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26、戦闘準備
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キリシマ格納庫内
航宙戦闘艦キリシマは戦闘空母とも呼ばれているが艦載機数は正式空母より多くなく武装箇所を差し引いても、その分収納には余裕がある。
作戦時には格納スペースに揚陸艇や陸戦用兵器を搭載するが、今は頑丈なケースに箱詰めされた約400体のオートマタを積み込んでいた。
本来なら火星の地上基地に補充する為に送るはずのものだった戦闘用オートマタだ。
それを急遽、アビスゲートの救出作戦に転用することになり、衛星要塞トブルクへの荷下ろし作業が中断され、全てがキリシマの格納庫に戻された。
キリシマはそのまま出航。今は、整備要員たちがマニュアル片手に一体ずつ引っ張り出しオートマタたちを起動させている。
次にするのは救出作戦に適した戦術プログラムをインストールする事だが、分隊相応数の10体ほどを引っ張り出した後、キリシマ常駐の陸戦隊員たちがそれを行っていた。突入時には彼らがオートマタの分隊か小隊を率いることになるからだ。
「これ全部、使うんですかね」
オートマタにアサルトライフルを持たせながらビンス・クレール二等上等兵がぼやいた。
「すべてを投入するかはまだわからん。だが最善の準備をせよとの命令だ。だから手を止めずに仕事をしろ、ビンス」
「了解、大尉」
ビンス二等上等兵は、再び作業を始めた。
陸戦隊のエリック・ウルフ大尉も状況を把握していない。敵が異星人だか怪物だとかいうぼやけた情報しか聞かされていなかった。
そして、その生物はアビスゲートの施設の一部と作業用オートマタと同化し、乗員を襲っているらしい。
同化だって?
ウルフ大尉は報告を受けた“同化”の意味が想像できなかった。
大尉が副長に聞き返した時、彼はこう言った。
「つまり、“機械のゾンビ”みたいなものだ」
一体、俺たちは何と戦うんだ?
ウルフ大尉はプログラムをインストールしながらそう思っていた。
§
その頃、演習中の自由同盟軍艦隊を牽制監視する為に集結していた連邦統制軍の艦隊は、一部をアビスゲートに向かわせていた。
急遽編成された艦隊は旗艦であるデアフリンガー級航宙戦艦アンティータムが、そのまま旗艦となり指揮のビクター・フレミング大佐が指揮を執る。
アンティータムは、同じデアフリンガー級のキリシマと姉妹艦ではあるが、こちらは砲撃戦闘に特化した完全な戦艦である。
艦隊は、応急ながら火星宙域を周回航行していた艦を集め、戦艦4隻、巡洋艦8隻、駆逐艦15隻の戦力である。
艦隊の指揮を執るビクター・フレミング大佐も20年近く前のヘリウム戦争も経験した老練な指揮官であった。
その指揮官は今、衛星要塞トブルクにある艦隊司令部から増援の報告を受けていた。
「デアフリンガー級のキリシマ以下、巡洋艦3隻がトブルクから出航とのことです」
副官がフレミング大佐に報告した。
「キリシマだって?」
「キリシマに何か?」
「あれには私が別の船にで艦長だったころの副長が指揮を執っている。優秀だった。で、合流はどのくらいになりそうだ?」
「速度がこのままであれば、艦隊がビッグ・アルファ(アビスゲートの軍コードネーム)への到着から約2時間後と予想されます」
「2時間は少し長いな」
「速度を落として合流を待ちますか?」
フレミング大佐は少し考えた後、答えた。
「いや、ビッグ・アルファでの事態は緊急を要する。艦隊速度はこのままを維持だ」
スクリーンに映る偵察機の送ってきた映像に大佐は目をやる。
アビスゲートの一部を覆っている黒い液体のようなものは明らかに生きている。情報では、この生物は警備していた駆逐艦と巡洋艦を侵食し、これをコントロールしているという。
この大きさで本当に生物なのか?
大佐は、この未知の敵にどう対処するか迷っていた。果たして従来の対航宙艦用の戦術が通用する相手なのか大佐にもわからない。
なにしろ人類が初めて遭遇する未知の敵なのだ。
「大佐。少し問題が発生しております」
「緊急か?」
「今のうちに対処した方がよい問題ではないかと」
「話してみろ」
「実は艦内にはエイリアンとの戦闘だという噂が流れ乗組員たちが動揺しているとの報告を各長から受けています」
「どこまで話が広がっている?」
「ざっくりと敵が異星人ではないか、という程度のようです。おそらく他の艦艇でも同じようなものかと思われます」
「私も不安だよ。兵たちの前では口に出さんがな」
そう言ってにやりとする大佐に副官が冗談か本気かわからず戸惑う。
「では、少し喝を入れてやるとするか。マイクを艦内放送に切り替えろ」
「アイサー」
「それと艦隊全部に通信をつなげろ」
「艦隊全部でありますか」
「二度言わせるな、大尉」
「アイサー!」
副官が指示通り艦内放送と艦隊通信で送れるようにセッティングするとマイクを大佐に渡した。
フレミング大佐は一息ついた後、切り出す。
「諸君、航宙戦艦アンティータムの艦長で急遽臨時艦隊の指揮を執る事になったフレミングだ。これは艦内スピーカーだけでなく艦隊全部に通信で送られているはずだ。
突然の艦隊編成と進路変更に戸惑う者も多いと思う。いや、戸惑いはそちらではなくむしろ今回の敵となる相手のことだてあると思う。
情報は少ないが敵は、何らかの生命体であるらしい。だからといって敵が異星人であるのか、何か別のものであるのかは、まだ分からない。
しかし、分かっていることがある。それは、そいつらは我々の武器を利用して人間に攻撃を仕掛けているということだ。
そしてアビスゲートに残された千名の善良な人々を危険にさらしているという事なのだ。
敵にどのような能力があるか、我々と対話できるほどの知性があるのかもわからない。だがアビスゲートでの事態は攻撃と見なし我々は全力でこれを排除する。
そして、私は信じている。
このような危機も諸君らの能力であれば十分乗り越えられると!
各自全力をもって対処してもらいたい。以上だ」
フレミング大佐はそう締めくくりマイクのスイッチを切った。
「こんなものでも少しは足しになるだろうさ」
そう言うとにやりと笑った。
「各士官を集めろ。作戦を検討する。時間はないぞ」
連邦統制軍の艦隊はアビスゲートを目指し航行を続ける。
未知の敵と対決するために。
航宙戦闘艦キリシマは戦闘空母とも呼ばれているが艦載機数は正式空母より多くなく武装箇所を差し引いても、その分収納には余裕がある。
作戦時には格納スペースに揚陸艇や陸戦用兵器を搭載するが、今は頑丈なケースに箱詰めされた約400体のオートマタを積み込んでいた。
本来なら火星の地上基地に補充する為に送るはずのものだった戦闘用オートマタだ。
それを急遽、アビスゲートの救出作戦に転用することになり、衛星要塞トブルクへの荷下ろし作業が中断され、全てがキリシマの格納庫に戻された。
キリシマはそのまま出航。今は、整備要員たちがマニュアル片手に一体ずつ引っ張り出しオートマタたちを起動させている。
次にするのは救出作戦に適した戦術プログラムをインストールする事だが、分隊相応数の10体ほどを引っ張り出した後、キリシマ常駐の陸戦隊員たちがそれを行っていた。突入時には彼らがオートマタの分隊か小隊を率いることになるからだ。
「これ全部、使うんですかね」
オートマタにアサルトライフルを持たせながらビンス・クレール二等上等兵がぼやいた。
「すべてを投入するかはまだわからん。だが最善の準備をせよとの命令だ。だから手を止めずに仕事をしろ、ビンス」
「了解、大尉」
ビンス二等上等兵は、再び作業を始めた。
陸戦隊のエリック・ウルフ大尉も状況を把握していない。敵が異星人だか怪物だとかいうぼやけた情報しか聞かされていなかった。
そして、その生物はアビスゲートの施設の一部と作業用オートマタと同化し、乗員を襲っているらしい。
同化だって?
ウルフ大尉は報告を受けた“同化”の意味が想像できなかった。
大尉が副長に聞き返した時、彼はこう言った。
「つまり、“機械のゾンビ”みたいなものだ」
一体、俺たちは何と戦うんだ?
ウルフ大尉はプログラムをインストールしながらそう思っていた。
§
その頃、演習中の自由同盟軍艦隊を牽制監視する為に集結していた連邦統制軍の艦隊は、一部をアビスゲートに向かわせていた。
急遽編成された艦隊は旗艦であるデアフリンガー級航宙戦艦アンティータムが、そのまま旗艦となり指揮のビクター・フレミング大佐が指揮を執る。
アンティータムは、同じデアフリンガー級のキリシマと姉妹艦ではあるが、こちらは砲撃戦闘に特化した完全な戦艦である。
艦隊は、応急ながら火星宙域を周回航行していた艦を集め、戦艦4隻、巡洋艦8隻、駆逐艦15隻の戦力である。
艦隊の指揮を執るビクター・フレミング大佐も20年近く前のヘリウム戦争も経験した老練な指揮官であった。
その指揮官は今、衛星要塞トブルクにある艦隊司令部から増援の報告を受けていた。
「デアフリンガー級のキリシマ以下、巡洋艦3隻がトブルクから出航とのことです」
副官がフレミング大佐に報告した。
「キリシマだって?」
「キリシマに何か?」
「あれには私が別の船にで艦長だったころの副長が指揮を執っている。優秀だった。で、合流はどのくらいになりそうだ?」
「速度がこのままであれば、艦隊がビッグ・アルファ(アビスゲートの軍コードネーム)への到着から約2時間後と予想されます」
「2時間は少し長いな」
「速度を落として合流を待ちますか?」
フレミング大佐は少し考えた後、答えた。
「いや、ビッグ・アルファでの事態は緊急を要する。艦隊速度はこのままを維持だ」
スクリーンに映る偵察機の送ってきた映像に大佐は目をやる。
アビスゲートの一部を覆っている黒い液体のようなものは明らかに生きている。情報では、この生物は警備していた駆逐艦と巡洋艦を侵食し、これをコントロールしているという。
この大きさで本当に生物なのか?
大佐は、この未知の敵にどう対処するか迷っていた。果たして従来の対航宙艦用の戦術が通用する相手なのか大佐にもわからない。
なにしろ人類が初めて遭遇する未知の敵なのだ。
「大佐。少し問題が発生しております」
「緊急か?」
「今のうちに対処した方がよい問題ではないかと」
「話してみろ」
「実は艦内にはエイリアンとの戦闘だという噂が流れ乗組員たちが動揺しているとの報告を各長から受けています」
「どこまで話が広がっている?」
「ざっくりと敵が異星人ではないか、という程度のようです。おそらく他の艦艇でも同じようなものかと思われます」
「私も不安だよ。兵たちの前では口に出さんがな」
そう言ってにやりとする大佐に副官が冗談か本気かわからず戸惑う。
「では、少し喝を入れてやるとするか。マイクを艦内放送に切り替えろ」
「アイサー」
「それと艦隊全部に通信をつなげろ」
「艦隊全部でありますか」
「二度言わせるな、大尉」
「アイサー!」
副官が指示通り艦内放送と艦隊通信で送れるようにセッティングするとマイクを大佐に渡した。
フレミング大佐は一息ついた後、切り出す。
「諸君、航宙戦艦アンティータムの艦長で急遽臨時艦隊の指揮を執る事になったフレミングだ。これは艦内スピーカーだけでなく艦隊全部に通信で送られているはずだ。
突然の艦隊編成と進路変更に戸惑う者も多いと思う。いや、戸惑いはそちらではなくむしろ今回の敵となる相手のことだてあると思う。
情報は少ないが敵は、何らかの生命体であるらしい。だからといって敵が異星人であるのか、何か別のものであるのかは、まだ分からない。
しかし、分かっていることがある。それは、そいつらは我々の武器を利用して人間に攻撃を仕掛けているということだ。
そしてアビスゲートに残された千名の善良な人々を危険にさらしているという事なのだ。
敵にどのような能力があるか、我々と対話できるほどの知性があるのかもわからない。だがアビスゲートでの事態は攻撃と見なし我々は全力でこれを排除する。
そして、私は信じている。
このような危機も諸君らの能力であれば十分乗り越えられると!
各自全力をもって対処してもらいたい。以上だ」
フレミング大佐はそう締めくくりマイクのスイッチを切った。
「こんなものでも少しは足しになるだろうさ」
そう言うとにやりと笑った。
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