黒髪の魔女は暗闇を恐れている

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2、魔術捜査官の心得

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 分厚そうな木製の扉をノックすると返事が帰ってきた。
 「入りたまえ」
 丁寧に扉を開くと鹿の骨を象ったような異形な仮面を被った紳士が椅子に座っていた。
「失礼します」
 そう言って中に入ると温和な物腰で紳士が立ち上がる。
「やあ、朝から呼び出してすまないね」
 この異形な頭の人物は”ザ・マスター”のコードネームを持つ欧州支部の最高責任者 で、部下たちからは”M”と呼ばれている。
 魔術の熟練者で、その実力はヨーロッパでも随一と言われている[r]不気味な仮面で表情は読めないが、いつも温和で紳士的な物腰だ。日本から来た右も左も分からない僕のような者にも高圧的な態度も差別的な言動もしたことがない。
 仮面で表情は読めないが、尊敬できる人物に思える。

「君の研修での評価を見たが、捜査官として必要最低限の能力は身についたと思う。この後は。優秀な捜査官につけて現場での捜査をしてもらおうと思っている。まだ不安なようなら基礎訓練を続けても構わないが、どうかね?」
 基礎訓練も悪くないが、同じことの繰り返しにそろそろ飽きてきた僕は話を受ける事にした。
「はい、ぜひ!」
「そうか、訓練で自信がついたようだね。では君のバディとなる捜査官を紹介する……といいたいところだが、肝心の捜査官がまだ来ていないんだ[r]優秀な捜査官なんだが少々気まぐれでね」
 そう言うとMは呼び鈴を鳴らす。
「そうだな……君には先に装備品の支給を受けてもらおうか」
 部屋に入ってきたのはメガネをかけた知的そうな美女だった。
「お呼びでしょうか? M」
「ハーカー君、神成君を武器保管庫に案内して装備品を渡してくれないかな?」
「承知いたしました」
 メガネ美女は、そう返事をすると僕の方に向き直り、微笑みかけた。
「はじめまして、神成さん[r]私はヘルミナ・ハーカー。Mの秘書兼補佐をしております」
「よろしくお願いします。ハーカーさん」
 緊張しながら返事をすると、察したのか、ハーカーさんはそれをほぐすかのように再び微笑みかける。、
「では、まいりましょうか。神成さん[r]私についてきて下さい」
 そう言って部屋を出るヘルミナさんの後についてエレベーターに向かった。
 エレベーターまで来るとボタンを押し、扉が開くまでのあいだヘルミナさんが僕に話しかける。
「日本とは違いますから慣れるまで大変ですね」
「ええ、少し。でも予想外の事が多くて毎日が刺激的で面白い生活だと思っています」
「そうですか。ストレスをため過ぎてないようで良かったです。何事も物事を前向きに捉える事はとても大事な事ですからね。そう言える神成さんは尊敬できますよ」
「そ、そうですか?」
 社交辞令かもしれないが、ヘルミナさんの褒め言葉に僕は気を良くした。なにか良いことがありそうだ。
「ここは、他の捜査機関より変わったところも多いから戸惑うこともあるかもしれないけれど、がんばってくださいね」
「ありがとうござます! がんばります!」
 そうこうしているうちにエレベーターが到着する。僕らはそれに乗り込むと地下に向かった。エレベーターはすぐに地下に到着した。最新式なのか、ここのエレベーターの速度は異様に早い。
「では、行きましょうか」
エレベーターから出て装備支給品管理室庫に向かおうとした時、ヘルミナさんの携帯電話の着信音が鳴った。ヘルミナさんは電話の相手の話に何度か返事をして電話を切る。
「神成さん、ごめんなさい。ちょっと緊急の用事ができたので少し離れます。そこを右に曲がったところに部屋があります。そこで支給品を渡してもらえます」
 タチアナさんは、書類を一枚差し出した。
「この書類を渡せば貰えるようになっていますから」
 そう言うとヘルミナさんは急ぎその場を離れていった。その後ろ姿を見送った後、指示された部屋へ向かう。
 書類の内容に目を通しながら通路を曲がろうとした時だった。突然、誰かとぶつかった!
「おっ!」
 ぶつかった相手は不機嫌そうに神成を睨みつけてきた。
 凛とした表情ながら誰も他人を寄せ付けない雰囲気があり、印象的な黒髪で、ブルーの瞳が際立っていた。

「君、いつまでそうしているのかな?」
「えっ?」
 気がつくと両手が相手の胸に触れていた。男性にしては、なんだか妙に柔らかい」
 相手は頬を少し赤らめながらコホンと咳払いをした。
(え……? もしかして女の人だったのか!)
「ご、ごめんなさい!」
次の瞬間、強烈な右ストレートが神成の顎にヒットして眼の前が真っ白になる。
やがて意識が戻った時には相手の姿は見当たらなかった。
(痛てて……まったく、なんて日だ!)
不毛な悪態をつきながら装備支給品管理室へ向かった。
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