深淵から来る者たち

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27、広がる異変(前編)

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 その日、ニュースでは落下した航宙艦の事件が報道されていた。
 どのチャンネルもほぼ同じ内容をつたえ続けている。

「マーズシティ・ロメロ145近郊に落下したのはアビスゲートの警備に就いていた連邦統制軍の航宙艦と思われます。被害は予想外に少なく、直撃でなかった事が幸いしたのではないかと専門家はみています」

 落下したのは友軍によって撃沈された航宙駆逐艦だったが報道では詳細をつたえていない。軍が正式な発表をしていない為だった。
 長年かけて火星に建設された幾つもの大気発生プラントにより造られ続ける酸素や地球型生物が生存可能な成分により、火星の大気は60%まで充実していた。それより大気摩擦が発生し、船体がいくつかに分解された。その一番大きな破片がマークシティ11近くに落下したのだ。
 それをニュース番組では報道し続けているのだ。
 連邦統制軍の地上のレーダーではシティに方向転換した時は最悪の事態を予想したが、結局、直撃は回避される。
 だが衝撃は激しく大きなクレーターを作っていた。舞い上がった粉塵は周辺の各ドームシティにも達していた。

 99式偵察戦闘車がクレーターに近づいていた。
 火星仕様に改装されている最新型の偵察車両だ。装甲の耐熱、耐衝撃性も高く、探査システムも充実している。
「フィレット、現場に到着。放射能反応なし。今より接近する」
 99式偵察戦闘車は、歩行形態に変形すると落盤した地表を降りて行った。
「生命反応な……いや、待て。何か動いている」
 カメラがズームアップした。
 画面には黒い液状のものが破片から漏れているのが映っている。
「燃え残ったオイルのようだ。または冷却液かもしれない。漏れ続けている。船内に大量に残っていそうだ」
 死角を撮影しようと偵察戦闘車は方向転換した。てきたのは動力炉のある船体ではないようだ。薄い酸素のせいか炎上している箇所がみえた。
「ちょっとまて、何かいる。生存者かもしれない」
 一瞬、人影が破損した船体の中に見えた。
「生命反応はないが、目の前に人がいる。計器の故障かもしれない。救助に降りる」
 船体へ、ぎりぎりまで接近すると後部ハッチが開き戦闘甲化服の兵士が二人降りてきた。
 兵士のひとりが破損した部分から内部を覗き込む。
 その瞬間、兵士は頭を何かに掴まれ引きずり込まれた。

          §
 
 ロメロ145は火星の遺跡発掘地区を中心としたドームシティである。
 半径20キロには移住してきた市民が暮らす都市がある。彼らの多くは大気発生プラントやドームシティ、そして遺跡の発掘設備を維持することに従事している。それと彼らにサービスを提供することを生業とした移住者たち。その規模は約10万人。火星に点在するドームシティの的なな人口であった。
 ドーム内大気は地球と同じレベルまでにし、航宙艦に使用される人工重力発生装置と同じ構造のものを大規模化し設置されている。
 これにより、移住者が長期生活により起こる身体への影響を最小限にまで抑えていた。
 初期の頃でこそ問題も発生したが、今では長期生活者が地球へ帰還しても、ケアもほぼ必要なく順応できるようになっていた。
 すべては火星の遺跡で発見されたテクノロジーの賜物であった。

 ドームシティは緊急態勢に入っていた。
 火星の天候状況の変化に度々発動されていた緊急事態だったが今回のものは違っていた。
 近郊に航宙艦の破片が落下したからである。
 情報の少ない曖昧な報道、自体を把握していない市民たちが不満の声を上がり始めていた。
 都市内で開催されていた様々イベントもこの事態により中止になっていた。そのことがより市民を不安にさせていた。
 そのころ発掘現場ロメオ145では再生を始めていた巨人の骨格だけだった遺骸は、原型を取り戻しつつあった。
 発見された巨人の遺骸、その中でも最大の大きさである通称“キング”。数時間前から、その“キング”から正体不明の電気信号が流れ始めている。それは奇しくもアビスゲートで異変が起き始めた時間とほぼ同時刻であった。
 信号を分析すると規則的なパターンであり単純な信号の可能性があった。
 その兆候に歓喜する研究者たち。その中にいてヘルマン・ペイジ博士は、これをモールス信号のようなメッセージではないかと推測すしていた。
 量子コンピュータで電気信号や採取した細胞の解析を急ぐ研究スタッフたちであったが、アビスゲートでの事故と落下した航宙艦のニュースは、ここにも入ってきた。
「ペイジ博士。ニューズ、聞きましたか? ここも危険になるかもしれませんよ」
 しかし、ヘルマン・ペイジ博士は助手の言葉にも耳を貸さない。 
「今、ここで去れるか! 見てみろ。目の前で起きてることを」
 再生を続ける巨人を指さす博士。巨人は皮膚の再生まで完了し、血管のようなものが脈打っていた。
「し、しかし……」
「ロメロ145のドームはとりわけ頑丈に造られている。たとえ隕石の直撃でも大丈夫だ!」
「いや、いくらなんでもそれは」
 目の前で起き続ける未知の現象にヘルマン・ペイジ博士は完全に取りつかれてた。
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