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第三章
翌朝 2
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「では午後から馬車だけを城に帰し、馬に乗って俺たちはゆっくり戻らないか? 窮屈な車内でずっと揺られているのは嫌いなんだ」
「でしたら、お一人でそのようにお帰りください」
「馬車から外すなら二頭じゃないと。一頭だけ連れると、馬車が偶数になってバランスが悪くなってしまう」
そんなことを言いながらも、サニの体調を気遣って提案してくれているように思えた。
四頭に引かれる馬車は馬力はあるが山道を超えるときかなり揺れる。
一頭に乗るほうが気兼ねないし馬に意思を伝えやすい分だいぶ楽だ。確かに、領に入るまで密室で何時間も二人きりになるよりはマシ。
それに馬を並ばせれば、せめて対面しないで済む。
リエイムの提案に乗り二頭を残して馬車を帰した。
山の頂上近くで馬から下り、遅めの昼食を広げる。
もう大分二日酔いは回復して、気分も良くなっていた。
「昨日は……嫌な思いをさせてすまなかったな」
「いいえ、舞踏会に行くことを承諾したのは、私ですので……」
「それもそうなんだが、無理矢理サニの想い人のことを聞き出そうとして、君を怒らせてしまった。とても悪いことをしたと反省している」
サニは驚きで、食べていたものを詰まらせそうになった。
感情的になって一方的に鬱憤をぶちまけたあげく一方的にキスまでして、明らかに悪いのは自分の方なのに、この男はまだ自分に非があると謝ってくれているのだ。
「いいえ、こちらこそ大変無礼なことをしてしまいなんとお詫び申したらいいか……本当にすみませんでした」
サニはぐっと気持ちを押し殺しながら答えた。
「君が切なそうに愛する人の話を打ち明ける姿を見て、自分がどれだけ軽率な質問をしてしまったかを悟った。土足で君の心に上がり込み、荒らしてしまった。あんな風に怒られて、当然だ」
酔っていたとはいえ、あの時なぜ自分はあんなことを言い出したんだろうと自問すれば、答えは明らかだった。
聞いてほしかったのだ。自分の好きな人の話を、本人に。
サニは気持ちを整えて、静かに口を開いた。
「昨日……私の身体に彫られた墨を、見られましたか?」
「ああ。模様に見覚えがあった。その……サニは……」
「はい。私は、元々クレメントに派遣された聖舞師でした」
もう下手に取り繕ってもしょうがない。サニは本当のことを口にする。リエイムは驚くでもなく「そうか」と頷いた。
「知っていたのですか?」
「実は二回目に会ったとき、グラニを前にサニが踊っていたのを、一瞬だけ見てしまったのだ。あれは、聖舞術だろう。それに、昨日のダンスも素人とは思えない、見事な足使いだったから」
「でしたら、お一人でそのようにお帰りください」
「馬車から外すなら二頭じゃないと。一頭だけ連れると、馬車が偶数になってバランスが悪くなってしまう」
そんなことを言いながらも、サニの体調を気遣って提案してくれているように思えた。
四頭に引かれる馬車は馬力はあるが山道を超えるときかなり揺れる。
一頭に乗るほうが気兼ねないし馬に意思を伝えやすい分だいぶ楽だ。確かに、領に入るまで密室で何時間も二人きりになるよりはマシ。
それに馬を並ばせれば、せめて対面しないで済む。
リエイムの提案に乗り二頭を残して馬車を帰した。
山の頂上近くで馬から下り、遅めの昼食を広げる。
もう大分二日酔いは回復して、気分も良くなっていた。
「昨日は……嫌な思いをさせてすまなかったな」
「いいえ、舞踏会に行くことを承諾したのは、私ですので……」
「それもそうなんだが、無理矢理サニの想い人のことを聞き出そうとして、君を怒らせてしまった。とても悪いことをしたと反省している」
サニは驚きで、食べていたものを詰まらせそうになった。
感情的になって一方的に鬱憤をぶちまけたあげく一方的にキスまでして、明らかに悪いのは自分の方なのに、この男はまだ自分に非があると謝ってくれているのだ。
「いいえ、こちらこそ大変無礼なことをしてしまいなんとお詫び申したらいいか……本当にすみませんでした」
サニはぐっと気持ちを押し殺しながら答えた。
「君が切なそうに愛する人の話を打ち明ける姿を見て、自分がどれだけ軽率な質問をしてしまったかを悟った。土足で君の心に上がり込み、荒らしてしまった。あんな風に怒られて、当然だ」
酔っていたとはいえ、あの時なぜ自分はあんなことを言い出したんだろうと自問すれば、答えは明らかだった。
聞いてほしかったのだ。自分の好きな人の話を、本人に。
サニは気持ちを整えて、静かに口を開いた。
「昨日……私の身体に彫られた墨を、見られましたか?」
「ああ。模様に見覚えがあった。その……サニは……」
「はい。私は、元々クレメントに派遣された聖舞師でした」
もう下手に取り繕ってもしょうがない。サニは本当のことを口にする。リエイムは驚くでもなく「そうか」と頷いた。
「知っていたのですか?」
「実は二回目に会ったとき、グラニを前にサニが踊っていたのを、一瞬だけ見てしまったのだ。あれは、聖舞術だろう。それに、昨日のダンスも素人とは思えない、見事な足使いだったから」
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