、焚火を囲っていて、幾人かはもう中へ入って休んでいるけど、天幕の側で作業をしている騎士さんや、従者さんもまだいるし、火の側には交代で番をする騎士さんがいる。
二人だけ、立派な寝台で眠るのはなんだか気恥ずかしくて、レオリムが馬車の扉を開けても、乗り込めずにいた。
そんな僕に気付いて、レオリムは、馬車の中から敷布と肩掛けを取ると、扉を締めた。
「少し、泉の方へ行こうか?」
レオリムが差し出した手を取って、泉へ向かった。
レオリムが敷いた敷布の上に一緒に座る。僕は、レオリムが敷布を敷く時に受け取った肩掛けを、レオリムと僕の頭の上から被せた。
外套を着ているけど、夜も更けてきていて、露出している肌が寒い。泉の上を風が吹くと、ぴり、と頬が引き攣った。
「夜は冷えるね」
僕がそう言うと、レオリムは、僕の手を取って、魔法を流して温めてくれた。すぐにぽかぽかと温かい空気に包まれる。
「ありがと」
レオリムの肩に頭を乗せると、首を巡らせて、おでこの少し上にキスをされた。
肩掛けに包まれて、目の前には夜闇の中で水面を揺らす泉と深い森だけ。背後から、時折人の気配はするけれど、パチパチと跳ねる焚火の音と、樹々の葉音と夜鳥の声の方が大きいほど。たまに、獣の遠吠え。
まるで、二人だけの世界のよう。
ぎゅ、とレオリムに身を寄せる。
視線を下げると、重ねた手が目に入る。レオリムの左手の中指が闇色に光る。お揃いの指輪の輝きは、夜の泉と同じ色。
「明日には、スーリアだね」
「あぁ」
左手を伸ばして、レオリムの指輪を撫でた。
「こういうの、僕も、出来るようになりたい」
ラドゥ様が、この指輪を造ってくれた時の様子を思い出す。壮大で、美しい魔法だった。
レオリムの右手が伸びてきて、僕の左手の指輪を上から撫でた。
「シーラなら、もっとすごい魔法が使えるようになるよ」
「うん。レオも」
僕たちは、久しぶりに、魔法の遊びを始めた。僕たちが時々する魔法の遊び。魔法で火球や水球を作って、その形を変える遊び。
手の平の上に魔力を集めて、魔力の塊を作る。僕は水の魔法が得意だから、水球を。
そこに頭の中で描いたイメージを注ぐ。
僕は、今まで、魚をイメージすることが多かったんだけど、精霊湖で出会った水の精霊を思い浮かべることにした。水の球はゆらゆらと揺れて、やがて小さな人の形になった。透き通った身体に、水の衣を纏った、水の精霊が、僕の手の平の上で、楽しそうに踊り出した。月色の衣は再現できないし、本物の水の精霊みたいにおしゃべりはしないけど。ただ、くるくると踊るだけ。
「シーラ……」
可愛く出来て満足していると、レオリムがむすりと僕の名前を呼んだ。レオリムを見ると、フクザツそうな顔。
「レオも仲良しになったでしょ?」
レオリムは、黙って僕の作った水の精霊もどきに手を伸ばした。手を開いて握ろうとして、そのまま精霊もどきの水の塊の中で拳になる。
レオリムの手が触れても、形を保っていられたので、僕はさらに満足した。触れられるとイメージが崩れて、水球が崩れたりするんだけど、だいじょうぶだったから。
レオリムは、水の精霊もどきの中で、何度も手を開いたり握った。
「本物そっくりだな」
今度は、感心したような声。へへ。うまくできたでしょ。
「レオは何作る?」
「そうだなぁ……」
レオリムは、手を引っ込めながら、う~んと唸った。
濡れた手の平を上に向けて、集中を始めると、すぐに火球が現れる。
火先が揺れて、渦を巻き、ぶわりと膨らんで、しゅっと縮んで形を作った。ぴんぴんと伸びる二つの長い耳。丸い尻尾。
「兎だ!」
「うん……」
レオリムは、兎の形になった火球を集中して見つめたまま。
炎の兎は、耳をぴくぴくと何度か動かすと、じゅっと消えてしまった。
「だめだ。上手く動かせない」
「そんなことないよ、かわいかったよ!」
レオリムは、火球を作るのは得意だけど、形を変えて維持をするのはあまり得意じゃない。特に魚は、水の魔法とは相性がいいみたいだけど、炎とは相性が悪いみたい。魚は水の中の生き物というイメージが、炎で形を作る邪魔をするのかも、と、動物や虫で試すことが多かった。
「でも、兎も、炎ってイメージじゃないよなぁ」
「そう? かわいかったよ」
「もっと強そうなのがいいと思うんだ」
「やっぱり、炎の鳥が一番合うんじゃない?」
レオリムは、そうだなぁと言って、もう一度火球を作って、今度は炎の鳥を作った。今までレオリムが作った中で、一番安定しているのが、炎の鳥。
レオリムは、炎の鳥を、泉の方へ向けて放った。尾をたなびかせながら飛んで、泉の中ほどですっと消えた。
僕も、水の精霊もどきを、泉の方へ放つ。踊りながら、ぱしゃっと泉の中へ溶けて消えた。
「虎とか、狼はどうかな」
「強そうけど、本物見たことないからむずかしいんだよね」
「それに、手の平に乗るくらいだと、うまくいっても迫力ないよな……」
それは確かに、かわいいね。
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