天使サマみたいな死神サマに出会ったら魂抜けて、魔界で悪魔に一目惚れされた元ニンゲンのボクの話

井幸ミキ

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2章

ルがおそろい

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 目を大きく開いたまま、アレクシノワールは、ゆっくりと口を閉じ、何度かぱくぱくと口を動かした。
 黒目が上下左右、忙しなく動き、シャルルを見据えてぴたりと止まると、大きく深呼吸をした。
 サンドイッチを皿に乗せて、顔も身体もシャルルに向け、手を膝に置いて口を開き、きっぱりと言った。

「そんなこと、思ってない」

 シャルルは、アレクシノワールの言葉を静かに待っていて、ようやく発せられた言葉を聞いて、こくんと頷いた。
 口にしてから、そうだろうとは思ったのだ。アレクシノワールに、見当違いの事を訊いてしまったと、少し後悔していた。アレクシノワールに嫌われたらイヤだな、と。

「シャルユエル、どうしてそう思ったんだ?」

 アレクシノワールの眉間にシワが寄り、眉尻がしゅんと下がっている。瞳がゆらゆらと揺れて見えた。
 シャルルは、視線をアレクシノワールの膝の上に向けた。ぎゅ、と強く握られた拳の先が、少し白い。
 シャルルは、ゆっくりと口を開いた。

「……あのね。アレクシノワールくん、ボクがほかの子とお話してると、ちょっと怖いお顔するの」

 だから、と続けようとしたシャルルの目の前で、アレクシノワールの手の上に、ぽとんと滴が落ちた。
 ぽと。
 もうひとつ。
 顔を上げて、シャルルは、はっと息を呑んだ。
 大きく見開かれたアレクシノワールの瞳から、透明な滴が次々湧き上がり、零れていく。

「あっ……アレクシノワールくん?」

 アレクシノワールは、目元をぐしぐしと拭った。

「ご、ごめん……! シャル…………お、オレ、そんなつもり、ぜ、全然なくて……!!」

 ぐすぐすと鼻を啜りながら、絞り出すようにアレクシノワールは謝る。
 褐色の肌が濃い。真っ赤なお顔。

 シャルルの背後で、ザワザワと空気が揺らぐ。クラスメイトが遠巻きに息を潜めて二人を見ている。
 シャルルは、思わず立ち上がってアレクシノワールの頭を抱き締めた。

「!!」

 アレクシノワールは、シャルルの胸に額を当てて、うう~と唸る。小さくごめんと呟きながら。

「……うん」

 シャルルは、リリアントレーネがしてくれるみたいに、アレクシノワールの頭をぽんぽんと叩いた。

 だいじょうぶ。だいじょうぶ。

「シャルゥ……き、きらいにならないで……っ」

 ひっひっと、声を震わせながら聞こえてきた言葉に、シャルルは飛び上がるくらいびっくりした。
 そんな事、ひとつも思わなかった。

「なるわけないよっ」

 慌てて頭を離して、アレクシノワールの顔を覗き込んだ。

「アレクシノワールくんは、ボクの大事なおともだちだもの。きらいになるわけないよ!」
「……ほんと?」
「うん」
「ぜったい?」
「うん。ぜったい」
「シャルゥ……」

 アレクシノワールは、シャルルに抱き着いて、ぎゅぎゅ、とする。
 シャルルは、背中をとんとんと叩いた。

「アレクシノワールくん、ボク、みんなと仲良くしたいの」
「……うん」
「みんなともお話、させてくれる?」
「うん。じゃましてごめん。もうしない」

 よかった、とシャルルはほっとした。
 アレクシノワールは、わざとではなかったようだし、これからは気を付けてくれるだろう。

 あ。

「あのね」

 これは言っておかないと。

「ボク、アレクシノワールくんとも、たくさん、いっぱい仲良くしたいの」

 アレクシノワールは、ガバリと顔を上げた。

「一番?!」

 シャルルは、ぱちぱちと瞬きした。
 一番と言ったわけではないけど。
 でも、そういうことかな? と思って、うん、と頷いた。

 アレクシノワールは、太陽みたいに笑った。
 その眩しい笑顔は、シャルルの心をたくさん明るくしてくれる。

「一番の、おともだち」

 アレクシノワールの笑顔は、さらにぱぁっと輝いた。

「それじゃあさ!」

 アレクシノワールは、ぎゅ、とシャルルの手を握った。

「シャル、オレのこと、アルって呼んで! オレ、シャルって呼ぶから!」

 キラキラと、黒い瞳が宝石みたいに輝いている。
 シャルルは、くすっと笑った。もう呼んでる、とか。“それじゃあ”と“アルと呼んで”の繋がりが、シャルルには分からなくて、でもアレクシノワールの勢いに、それが正解みたいに思えて、おもしろかったから。

「アル、くん」
「そう! シャルとアル。“ル”がおそろい!」

 おそろい。

 それは、とっても素敵な気がした。

「アルくん」
「シャル!」

 アレクシノワールとシャルルは、顔を見合わせて笑った。

 シャルルの背後では、パチパチと小さな拍手が起こっていた。 
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