俺、異世界で嫌々勇者やってます

毛穴翔太

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世界統一編

別れ

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 とうとうこの日がやって来た。
 まだ外は薄暗い。
 泰斗は少し早いのは承知だが、グッと背伸びをして、ベッドを出た。
 着替えを済ませて、部屋を出た泰斗は少し城の中を散歩する事にした。
 歩いて数分。庭で何かを振っている何者かがいた。だいたいの想像はついたが、泰斗はその者の所へと向かった。
「ランス、おはよう」
「泰斗殿!おはようございます」
「剣の練習か?」
「そうです」
「真面目だね~」
「ところで泰斗殿はこんな朝早くからどうしたのですか?帰られるのは、昼前と聞いておりましたが・・・」
「ちょっと早く起きてしまったから、最後にこの周りを見て回ろうかと」
「なるほど、そう言うことでしたか」
「其れで、ランスが練習をしているのを見て、ここへ来た訳。因みに木剣を持って来た。ランスのお手並みを拝見させてもらおうかと」
「そんな!シヴァを倒した泰斗殿と・・・」
「まあ、やってみようぜ」
 泰斗はニヤリと笑いながら、木剣を構えた。ランスは其れを見て木剣を構えた。
 そして、
「行きます!」
 ランスの掛け声を合図にお互い走り出した。
 木と木がぶつかり合う『カン!』という乾いた音が、城内に響き渡った。
 三十分くらいで稽古は終了した。外はすっかり明るくなっており、ちらほらとメイド達が動き出していた。
「流石、勇者泰斗殿!」
「よしてくれ。ランス」
「いやいや。私はまだまだです。泰斗殿はどこで剣術を?」
「初めて触ったけど?」
「んな!?初めてですか?」
「そうだけど?」
 ランスは驚いた。
 泰斗の強さは重々承知の上だったランスだが、初めて剣を使った泰斗のセンスに驚かされた。更に言うと、泰斗にはまだ余裕があった。
「さてと、もう少しここを回ってくるわ。朝ご飯が出来たら呼んでくれ!んじゃ!」
 泰斗は、右手を挙げてランスの元を離れていった。
 其れから泰斗は城中を歩いて回った。食堂に厨房。武器庫に牢屋。見ていないところと思い出のある場所と様々だったが、案外楽しめて回れた。
 そして最後に玉座の間へと向かった。
「おはようございます!泰斗様」
「おはよう、エリーシア」
 にっこりと微笑んで挨拶をしてくるエリーシアの顔は、少し寂しさも混ざっていた。
「いよいよですね・・・」
 エリーシアは床に書かれた魔法陣を見てそう呟いた。
「さてと、もうそろそろご飯の用意が出来ているはずなので、食堂へと向かいましょうか!」
「そうだな」
 必死に笑顔を振舞っているエリーシアの顔を見て、泰斗は少し複雑な気持ちになった。
 食堂へと着くと、リリスとサリアが既に来ていた。
「良かった!僕を置いて帰ったのかと思ったよ」
「まあ、俺はそれでもいいんだけどな」
「酷~い!」
「別に酷くは無いと思うが?」
「さあ、泰斗様、サリア様。その辺にして、朝食を頂きましょう」
 エリーシアは机に置いてあったベルを鳴らすと、次々と料理が運ばれて来た。
 それはそれは、沢山の料理が。
 その量を見た一同は、其処には触れずに食事を始めた。

 空腹が満たされた泰斗は自室に一旦戻り、支度を整えていたバッグを手に持ち、玉座の間へと向かった。
 その道中、ここへ初めて来た時の事が頭に思い浮かんできた。
 今となっては懐かしいさを感じる。
 思い出に浸りながら、玉座の間の前にへと着いた泰斗は、ゆっくりと扉を開けた。
「泰斗、遅いよ!」
 一足先に着いていたサリアが泰斗にそう言ってきた。
「お前が早いんだよ」
 と、短い会話を済ませ、泰斗は周りを見た。
 リリス、エリーシア、ランス、サタン、マヤ、メメ。この世界で知り合った者たちが其処に居た。
「さあ、準備が出来次第、こちらの魔法陣の上にお乗りください」
 準備?そんなものはとっくの昔に出来ている。
 泰斗は、悩むこと無く魔法陣の上に乗った。同じく、サリアも魔法陣へと乗った。
「泰斗、元気でな。またいつか、会おう」
「ああ。元気でな、サタン」
「泰斗。もしまたこの世界へ来た時、あたしの所へ寄ってくれ。アラン君が君を倒す為に修行しているからな」
「まあ、今度も負けるつもりは無いけどな。と、あの餓鬼に言っといてくれ」
「了解した」
「泰斗様、サリア様。またいつかここへ来てください。その時には、ヒースをより良い領地へと変えて見せますので」
「僕が領主の時は酷い有様だったみたいな言い方だねー。まあ、でも頑張ってね」
「はい!」
「帰るのね」
「寂しいか?」
「そうじゃない。私あなたから何も教わってないのだけれど?」
「何を言うか。予め、言っただろ。俺からは何も教えられないと」
「忘れた。あなたは良いわよね。私が教えた転移魔法をいとも容易く使えるのだから」
「それに関しては有難いと思っているよ。ありがとさん」
「約束!次ここに来たら、今度はちゃんと教えなさいよね!あなたの強さの秘密を」
「わかったよ」
「泰斗様、サリア様。お気をつけて。それと泰斗様、本当にありがとうございました。あなたが来てくれたおかげで新しい未来が開けたと、私は確信しております」
「良い世界になるといいな、エリーシア」
「はい!」
 エリーシアはにこやかに笑った。
「では皆さん。魔法陣から離れて下さい!」
 白いローブを被った男の一人が、エリーシアたちに離れるように指示した。
 そして、白いローブを着た男たち四人が、正方形のちょうてにそれぞれ立ち、呪文を唱え始めた。
 すると魔法陣が光り出した。
「んじゃ、また何処かで会おう!」
 泰斗はそう言うとサリアと共にこの世界から姿を消した。
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