軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第二章

蚤の市 1

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 秋の始まりの戦場では、珍しくなかなか決着が付かなかった。
 夕方ごろ、雲の動きを読んだリエイムは一旦引き、サニに大雨を降らせるよう頼んだ。
 リエイムの母が始めたという蚤の市は、今でもオーフェルエイデ城にて春と秋の二回に分けて開催される。
 秋の市が開催されるその日、朝早くから開け放たれた城の庭は民たちで溢れかえり、騒々しいくらいの賑わいを見せていた。
 ずらりと並んだ露店では食器や装飾品に始まり、服や家具に食品と何でも売られている。第一公子夫人お手製のパンにも長い列が並び、店頭ではせっせとヘンリが勘定をしている。
 その後ろでエプロンを巻いたフロレインがどんどんパンを切り分け袋に詰めていく。
 息がぴったりな様子をサニはリエイムと遠くから眺めた。
「あの二人は公子夫婦じゃなくて、街でパン屋でも始めた方が性に合ってるのではないか」
 くく、と笑いながらコメントするリエイムの通り、大きい竈がある家で夫婦が小さなパン屋を営んでいる姿がありありと想像できた。
「確かに……。お父上はどこに?」
「双子を連れて植物園のガイド中だ」
 旗を持って警備員のまねごとをする双子と、その後ろで活き活きと植物について語るオーフェルエイデ公が、脳内に浮かび上がった。
 これは市が終わるまで、戻ってこないだろう。
「ところでリエイムや私は、運営を手伝わなくて良いのですか?」
「俺たちは戦組だからな。こういう行事ごとはあっちに任せておいて、思いっきり楽しめばいいのさ。でも気づかれたら何か言われそうだから、遠巻きに見ていよう」
 露店が並ぶ列の始まりにモントペリエールを見つけると、早速一杯サニのために買ってくれる。
 ドリンクを飲みながら珍しい食器や何に使うかわからないような品々を手に取りながらくまなく見て回った。
 リエイムは後ろについて説明したり、気さくに店主に話しかけ世間話に興じたりしている。
「見てください、あれ」
 見つけて指さしたのは、領主家の似顔絵を商品として扱う露店だった。
 小さいものだと金貨ほどのサイズに始まり、大きくなると窓くらいにも及ぶ、様々な大きさの紙や布にオーフェルエイデ家の人物が描かれている。
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