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一寸先はなんとやら
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人間万事塞翁が馬、あるいは一寸先は闇。
どちらも意味的には、人生は予測不能だと言う事になる。そして今、俺は今まさにその事実を強制的に理解させられていた。
まず俺が現在座っているのは通っている宏嶋市立莉城高校の生徒指導室のパイプ椅子。目の前にいるのは俺のクラス担任の相生叶恵先生。今は放課後で、帰りのHRも終わって帰宅しようとしたところを呼び止められ、この場所に連れてこられた所だ。
ここまでは別にどうと言う事も無い。問題はつい先ほど目の前の先生が提示してきた提案だ。俺は改めて真意を確かめるべく、聞き返す事にした。
「すみません、先生。今なんておっしゃいました・・・?」
先生は掛けている黒縁メガネを軽く押し上げ、先程言い放った言葉を繰り返した。
「ですから、私の家で一緒に暮らしませんかと提案しとるんですが」
残念ながら俺の聞き間違いでは無かったらしい。
分かってはいたが、敢えて俺は訊ねた。
「誰が」
「大神くんが」
大神くん。フルネームは大神良人。紛れもない俺の名前だ。敢えて質問を続ける。
「誰と」
「私と」
生徒の質問に答えるかの如く落ち着いた口調で答える先生。正直これ以上の質問は無意味な気もしたが、敢えて訊ねる。
「どこで」
「私の家で」
「・・・どうすると?」
「一緒に暮らすと」
俺は天井を仰いだ。そっかー、聞き間違いじゃ無かったのかあ、そして冗談でも無いのかあーと心中でぼやいた。
「それでどう?ええよね?」
不意にフレンドリーな宏嶋弁で微笑みかける先生に、俺は答える。
「いや・・・ダメでしょう」
「なぜゆえ」
まさか本気で言ってんじゃあるまいなと思いつつ、俺は答えた。
「いいですか先生、俺と貴女は教師と教え子です」
「そうじゃね」
頷く先生。ちなみに方言なのでこの場合はそうじゃ無いでは無く、そうだねと言う真逆の意味になる。
「さらに今のSNS時代、そしてコンプライアンスが問題になる時代、教師と生徒の同棲はぶち(とても)リスキーです。教育委員会やらマスコミやらネットイナゴにバレたらお互いに身の破滅です。ご存知ですよね」
先生は頷いたが、続けて言った。
「同棲ならそうですけど、今回はあくまで保護者兼家族代わりとして同居するって事なんですが」
先生に下心がある訳じゃ無いことは俺も分かっている。基本的に真面目で責任感の強い先生だから、恋愛感情とかじゃ無くて純粋な厚意からの発言だと言う事も。とは言えだ。
「残念ですが、世間の人はそう思ってくれないかと思われます。ですから気持ちはありがたいのですがこの話は聞かなかったと言う事にさせてもらいますね。ありがとうございます。そしてすみません。これで失礼しま」
一礼してその場を辞そうとした俺の腕が、がっしと掴まれた。
「ま、待って!ほいじゃあ他の人たちには内緒って事で!お願い、考え直して!」
必死の上目遣い+涙目に思わず足が止まる。世の男同様、俺は女性の涙とお願いには弱いからだ。
「大神くんってご両親亡くなって天涯孤独の身なんじゃろ?でも18になったら施設も出なきゃいけんけえ、将来の生活費のために夜遅くまでバイトしとるんじゃろ!?」
確かに先生の言う通りだ。俺の両親はクルマの運転中に、脇見運転のトラックと正面衝突したせいで中学生の俺を残してこの世を去り、引き取り手のない俺は施設に引き取られた。尤も今更恨み言を言う気もないし、家族の死もようやく受けいられるようにはなったけれど。先生は少し落ち着きを取り戻したのか、俺の腕から手を離して静かに座り直した。
「・・・今のご時世、バイト先探すのは楽じゃ無いし、物価も家賃もどんどん値上がりしとる。それに夜遅くまでバイトしてたら学業にも健康にも支障を来すじゃろ?やっぱり先生としてそんなの見過ごせないんよ」
「そこまで気にかけていただけるのはありがたいですけど・・・でもじゃけえって先生に迷惑かける訳にはいかないですよ。俺自身の問題ですし」
先生はいつぞやテレビで観た歌舞伎役者の如く激しくかぶりを振った。
「迷惑な訳ないじゃろ!困っている教え子を助けるのが教師の仕事です!」
俺は溜息をつき、先生に向き直る。
「・・・どうしてそこまで俺のために?」
先生は少し躊躇った後、答えた。
「だって・・・あの時のお礼がどうしてもしたかったし・・・やっぱり放っておけんし」
あの時。思い当たる事は一つしか無かった。そう、遡る事一週間前のあの出来事だ・・・。
どちらも意味的には、人生は予測不能だと言う事になる。そして今、俺は今まさにその事実を強制的に理解させられていた。
まず俺が現在座っているのは通っている宏嶋市立莉城高校の生徒指導室のパイプ椅子。目の前にいるのは俺のクラス担任の相生叶恵先生。今は放課後で、帰りのHRも終わって帰宅しようとしたところを呼び止められ、この場所に連れてこられた所だ。
ここまでは別にどうと言う事も無い。問題はつい先ほど目の前の先生が提示してきた提案だ。俺は改めて真意を確かめるべく、聞き返す事にした。
「すみません、先生。今なんておっしゃいました・・・?」
先生は掛けている黒縁メガネを軽く押し上げ、先程言い放った言葉を繰り返した。
「ですから、私の家で一緒に暮らしませんかと提案しとるんですが」
残念ながら俺の聞き間違いでは無かったらしい。
分かってはいたが、敢えて俺は訊ねた。
「誰が」
「大神くんが」
大神くん。フルネームは大神良人。紛れもない俺の名前だ。敢えて質問を続ける。
「誰と」
「私と」
生徒の質問に答えるかの如く落ち着いた口調で答える先生。正直これ以上の質問は無意味な気もしたが、敢えて訊ねる。
「どこで」
「私の家で」
「・・・どうすると?」
「一緒に暮らすと」
俺は天井を仰いだ。そっかー、聞き間違いじゃ無かったのかあ、そして冗談でも無いのかあーと心中でぼやいた。
「それでどう?ええよね?」
不意にフレンドリーな宏嶋弁で微笑みかける先生に、俺は答える。
「いや・・・ダメでしょう」
「なぜゆえ」
まさか本気で言ってんじゃあるまいなと思いつつ、俺は答えた。
「いいですか先生、俺と貴女は教師と教え子です」
「そうじゃね」
頷く先生。ちなみに方言なのでこの場合はそうじゃ無いでは無く、そうだねと言う真逆の意味になる。
「さらに今のSNS時代、そしてコンプライアンスが問題になる時代、教師と生徒の同棲はぶち(とても)リスキーです。教育委員会やらマスコミやらネットイナゴにバレたらお互いに身の破滅です。ご存知ですよね」
先生は頷いたが、続けて言った。
「同棲ならそうですけど、今回はあくまで保護者兼家族代わりとして同居するって事なんですが」
先生に下心がある訳じゃ無いことは俺も分かっている。基本的に真面目で責任感の強い先生だから、恋愛感情とかじゃ無くて純粋な厚意からの発言だと言う事も。とは言えだ。
「残念ですが、世間の人はそう思ってくれないかと思われます。ですから気持ちはありがたいのですがこの話は聞かなかったと言う事にさせてもらいますね。ありがとうございます。そしてすみません。これで失礼しま」
一礼してその場を辞そうとした俺の腕が、がっしと掴まれた。
「ま、待って!ほいじゃあ他の人たちには内緒って事で!お願い、考え直して!」
必死の上目遣い+涙目に思わず足が止まる。世の男同様、俺は女性の涙とお願いには弱いからだ。
「大神くんってご両親亡くなって天涯孤独の身なんじゃろ?でも18になったら施設も出なきゃいけんけえ、将来の生活費のために夜遅くまでバイトしとるんじゃろ!?」
確かに先生の言う通りだ。俺の両親はクルマの運転中に、脇見運転のトラックと正面衝突したせいで中学生の俺を残してこの世を去り、引き取り手のない俺は施設に引き取られた。尤も今更恨み言を言う気もないし、家族の死もようやく受けいられるようにはなったけれど。先生は少し落ち着きを取り戻したのか、俺の腕から手を離して静かに座り直した。
「・・・今のご時世、バイト先探すのは楽じゃ無いし、物価も家賃もどんどん値上がりしとる。それに夜遅くまでバイトしてたら学業にも健康にも支障を来すじゃろ?やっぱり先生としてそんなの見過ごせないんよ」
「そこまで気にかけていただけるのはありがたいですけど・・・でもじゃけえって先生に迷惑かける訳にはいかないですよ。俺自身の問題ですし」
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「迷惑な訳ないじゃろ!困っている教え子を助けるのが教師の仕事です!」
俺は溜息をつき、先生に向き直る。
「・・・どうしてそこまで俺のために?」
先生は少し躊躇った後、答えた。
「だって・・・あの時のお礼がどうしてもしたかったし・・・やっぱり放っておけんし」
あの時。思い当たる事は一つしか無かった。そう、遡る事一週間前のあの出来事だ・・・。
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