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3・奇妙な誘い
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リアムは彼女を見て驚いた。
正確には彼女の顔を見て驚いていた。
「エマ……」
その言葉に相手は眉をしかめる。
「ああ、ごめん。知り合いに似ていたんだ」
それはリアムにとって重要な女性(ひと)だった。人生において最も重要だったといっていい。
「で……なんて言ったんだい? よく聞いてなかった」
「仕事をしてみないかって誘ったんだけど」
「俺、失業者に見える?」
「この時間、いつもどこかのパブでみかけたから」
「こいつは驚いた。君は俺のストーカーかい?」
「私もよく呑み歩くから」
「でもそういう時間シフトの仕事だとか思わないのかい?」
「そうね……そうかもしれない。でも一週間以上同じ時間に見かけるとちょっと気になるわね」
そう言われてリアムは、自分がパブに入り浸るのがいつのまにかルーティーンになっているのを自覚した。
「ああ、君の推理どおり今は仕事はしてないし、するつもりもない」
リアムは彼女が業界の人間、つまり民間軍事会社関係の人間なのかと思った。つまりリクルートに来たというわけだ。だが彼女には業界の雰囲気を感じない。品のあるスーツの着こなしと振る舞い。それと知的な雰囲気。どちらかというとどこかの企業重役の秘書といった雰囲気だ。
「勘違いしないでくれ。俺は失業中というより休業中なんだ。さっきも言ったけど当分仕事をする気はないよ」
「問題を抱えているからね。わかるわ」
相手の知ったような口ぶりにリアムは少し苛ついた。
「大きなお世話だね。いったい、あんた何者だ?」
「私達ならあなたの問題を解決できる。手を貸してくれるなら」
その言葉にリアムは少し驚く。
こいつは俺の目の事を知っているのか?
「あなた、ああいったものが見えているんでしょ?」
彼女はそう言うとカウンターの奥の瓶棚を指さした。
そこにでは小人達が自分の体ほどある酒瓶から酒をくすねようとフタを外そうとしている。
リアムはあんぐりと口を開けた。
「あ……その……俺の見えてるものが君にも見えてるのか?」
彼女はそれがあたりまえだというかのように肩をすくめた。
リアムはラガーの残りを飲み干そうとしたがやめておく。これ以上、アルコールで頭を曇らすのはやめだ。今は頭をすっきりさせるべきときなのだ。
「つまり、俺の見えてるものは現実ってこと?」
彼女はもう一度頷く。
「嘘だろ……」
リアムはそう呟く。今まで見えていた小人や怪物は、頭部の傷が原因か、もしくはPTSDで幻覚を見ているのだと思っていたからだ。普通そうだ。だがどうやら普通ではないことが起きていたらしい。それが今、突然現れた女に、自分が目にしてきたもの全てが現実なのだと言い切られた。
「いや……まてよ、俺をかついでるんだろ? そうか、あんた、ロブの友達だな? この事は、あいつにだけは話した事があるんだ。あいつと示し合わせてからかっているんだろ?」
リアムは友人の悪ふざけを疑った。事情を知っているならいくらでも話を合わせることはできるだろう。
ところが、彼女は神妙な顔つきでリアムに言う。
「ごめんなさい。ロブなんて人は知らない。それに私は、あなたの見えてる者たちが何なのか正体を知ってる」
「じゃあ百歩譲って俺の見えてるものが本物だとして、なんで他の人間にはあのおかしな生き物たちが見えないんだ?」
「さあね。きっと信じていないんでしょうね」
「信じていない? 何を?」
「妖精の存在」
リアムは彼女の答えに唖然とした。
「やっぱり俺をかついでるんだな」
彼女は意味ありげに微笑むとリアムにカードを渡した。
「興味があるなら、ここに来て。私達はその部屋で待ってる。もう一度言うけど、私達はあなたの才能と協力を必要としている。協力してくれるならあなたの問題を解決してあげるわ。もちろん多額の報酬も用意する」
リアムが迷いながらも、受け取ったカードを見る。
ランガム・ホテル333号室
カードには、そう記されていた。
「冗談だろ? ここって……」
リアムが顔を上げると女の姿は消えていた。
店内を見渡してもどこにもいない。近くにいたバーテンをつかまえて女がどこにいったか尋ねてみるが、
「悪いけどそんな女は見てないね。俺が覚えてるかぎり、カウンターにはずっとあんた一人だけだったよ」
バーテンはそう言うと忙しげに仕事に戻っていった。
リアムは自分がまた幻覚を見ているのかと不安になった。
だがしかし、手には渡されたカードがしっかりと握られている。
彼女は現実にここにいたのだ。
正確には彼女の顔を見て驚いていた。
「エマ……」
その言葉に相手は眉をしかめる。
「ああ、ごめん。知り合いに似ていたんだ」
それはリアムにとって重要な女性(ひと)だった。人生において最も重要だったといっていい。
「で……なんて言ったんだい? よく聞いてなかった」
「仕事をしてみないかって誘ったんだけど」
「俺、失業者に見える?」
「この時間、いつもどこかのパブでみかけたから」
「こいつは驚いた。君は俺のストーカーかい?」
「私もよく呑み歩くから」
「でもそういう時間シフトの仕事だとか思わないのかい?」
「そうね……そうかもしれない。でも一週間以上同じ時間に見かけるとちょっと気になるわね」
そう言われてリアムは、自分がパブに入り浸るのがいつのまにかルーティーンになっているのを自覚した。
「ああ、君の推理どおり今は仕事はしてないし、するつもりもない」
リアムは彼女が業界の人間、つまり民間軍事会社関係の人間なのかと思った。つまりリクルートに来たというわけだ。だが彼女には業界の雰囲気を感じない。品のあるスーツの着こなしと振る舞い。それと知的な雰囲気。どちらかというとどこかの企業重役の秘書といった雰囲気だ。
「勘違いしないでくれ。俺は失業中というより休業中なんだ。さっきも言ったけど当分仕事をする気はないよ」
「問題を抱えているからね。わかるわ」
相手の知ったような口ぶりにリアムは少し苛ついた。
「大きなお世話だね。いったい、あんた何者だ?」
「私達ならあなたの問題を解決できる。手を貸してくれるなら」
その言葉にリアムは少し驚く。
こいつは俺の目の事を知っているのか?
「あなた、ああいったものが見えているんでしょ?」
彼女はそう言うとカウンターの奥の瓶棚を指さした。
そこにでは小人達が自分の体ほどある酒瓶から酒をくすねようとフタを外そうとしている。
リアムはあんぐりと口を開けた。
「あ……その……俺の見えてるものが君にも見えてるのか?」
彼女はそれがあたりまえだというかのように肩をすくめた。
リアムはラガーの残りを飲み干そうとしたがやめておく。これ以上、アルコールで頭を曇らすのはやめだ。今は頭をすっきりさせるべきときなのだ。
「つまり、俺の見えてるものは現実ってこと?」
彼女はもう一度頷く。
「嘘だろ……」
リアムはそう呟く。今まで見えていた小人や怪物は、頭部の傷が原因か、もしくはPTSDで幻覚を見ているのだと思っていたからだ。普通そうだ。だがどうやら普通ではないことが起きていたらしい。それが今、突然現れた女に、自分が目にしてきたもの全てが現実なのだと言い切られた。
「いや……まてよ、俺をかついでるんだろ? そうか、あんた、ロブの友達だな? この事は、あいつにだけは話した事があるんだ。あいつと示し合わせてからかっているんだろ?」
リアムは友人の悪ふざけを疑った。事情を知っているならいくらでも話を合わせることはできるだろう。
ところが、彼女は神妙な顔つきでリアムに言う。
「ごめんなさい。ロブなんて人は知らない。それに私は、あなたの見えてる者たちが何なのか正体を知ってる」
「じゃあ百歩譲って俺の見えてるものが本物だとして、なんで他の人間にはあのおかしな生き物たちが見えないんだ?」
「さあね。きっと信じていないんでしょうね」
「信じていない? 何を?」
「妖精の存在」
リアムは彼女の答えに唖然とした。
「やっぱり俺をかついでるんだな」
彼女は意味ありげに微笑むとリアムにカードを渡した。
「興味があるなら、ここに来て。私達はその部屋で待ってる。もう一度言うけど、私達はあなたの才能と協力を必要としている。協力してくれるならあなたの問題を解決してあげるわ。もちろん多額の報酬も用意する」
リアムが迷いながらも、受け取ったカードを見る。
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カードには、そう記されていた。
「冗談だろ? ここって……」
リアムが顔を上げると女の姿は消えていた。
店内を見渡してもどこにもいない。近くにいたバーテンをつかまえて女がどこにいったか尋ねてみるが、
「悪いけどそんな女は見てないね。俺が覚えてるかぎり、カウンターにはずっとあんた一人だけだったよ」
バーテンはそう言うと忙しげに仕事に戻っていった。
リアムは自分がまた幻覚を見ているのかと不安になった。
だがしかし、手には渡されたカードがしっかりと握られている。
彼女は現実にここにいたのだ。
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