深淵から来る者たち

zip7894

文字の大きさ
35 / 39

27、広がる異変(後編)

しおりを挟む
 航宙駆逐艦グルカの船首部分が落下してから2時間後
 ——火星・アケローン連鎖クレーター マーズシティ・ロメロ145付近

 2時間前、要請を受けてロメロ145付近に集結待機していた第一機動師団は落下していく航宙艦を間近で目撃した。
 多くの兵士たちが遠目に映る宇宙からの落下物の行方を見守っていた。
 事前に落下コースは知らされていたものの頭上に落ちてこない事に誰もが安堵している。
 そしてオレンジ色の光球が地平線の先に落下して爆発が起きた。
 幸いにもその規模は予想外に小さく舞い上がった粉塵も大気に影響を与える程ではなかった。

「思ったほど爆発が大きくなかったな」
 歩哨として配置されていた二本脚”のWM3(ウォーカーモデル3型)に搭乗したガンナー担当の兵士が言う。
「派手なの期待してたか? チャップマン」
「知ってるか? 恐竜は隕石で絶滅したんだ」
「違うね。恐竜は絶滅したんじゃない。鳥に進化したんだ」
「そんなわけない」
「本に書いてあった。とにかく、落下高度も低いし、航宙駆逐艦の残骸の大きさもそこそこだ。絶滅レベルじゃない」
「驚いた」
「勉強になったか?」
「いや、お前が本を読む事に驚いてる」
「このやろ……いや、まて!」
 毒舌の追い打ちをかけようとしたガンナーオペレーターだったが、操縦手の様子の変化に気付く。
「どうした?」
「前方から99式偵察戦闘車が接近」
「落下した残骸の調査に行った連中だよな。連絡が途絶えて、第一分隊の連中が様子を見に行ったはずだが無事だったって事か」
「何か様子がおかしい」

 映像に映る99式偵察戦闘車の走行はどこか不自然だった。駆動部を破損しているのか挙動が大きい。
「報告を入れろ。俺は99式に呼びかけてみる」
「わかった」
 操縦手は、無線のスイッチを入れた。
「“フィレット”、問題発生か? 状況を知らせよ」
 応答はなかった。もっとも連絡がとれなかった事を考えると通信手段にも問題が発生していう可能性はあったのだが。
「“フィレット”、こちらの通信が聞こえているなら一旦停止しろ」
 99式偵察戦闘車は通信を無視して前進を続けている。
「指揮車からだ。“99式の状況を確認せよ”だ」
 ガンナーが射撃用のスコープ越しに接近する99式偵察戦闘車を確認する。すると、99式の背後に続く別の車両がいるの見つけた。一台ではない。複数の車両群だ。
「あれ、第一分隊じゃないのか?」
 操縦手がモニターを見る
「……そうだな。でも、なんで呼びかけに答えない。無線周波数は同じ筈だ」
 さらに接近する車両群に違和感を感じる。
 普段見慣れた戦闘車両の動きではない。車輪を使っているようでも歩行脚を使っているようでもない。それは歪な挙動だった。
 第一機動師団の指揮車では、連絡のはが的中した戦闘師団はドームに移動を開始するのだった。
「第一分隊、状況を知らせよ」
 だが相手からは反応がないままだった。ひたすら前進してくるだけだった。
「嫌な予感がする……おい、兵装ロックを外しとけ」
「味方だぞ?」
「わかってる。念のためだ」
 念のためってなんだよ、と思いながらガンナーは兵装ロックを外した。ガン・アームも外装に取り付けられたロケットランチャーも発射可能になっていく。
「なんだ、あれ……」
 射程距離に入る直前にに接近する99式偵察戦闘車と第一分隊の輪郭が鮮明に映し出された。
 装甲面はただれ、何か黒い異物に大部分を覆われている。
 その移動方法は車輪でも機械式の歩行脚でもなく、昆虫の足に似たもので這いながら前進してくるのだ。
 車両群はさしずめ荒れ地を進む蟹か蠍の群れに見えていた。
「どうする?」
 不安げな声でガンナーが訊く。
「狙っとけ」
「でも、味方だろ?」
「わからん! だがあれはどう見ても異常だ!」
 操縦手が声を荒げた。

 99式偵察戦闘車と第一分隊の様子が師団の戦闘指揮車にも送られていた。
 映像を見ている指揮官も状況に戸惑っている。
「大佐。トブルクの司令部から通信が入っています」
 この状況で司令部から?
 大佐は受話器を取って司令部からの連絡を聞いていた。
「……はい。そうです。その通りです……いえ、そんな事は……はい、もちろん速やかに遂行します」
 大佐は受話器を置く。
 傍にいる副官が上官の表情から連絡の内容があまりよろしくないものだと察した。
「これより師団に戦闘態勢に入る。各長に、これは演習の延長ではない事を念押ししろ」
「了解」
 一体、どんな命令があったのかと副官は考えながらも返事をする。
「攻撃目標は、帰還しようとしてくる99式偵察戦闘車と第一分隊となる」
「99式と第一分隊を、でありますか?」
 指揮官の命令に異論はタブーだ。だが副官は思わず聞き返した。
「司令部からの連絡では99式と第一分隊は“何か”に汚染されている可能性が大だ。それを止める為にも近接前に破壊する。各長にも伝えろ」
「わかりました」
「歩哨のWM3に繋げ。俺が直接話す」

          §
 
 同時刻
 アビスゲート内部

 カーターとサヤは、先頭を走る作業員を追った。
 作業員は、行くべき場所が分かっているらしく躊躇なく、先を走り続けていた。そして頑丈そうな扉の前に来ると立ち止まり、電子ロックにカードキーを差し込む。
 扉が開くと中には、取材に来ていた他の記者たちとアビスゲートのスタッフたちが怯えた表情で立っていた。
 カーターたちを見ると安堵しているようだ。
「早く閉めろ」
 誰かが大声で言った。
 カーターたちが中に入ると逃げてきた作業員が急いで扉を閉めてロックする。
「カーター!」
 記者たちの中から声がした。ワールド・ライズ・ニュースのジャーナリスト、モトキ・ユウヤだ。友人である彼のお陰で。アビスゲートの取材に便乗できたのだ。
「ユウヤ、無事だったか」
「あんたもね。無事ってわけでもないけど、また会えてよかったよ」
「怪我したのか? 大丈夫か?」
「大した怪我じゃない。手をちょっと切っただけ」
 そう言ってモトキ・ユウヤは包帯を巻いた左手を見せた。
「一体、何が起きてる?」
「よくわからないけど、化け物がアビスゲートを占拠している。大勢が殺されたか取り込まれた」
「取り込まれた?」
「あいつら、人間やオートワーカーの身体を乗っ取ってる。あんた達も化け物に追われて来たんだろ。そいつら、オートワーカーか人間の成れの果てだよ」
 カーターは立て続けて起こる状況に頭が付いていかないでいた。
「皆、情報収集してるんだけどよく把握できないんだ。けど、他の記者に軍の通信を傍受できた奴がいてさ。そいつの話によると何かの攻撃の一環らしい」
「すべて“深淵から来る者たち”の侵略よ」
「今、なんって言った?」
「そっちの人って……?」
 ユウヤは、カーターの後ろにいる黒髪の若い女に気が付く。
「彼女はサヤだ。前に話していた……まあ、それは後で説明するから」
 カーターはサヤの方を向く。
「今は事情を知りたい。君は何が起きてるのか知ってるのか?」
「説明する。その代わり私に協力して」
「……協力か」
 カーターはサヤが重機コントロール室からメインフレームにハッキングしようとしていた事を思い出す。
「でなければこの危機を回避できない」
 サヤは、真剣な顔でカーターを見つめた。その表情からは何かの決意を感じ取れる。
「わ、わかった。君に協力するよ。お前もだよな? ユウヤ」
「なんで、俺も?」
「一人より二人だ。巻き添えは多い方がいい」
「まったく……」
 カーターの冗談とも本気とも思えぬ言葉にユウヤはため息をつく。
「ありがとう」
 サヤはカーターとユウヤに礼を言った。
「すべてを説明する。信じられない事かもしれないけど……」
「もう、何も驚かないよ」
 カーターは、そう言って肩をすくめた。
 サヤはにこりとすると語り始める。
 それは到底、信じられない内容であった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...