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第二章
蚤の市 3
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リエイムが見せてきた商品に、飲んでいたモントペリエールを思わず派手に吹き出しそうになって、激しくむせた。本くらいの大きさの紙に描かれていたのは紛れもなく自分の顔だったからだ。
「な、なんですか、これ……!」
「なんと言うことだ、けしからん」
手に取ったサニの似顔絵にもう一度目を通したリエイムも、厳しい顔になった。裏で在庫を整理していた店主を呼び止める。
「おやじ、ちょっといいか」
「あっはい、リエイム様いらっしゃったのですか」
「このサニの顔だが、もっと鍛錬が必要じゃないか? まず、左頬の下のほくろが描かれていない。それに、まつげだって実物は、仔牛のように長い。細かいが、少し違うだけで全然印象が違う。ほら見てくれ」
リエイムはサニを引き寄せ、顔の各所を指さした。
「なるほど、確かに……!」
「実物の方が何倍も綺麗だ。サニの顔を記憶に刻み込んでくれ」
「承知いたしました。次回は必ずやリエイム様を満足させてご覧になります」
店主が早速スケッチを始めたので、必死にそれを止める。
「そ、そうじゃなくて! やめさせてくださいよっ」
「そりゃあ、サニはオーフェルエイデの大切な一員だからな。商品が並ぶのは当然だろう」
「こんなの売ったってお金になりません! 労力の無駄ですっ」
ふたりの会話を聞いていた店主が言いづらそうに申し出る。
「それが……サニ様の似顔絵はリエイム様と並んで飛ぶように売れていて、残ってるのがこれだけなんですよ」
なぜか店主本人よりリエイムの方が得意そうに、そらみろ、と顎を上げた。
「だろうな。絵の質が多少劣っても、実物のサニはこんな美しいのだから。おやじ、改良の期待も含め、俺が残りの全部を買おう」
「まいどあり!」
阻止することができず、結局脱力しながら次の店に進む。
「そんなに沢山どうするのですか……」
「もちろん飾るに決まっている。次の蚤の市までにどれくらい完成度を高めてくれるか楽しみに眺めるんだ」
呆れるこちらを気にすることなく満足げに紙を丸め、尻のポケットに突っ込む。
ふいにリエイムが髪飾りの店に吸い込まれていった。かんざしを一つ持ち上げ、サニの髪の上にのせた。
「な、なんですか、これ……!」
「なんと言うことだ、けしからん」
手に取ったサニの似顔絵にもう一度目を通したリエイムも、厳しい顔になった。裏で在庫を整理していた店主を呼び止める。
「おやじ、ちょっといいか」
「あっはい、リエイム様いらっしゃったのですか」
「このサニの顔だが、もっと鍛錬が必要じゃないか? まず、左頬の下のほくろが描かれていない。それに、まつげだって実物は、仔牛のように長い。細かいが、少し違うだけで全然印象が違う。ほら見てくれ」
リエイムはサニを引き寄せ、顔の各所を指さした。
「なるほど、確かに……!」
「実物の方が何倍も綺麗だ。サニの顔を記憶に刻み込んでくれ」
「承知いたしました。次回は必ずやリエイム様を満足させてご覧になります」
店主が早速スケッチを始めたので、必死にそれを止める。
「そ、そうじゃなくて! やめさせてくださいよっ」
「そりゃあ、サニはオーフェルエイデの大切な一員だからな。商品が並ぶのは当然だろう」
「こんなの売ったってお金になりません! 労力の無駄ですっ」
ふたりの会話を聞いていた店主が言いづらそうに申し出る。
「それが……サニ様の似顔絵はリエイム様と並んで飛ぶように売れていて、残ってるのがこれだけなんですよ」
なぜか店主本人よりリエイムの方が得意そうに、そらみろ、と顎を上げた。
「だろうな。絵の質が多少劣っても、実物のサニはこんな美しいのだから。おやじ、改良の期待も含め、俺が残りの全部を買おう」
「まいどあり!」
阻止することができず、結局脱力しながら次の店に進む。
「そんなに沢山どうするのですか……」
「もちろん飾るに決まっている。次の蚤の市までにどれくらい完成度を高めてくれるか楽しみに眺めるんだ」
呆れるこちらを気にすることなく満足げに紙を丸め、尻のポケットに突っ込む。
ふいにリエイムが髪飾りの店に吸い込まれていった。かんざしを一つ持ち上げ、サニの髪の上にのせた。
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