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第三章
眠っていた記憶 1
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はっと上方を見上げると、頂上の崖から岩が転がってくる。土砂崩れだ。
しかし岩が転がる範囲が広くて、どこに逃げれば良いかわからない。
それよりも馬は安全だろうか。ここから離れた所に繋いできたが、もしかして直撃するかもしれない。
なにをまず優先させるべきか、咄嗟に判断できずに立ちすくんだ。
リエイムがサニの肩をぐいっと抱え込んだので、我に返る。
「このままでは危ない、右の脇道から逃げよう」
「馬たちは……っ」
「落下方向じゃない、大丈夫だ」
先にどうにか進めるのは細い道だった。焦って踏み外してしまい、体感が崩れる。それを受け止め、反動でリエイムが坂を転がった。
「リエイム……!」
どうにか両手で捕まっているが、片腕以外身体はぶらんと宙に投げ出されている。斜面は急で、その下は深い崖だ。サニは一歩一歩脚をするようにして近づくと、リエイムが落ちる寸前で腕を掴んだ。
「今、引き上げますからっ……」
言いながらふんばるも、身体は引きずられてどんどん下にずり落ちていく。急な坂で、捕まれるものがなにもない。
「サニ、いいんだ。このまま落としてくれ。そうじゃないと君まで巻き添えになってしまう」
リエイムが大きな身体を風に揺らしながら、微笑む。こんなときにだって、愛嬌ある大きなえくぼを作りながら、穏やかな笑顔を見せている。戦場で初めて出会った日も、そういえばこの顔をしていた。
『もし初手の作戦がうまくいかなかったら、サニは加護をする前に撤退してほしい。俺たちが全滅しても、大切な聖舞師殿を死なせるわけにはいかないからな』
走馬灯のようにリエイムとの思い出が頭を駆け巡る。
「……絶対いやですっ……」
どうにか下半身を使いじりじり下がりながらサニは声を振り絞りながら答える。
「そうやって、いつも自分を犠牲にしようとするあなたを、逆に守ると誓ったんですからっ……! 私の努力を無駄にしないでくださいっ」
二回目の土砂崩れで地面が揺れる。
振動で、ようやく少し上がったと思ったのにまた同じ位置にもどってきてしまう。ほんの少しの距離が、果てしなく遠くに感じられた。
「あーあ、最後にキスできなくて残念だったな」
「……だ、めっ……」
「サニ、今までありがとう」
繋がれた片腕を思いっきりねじられた。
「嫌だっ……!」
リエイムが一人で落ちてしまうと悟った矢先、サニは全身の力を抜いた。一人で死なせるくらいなら、助けられないのならいっそのこと一緒に死んでしまおう。腕が繋がったまま崖に落ちていく。
地面に打ち付けられると目を瞑ったそのとき、ふわっと身体が宙に浮いた感覚がした。
赤い鱗が光る前肢に抱かれて、空高く飛んでいた。
龍は宙でばさばさ羽ばたいて、土砂崩れの影響がない安全な場所、馬たちからそう遠くない平地に降りてきた。
しゅるしゅると人の姿に戻っていくと、まず馬に乗せていたブランケットを身体に羽織り、胸の前で乱暴に結んだ。
それからくるっと振り返りこちらに向かって怒濤のごとくずんずんと近づいてくる。
「こらっ!」
前触れなく大きな声で一喝した。
今までリエイムのいろんな面を見てきたが、初めて怒りの表情を目の当たりにしたという全く関係ないことに、こんな最中に気づいている。
しかし岩が転がる範囲が広くて、どこに逃げれば良いかわからない。
それよりも馬は安全だろうか。ここから離れた所に繋いできたが、もしかして直撃するかもしれない。
なにをまず優先させるべきか、咄嗟に判断できずに立ちすくんだ。
リエイムがサニの肩をぐいっと抱え込んだので、我に返る。
「このままでは危ない、右の脇道から逃げよう」
「馬たちは……っ」
「落下方向じゃない、大丈夫だ」
先にどうにか進めるのは細い道だった。焦って踏み外してしまい、体感が崩れる。それを受け止め、反動でリエイムが坂を転がった。
「リエイム……!」
どうにか両手で捕まっているが、片腕以外身体はぶらんと宙に投げ出されている。斜面は急で、その下は深い崖だ。サニは一歩一歩脚をするようにして近づくと、リエイムが落ちる寸前で腕を掴んだ。
「今、引き上げますからっ……」
言いながらふんばるも、身体は引きずられてどんどん下にずり落ちていく。急な坂で、捕まれるものがなにもない。
「サニ、いいんだ。このまま落としてくれ。そうじゃないと君まで巻き添えになってしまう」
リエイムが大きな身体を風に揺らしながら、微笑む。こんなときにだって、愛嬌ある大きなえくぼを作りながら、穏やかな笑顔を見せている。戦場で初めて出会った日も、そういえばこの顔をしていた。
『もし初手の作戦がうまくいかなかったら、サニは加護をする前に撤退してほしい。俺たちが全滅しても、大切な聖舞師殿を死なせるわけにはいかないからな』
走馬灯のようにリエイムとの思い出が頭を駆け巡る。
「……絶対いやですっ……」
どうにか下半身を使いじりじり下がりながらサニは声を振り絞りながら答える。
「そうやって、いつも自分を犠牲にしようとするあなたを、逆に守ると誓ったんですからっ……! 私の努力を無駄にしないでくださいっ」
二回目の土砂崩れで地面が揺れる。
振動で、ようやく少し上がったと思ったのにまた同じ位置にもどってきてしまう。ほんの少しの距離が、果てしなく遠くに感じられた。
「あーあ、最後にキスできなくて残念だったな」
「……だ、めっ……」
「サニ、今までありがとう」
繋がれた片腕を思いっきりねじられた。
「嫌だっ……!」
リエイムが一人で落ちてしまうと悟った矢先、サニは全身の力を抜いた。一人で死なせるくらいなら、助けられないのならいっそのこと一緒に死んでしまおう。腕が繋がったまま崖に落ちていく。
地面に打ち付けられると目を瞑ったそのとき、ふわっと身体が宙に浮いた感覚がした。
赤い鱗が光る前肢に抱かれて、空高く飛んでいた。
龍は宙でばさばさ羽ばたいて、土砂崩れの影響がない安全な場所、馬たちからそう遠くない平地に降りてきた。
しゅるしゅると人の姿に戻っていくと、まず馬に乗せていたブランケットを身体に羽織り、胸の前で乱暴に結んだ。
それからくるっと振り返りこちらに向かって怒濤のごとくずんずんと近づいてくる。
「こらっ!」
前触れなく大きな声で一喝した。
今までリエイムのいろんな面を見てきたが、初めて怒りの表情を目の当たりにしたという全く関係ないことに、こんな最中に気づいている。
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