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第三章
眠っていた記憶 2
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「なにをやってるんだ! 一緒に崖から落ちるなんて、正気の沙汰か! 龍にならなかったら死んでたぞ!」
怒る剣幕に一瞬すくんだものの、しかしこちらも興奮していた。負けじと声を張る。
「だって、一人だけ生き残るなんて嫌です! そもそもあなたに公子としてご家族に囲まれて安全に暮らしてほしかったから私は真珠を使ったわけなので!」
自分でも驚くほどの声量が出た。始めてこんなに腹から声を張り上げたかもしれない。
「元はといえば俺が真珠を使おうと思ってたのに、相談もせず勝手に持ち去って! 俺はすごく怒っているんだからなっ」
「あなただって人のこと言えないじゃないですか⁉ 肝心なところで大切なことを言わないで、一人で責任を背負おうとするくせに!」
「当たり前だろう! 君が、まず幸せに生きてくれることが俺にとって何より大切なことなんだからっ」
「そんなの私だって一緒です!」
「じゃあさっきは俺の一世一代の告白をあんな風に蹴散らすんじゃなくて、ちょっとはお情けでキスくらい、してくれてもいいんじゃなかったのかっ?」
「だって、私はあなたが好きなんですから! それにリエイム様にはちゃんとした公女様と結婚された方がいいですし、龍になる可能性も……え?」
そこでサニはようやく会話がおかしいことに気づいた。
「俺がどんな気持ちで愛する人のことを話すサニを見ていたと……ん?」
怪訝に首をひねってからリエイムも自分の発言が変だと思ったのかまた反対方向に曲げる。しばし頭のてっぺんをノックするように叩いたかと思うと「あああっ!」と叫んだ。
「サニ? ああ、サニか!」
「リエイム? そ、それともリエイム様?」
「どっちもだ。俺は、君のことを今の今まですっかり忘れていたな? そうだ、そうだよ。サニが一人で真珠を使ってしまうから!」
「き、記憶が……戻ってる?」
驚きで腰が砕けてしまい、サニはその場に膝をついた。それをすかさずリエイムが支える。
「ああ、全部思い出した。はっきりと」
「な、なんで……?」
言葉がうまく出てこない。
「わからん。龍になって、戻ってきたら今までの自分と前の記憶がぴたっとくっついたような……いや違うな、眠っていたもう一つの部分が表に出てきたというか、ああ表現しづらいが、とにかく全部頭の中にちゃんとある。なぜだろう」
リエイムの腕の中で、これまでのことを考えてみた。「そういえば……」とあるひとつの事実を思い出す。
「グラニは、私のことを忘れていませんでした。だから背中にも乗せてくれましたし」
「なるほど、真珠を使っても動物は記憶を失わないのか。ということは、動物……とくくっていいかはわからんが、人間ではない龍の俺が、ちゃんと君の記憶を捨てずに残しておいたのだな。それで、変身した際今の俺と合体できたのかもしれん」
「う、うそ……」
嬉しい。信じられない。でも本当に?
流れ星のように様々な感情がさっと生まれては消える。サニはまだ混乱する頭で、間抜けな一言を発していた。
「あ、あれだけもう二度と龍には乗らないと言ったのに……っ」
はははっと大きくリエイムが声を上げ笑った。
「でも、結果記憶が統合できてよかったじゃないか」
「じゃあ、そんなに一緒に落ちたことを責めないでくださいよ」
「それもそうだな、すまなかった」
怒る剣幕に一瞬すくんだものの、しかしこちらも興奮していた。負けじと声を張る。
「だって、一人だけ生き残るなんて嫌です! そもそもあなたに公子としてご家族に囲まれて安全に暮らしてほしかったから私は真珠を使ったわけなので!」
自分でも驚くほどの声量が出た。始めてこんなに腹から声を張り上げたかもしれない。
「元はといえば俺が真珠を使おうと思ってたのに、相談もせず勝手に持ち去って! 俺はすごく怒っているんだからなっ」
「あなただって人のこと言えないじゃないですか⁉ 肝心なところで大切なことを言わないで、一人で責任を背負おうとするくせに!」
「当たり前だろう! 君が、まず幸せに生きてくれることが俺にとって何より大切なことなんだからっ」
「そんなの私だって一緒です!」
「じゃあさっきは俺の一世一代の告白をあんな風に蹴散らすんじゃなくて、ちょっとはお情けでキスくらい、してくれてもいいんじゃなかったのかっ?」
「だって、私はあなたが好きなんですから! それにリエイム様にはちゃんとした公女様と結婚された方がいいですし、龍になる可能性も……え?」
そこでサニはようやく会話がおかしいことに気づいた。
「俺がどんな気持ちで愛する人のことを話すサニを見ていたと……ん?」
怪訝に首をひねってからリエイムも自分の発言が変だと思ったのかまた反対方向に曲げる。しばし頭のてっぺんをノックするように叩いたかと思うと「あああっ!」と叫んだ。
「サニ? ああ、サニか!」
「リエイム? そ、それともリエイム様?」
「どっちもだ。俺は、君のことを今の今まですっかり忘れていたな? そうだ、そうだよ。サニが一人で真珠を使ってしまうから!」
「き、記憶が……戻ってる?」
驚きで腰が砕けてしまい、サニはその場に膝をついた。それをすかさずリエイムが支える。
「ああ、全部思い出した。はっきりと」
「な、なんで……?」
言葉がうまく出てこない。
「わからん。龍になって、戻ってきたら今までの自分と前の記憶がぴたっとくっついたような……いや違うな、眠っていたもう一つの部分が表に出てきたというか、ああ表現しづらいが、とにかく全部頭の中にちゃんとある。なぜだろう」
リエイムの腕の中で、これまでのことを考えてみた。「そういえば……」とあるひとつの事実を思い出す。
「グラニは、私のことを忘れていませんでした。だから背中にも乗せてくれましたし」
「なるほど、真珠を使っても動物は記憶を失わないのか。ということは、動物……とくくっていいかはわからんが、人間ではない龍の俺が、ちゃんと君の記憶を捨てずに残しておいたのだな。それで、変身した際今の俺と合体できたのかもしれん」
「う、うそ……」
嬉しい。信じられない。でも本当に?
流れ星のように様々な感情がさっと生まれては消える。サニはまだ混乱する頭で、間抜けな一言を発していた。
「あ、あれだけもう二度と龍には乗らないと言ったのに……っ」
はははっと大きくリエイムが声を上げ笑った。
「でも、結果記憶が統合できてよかったじゃないか」
「じゃあ、そんなに一緒に落ちたことを責めないでくださいよ」
「それもそうだな、すまなかった」
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