エルフセンパイ

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第2話 エルフ先輩

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 僕は、エルフさんの重い荷物を担いで、その後とをついていった。
 エルフさんは迷いもなく森の中を進んでいく。
 僕には同じに見える景色も、エルフさんには、ちゃんと違いがわかるらしい。
 まったく頼もしい。さすが森の種族エルフ!
「しかしこの荷物、重いですねえ。 いったい何が入っているんですか?」
「森で採取した薬草とか貴重な素材とかだよ。今日はいつもより順調に採れてね。もっと採ろうと、ふだんは行かないところまで分け入ってみたら、キミを見つけたわけだ」

 つまり、エルフさんのちょっとした気まぐれのお陰で、僕はあの、マンドラキという怪物に食われずにすんだんだな。

「でも、よくこんな深い森の中を迷わずに歩けるもんですね。僕にはずっと同じところを歩いているようにしか見えませんよ」
「うーん、やっぱりキミもそう思うか?」
 エルフさんは急に立ち止まった。
「えっ?」
「ごめん、なんか道に迷ったみたいだ」
「てへ っ」
 エルフさんは、そう言って僕に優しく微笑んだ。


 その後、森の中を5時間ほど歩き続けた。
 そして、凶暴なマンドラキにも出会う事なく、なんとか森を抜けることができた。
 エルフさんはけろっとしているが、僕は重い荷物を背負っていたこともあって、もうクタクタになっていた。
「悪かったな人間。あの森から出さえすれば、それほど危険もないだろう。さあ、少し休んでいこうか」
 小さな川のそばで、僕らは休息をとることにした。

 僕は少し大きめな石を見つけると、そこに座り込む。エルフさんも河原にあった流木に座った。
 頬にあたる風が少し心地いい。 それはエルフさんも同じだったらしく、無表情だった顔が、少し和らいでいるように見える。

「あの……」
「んっ? なんだい?」
「エルフさんの名前は何というんですか?」
「ボクの名前?」
「ええ、なんかエルフさんと呼び続けるのもあれなんで」
「ボクの名前は……」
「はい」
「アグラエル・クラエット・キリル・ハム・クアッパ・ヌードラル・シオ・アジスキ・オーセンリョ・コー・ナーマ・ブイール・グビット・ノームタロガット、だ」
「なっ、長いですね」
「何を言ってる。こっちの世界ではこれが普通だぞ?」
「そうなんですか?」
 予想外の異世界の常識だった。
「そういうキミこそ名前は何という?」
「茨城 亮平と言います」
「みじかっ!」
「いや僕の世界ではこのくらいが普通です!」
「へえーそうなのか? 変わってるな。それになんかキモい響きだし……」
「なんでっ!」
 エルフさんは表情を変えずにポツリと言う。
 うーん、異世界と文化の違いのせいなのか、エルフという種族のせいなのか、いろいろと価値観や物事の捉え方に違いがあるのかもしれない。なんかこの先が不安になってくる。

「あの……エルフさんの名前は、僕のような別の世界から来た人間には、ちょっと難しいというか、長すぎるので、略称みたいなもので呼んでもいいですか?」
 エルフさんは一瞬、戸惑うような顔をしたが、すぐにもとのポーカーフェイスに戻った。
「うーん……そうだな、言いにくいなら、キミの世界に合わせた言い方でいいよ。ボクの事を呼んでいるのだとボクが認識すればいいだけの話だからね。でっ、どんな呼び方にするんだい?」
「そうですねえ、えーと、たとえば、エルフ……先輩とか……エルフセンパイとかどうですか?」
「ふむ、エルフはわかるが、そのセンパイとはどんな意味なんだい?」
「えーと……先輩というのは、相手につける尊敬を込めた敬称のようなものの一種です」
「へえ……」
「年上の人や自分より経験の豊富な人にたいしてつけるものですね」
「なるほど、先輩か……まあいい。とりあえずそれでいいよ」
 エルフセンパイは納得してくれたようだ。
「じゃあ、ボクもお前の事を、ドレイ・リョーヘイと呼ぶ事にするよ」
 ん? ドレイ……?
「あの……聞きたいんですけど、そのドレイというのは、それはこちらの世界の敬称か何かですか?」
「どうした? なにか気になるのかい?」
「あっ、いや、奴隷って僕の世界ではあまりいい言葉ではないので」
「そうか、世界が変わるといろいろあるのだな」
「そうですね、で、どんな意味なんですか?」
「奴隷というのは、他人の所有物として労働を強制され売買される人間の……」
「その奴隷かよ!」
「あっ、そういえばこれ、キミたちの世界の言葉だぞ? しらないの?」
「知ってます! 知ってますからこそ傷ついてます!」
「えっ? なに? なんかおかしい?」
「おかしいです! おかしいことしかありません!」
「だってボクの重い荷物を運んでるし……」
「これは助けてもらったお礼です!」
「姿もしょぼいし……」
「それは関係ないじゃないですか!」
「うーん、人間って気難しいなあ」
 いやエルフがデリカシーなさすぎでしょ!(言わないけど)
 こうして長ったらしいエルフの名前は覚えきれないので、エルフセンパイと呼ぶ事になった。

 そして僕の名は奴隷……は、さすがにやめてもらって、ふつうに亮平と呼んでもらう事にした。
 それから、短い休憩を終えると再び歩き始めた。
 でも、僕はあまり休んだ気がしなかった。はあ……なんでだろう?

 エルフ先輩によると、この異世界は、僕の世界の中世ヨーロッパに似ているのだという。
「超カンタンに言うと、ファンタジーRPGの世界に似てるらしいぞ。
 RPGなんのことか知らんけど」
 どうやらエルフ先輩は僕とは別の、異世界に飛ばされて来た人間たちと交流があるらしい。
 だが、エルフ先輩自身は、言葉としては覚えていても、意味や内容まではよくわかっていないようだ。
「あと、なーろっぱ、とかにも似てると言ってたな。
 なーろっぱ、なんのことか知らんけど」
「そうですよね」
「キミたちのように、異世界から来た人間は、とにかくこの世界をそう感じるらしい。
 だからキミのようにこっちに来て間もない人間に出会ったら、ここは、RPGに似ている世界だと説明するようにしている。そうすると何故か皆んな、驚くくらいなんの疑問も持たずに納得するんだよ」
「……でしょうね」

「しかも異世界だ異世界だと言って喜びまくる。
 こっちからしたらお前らの世界の方が異世界だっつーの。
 それみるたびに、なんだかなーって思ってしまう」
「そ、そうですか……なんか浮かれた連中が多くてすみません」


「そしてRPGについてボクが彼らに質問すると、ドラクエとかダンジョンズアンドドラゴンズとかドラゴンボールとか龍が如くがどうのこうのとか言ってたなぁ」
 間違った情報が少し混じっているとは思うが、
 ともかく、僕より先に異世界に来た人たちが大勢いるようだ。
 だからエルフ先輩は、僕みたいな人間に遭遇してもあまり驚くこともなく受けいれているのかもしれない。

 それともっと重要な情報は、そんなに大勢この異世界に飛ばされた人間がいるのなら、その人たちに助けてもらえる可能性があるって事だ。



 その後も、道すがら話を聞いていると、エルフ先輩は、森や山で薬草を採って薬を作る事を仕事にしているのだと教えてくれた。
 そしてたまに冒険者たちのダンジョン探索に付き合って小銭を稼いでいるという。

 それを聞いた僕は、冒険者や、ダンジョンって本当にあるんだと、ちょっと感動する。


 それからさらに数十分ほど歩いた頃、エルフ先輩は、立ち止まって道の先を指さした。
「ああほら、見えてきた。
 あの丘の上にあるのがボクの家だ」
 見ると大きい城のような建物が見えた。
 思っていたより、でかい……。
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