軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

赤い龍の伝説 1

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「お、結局子供たちの餌食になったな」
 午後の鐘が鳴って程なくすると、正面玄関にパロモを連れて現れたリエイムは、整えられた髪型を見て笑った。
 部屋に帰る途中双子に見つかり、一時間ほどままごとに三人で興じた。
 そのため長い髪は耳の後ろから三つの束になって編み降ろされ、尻尾は青いリボンでまとめられている。
「ベロニカさんが丁寧に結ってくれて、ティモシーさんがリボンの色を選んでくれました」
「綺麗な髪の色によく似合っているよ。ふたりは子供のくせにセンスがあるな。とても美しい」

 さらっと言ってのけるので、サニは顔を赤くする。そうやってさらっとキザなことも言えるのか。
 もう何が本物のリエイムかわからなくなってくるけど、きっとどれも本物なのだろう。
 強いて言うなら『ひょうきん』の面積が大きめだ。
 昨日と同じくリエイムの前に跨がると馬は小高い山の上に建つ城から平地に向かって歩き始めた。

 小さな城下町を過ぎると初夏の元気な大地が視界いっぱいに広がった。
 綺麗に区分けされた畑には緑の穂がどこまでも続き、さらさらと風に揺れている。

 思わず「わあ」と感嘆した。

「義姉上が焼いたパンの原料にもなっている、領の特産穀物オリザだ。綺麗な眺めだろう」
「はい、とても美しいです。のびのびと育っているのですね。収穫は秋ですか?」
「ご名答、と言いたいところだがちょっとだけ惜しい。種を改良して成長を早めたから、夏の終わりには収穫してしまうんだ。秋からはカルレ芋を栽培している。しかし二毛作の種類をもう少し増やしたいところでな、芋以外で土の負担にならない作物は何か村人たちの協力のもと、探っているところなんだ」
「領主とは、そんなことまでするのですか?」
「もちろん。畑を豊かにすることは大切な人口を支える術のひとつだからな。輸出も大きな収入源になるけど、他領や他国に頼らずできるだけ自分たちの力で生産消費を回すことが一番効率もいいし、民たちの自立にも繋がる。それを支えるのが、俺たち領主の役目だ」
「椅子にふんぞり返ってひたすら書類にサインしてるわけではないんですね」
 つい本音が出ると、リエイムは気を悪くするでもなく、からからと笑う。

「ははは、ずいぶん偏ったイメージだな。そんなことしてたら母上がお怒りになるだろう」
「そういえば、お母上は今朝食卓にはいらっしゃいませんでしたね」
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