軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第三章

翌朝 4

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 だめだ、一時の感情に流されてはいけない。自分に気持ちが向いてくれているなどと、ここで楽観的にうぬぼれてはいけない。
「それでも、ちゃんと言わせてくれ。誠意を示したい。サニ、俺は君のことが好きだ」
 真珠を使う前は月に何回も共に戦に出る、聖舞師と軍将という密接な関係だったから、たとえリエイムとの関係を公表してもまだまわりから受け入れられる余地があった。

 でも今は、自分たちを取り巻く環境が全く違う。

 戦争がなくなり死が遠くなったことで、生きているだけで儲けもの、とはならない世の中になってしまった。戦に勝つ、以外にリエイムには求められる物が多くなってしまった。
 公子として公の場に現れること、公子として子孫を残すことが以前よりも求められている。
 同性で子を産めず、身分が低く何者でもない自分では、到底相応しくない。
 それよりも、同じくらいの階級の女性と結婚して家族を作ることが、よっぽどオーフェルエイデ家の家族も、民も喜ぶはずだ。だからヘンリだって、第三公女を紹介したはず。
 真珠で願いを叶えてから再会して、ある意味でより残酷になってしまった現実を、嫌というほどに悟っていた。
 だから、自分は今のリエイムに寄り添えない。
 明確に答えは渡せなかった。息を吸い込んで、立ち上がるのがやっとだ。
 無言で帰り支度を整える。
「サニ、どこへ行く?」
「帰ります」
「それは、断るという意味か?」
 リエイムの鋭い眼差しが、相変わらず射貫いてくる。サニは耐えきれず目を瞑った。
「私は、リエイム様のことは、……好きではありません」
 これ以上嘘をつくのがつらい。好きでないはずがないのに。その腕に飛び込んでしまいたい気持ちをなんとか抑える。今日で最後だ、と言い聞かせてどうにかそれだけを口にした。
「わかった。山を越えてしばらくすれば我が領に入るだろう。先に帰っていい。サニのことも諦める」
 はっきり言われた途端に、悲しくなる。救いようのない惨めな思考回路に自分で幻滅する。
 しかし次の瞬間、発言とは裏腹に腕を捕まれた。その手の温度がびっくりするくらい熱くて、サニは身をすくめた。
「だから、最後に昨日みたいな口づけをしてほしい。ちゃんと俺だと認識して、キスをしてほしい」
「……無理です、できません」
 サニはどうにか腕を振りほどき、馬に向かって歩き出した。
 そこへ、地響きのような振動が足下から突如伝わってきた。
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