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第三章
翌朝 3
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「私はある人を生涯愛し抜くと誓い、聖舞師であることを捨てました。添い遂げることは叶いませんが、それでも後悔はありません」
「あーあ。もう、降参だ」
前置きもなく、リエイムは倒れるようにパタンと背中を芝生の上に預けてしまう。
「え?」
のぞき込むと、予想外に真面目な灰色の瞳とぶつかった。
誰もいないだろうと扉を勢いよく開けたとき、外側に人がいたときのような意表を突かれる。視線を外すことができず、しばらく見つめ合う。
「質問していいか」
「はい」
「なぜ俺がパロモを連れてグラニの慣らしに同行したり、嫌がるサニを無理矢理舞踏会に連れてきたり、好きな人のことを打ち明けろなんて迫ったと思う?」
「……暇だから、ですか?」
答えると、ぷっと噴き出される。
「そんなわけあるか。これでも色々やることはあってな」
それでもすぐにまた真剣な表情に戻ってしまう。
「君と一緒にいたかったからだ。サニのことが、好きになったから」
予想もしなかった回答に、サニはうろたえる。
「えっ……そ、そんな、からかわないでください」
「ひとつもからかってなんかいないんだが? 俺は本気だ」
リエイムが今度は挑戦的な瞳になって起き上がった。強い目力に射貫かれてしまいそうで、サニはどきりとする。
「……俺は、サニにどんな過去があっても、頑張ってこれから忘れさせると意気込んでいた。報われなかった恋なら尚更、逆に俺が支えになればいいのだと。だからできるかぎり時間を共にすごしたかった」
なんと返していいかわからず、サニはただ無言で聞いていた。
「でも無理だ。君は今もこれからも、その人のことをひたすら一途に思い続ける。俺がどんなにおかしい話で笑わせても、綺麗な場所に連れて行っても、笑ったり感動したりした後、一瞬後にサニはもう好きな人のことを考えている。それが昨日、身にしみてわかったのだ。サニの想い人に、完全完敗だ」
リエイムが嘘を言っているようには思えなかった。というか、思い返せばリエイムが嘘を言っていることなど一度だってなかった。いつだって、茶化そうが冗談っぽく収めようが、ありのままの気持ちをちゃんと打ち明けてくれる。
「……リエイム様は、私でなくても他にお相手が余るほどいるでしょう。昨日のように」
「あの中の誰も、サニの魅力には叶わない。冷静ななふりして意外に熱くて、冷たいように見えて面倒見が良くて、俺の誘いをなんだかんだ断れなくて。実のところとても弱い部分があって、そのはかなさが見えるとたまらなくなるんだ。守りたくなる」
「あーあ。もう、降参だ」
前置きもなく、リエイムは倒れるようにパタンと背中を芝生の上に預けてしまう。
「え?」
のぞき込むと、予想外に真面目な灰色の瞳とぶつかった。
誰もいないだろうと扉を勢いよく開けたとき、外側に人がいたときのような意表を突かれる。視線を外すことができず、しばらく見つめ合う。
「質問していいか」
「はい」
「なぜ俺がパロモを連れてグラニの慣らしに同行したり、嫌がるサニを無理矢理舞踏会に連れてきたり、好きな人のことを打ち明けろなんて迫ったと思う?」
「……暇だから、ですか?」
答えると、ぷっと噴き出される。
「そんなわけあるか。これでも色々やることはあってな」
それでもすぐにまた真剣な表情に戻ってしまう。
「君と一緒にいたかったからだ。サニのことが、好きになったから」
予想もしなかった回答に、サニはうろたえる。
「えっ……そ、そんな、からかわないでください」
「ひとつもからかってなんかいないんだが? 俺は本気だ」
リエイムが今度は挑戦的な瞳になって起き上がった。強い目力に射貫かれてしまいそうで、サニはどきりとする。
「……俺は、サニにどんな過去があっても、頑張ってこれから忘れさせると意気込んでいた。報われなかった恋なら尚更、逆に俺が支えになればいいのだと。だからできるかぎり時間を共にすごしたかった」
なんと返していいかわからず、サニはただ無言で聞いていた。
「でも無理だ。君は今もこれからも、その人のことをひたすら一途に思い続ける。俺がどんなにおかしい話で笑わせても、綺麗な場所に連れて行っても、笑ったり感動したりした後、一瞬後にサニはもう好きな人のことを考えている。それが昨日、身にしみてわかったのだ。サニの想い人に、完全完敗だ」
リエイムが嘘を言っているようには思えなかった。というか、思い返せばリエイムが嘘を言っていることなど一度だってなかった。いつだって、茶化そうが冗談っぽく収めようが、ありのままの気持ちをちゃんと打ち明けてくれる。
「……リエイム様は、私でなくても他にお相手が余るほどいるでしょう。昨日のように」
「あの中の誰も、サニの魅力には叶わない。冷静ななふりして意外に熱くて、冷たいように見えて面倒見が良くて、俺の誘いをなんだかんだ断れなくて。実のところとても弱い部分があって、そのはかなさが見えるとたまらなくなるんだ。守りたくなる」
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