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第5話
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数日後、アード様は再び屋敷を訪れました。
やはりというか、お父様が留守にしている日取りです。
「あー……レイナ。この間の件なんだがな……」
私に会うなり、アード様は歯切れ悪くそう話を切り出しました。
こういうときだけ”お前”ではなく”レイナ”と呼んでくるのが可笑しいですが、笑ってしまうのはこらえます。
「この間? 一体なんのことですか?」
「俺とおま……レイナとの、婚約のことだ」
今、また”お前”って言いそうになりましたね。
別に無理をしなくてよろしいですのに。なんだか逆にイラっとします。
アード様が「わかるだろ?」とばかりの視線でこちらの顔色を窺ってくるので、作り笑顔で促すと、彼は私が怒っていないと判断したのか続きを話し始めました。
「あの婚約破棄の件は、間違いだ。勘違いだったと、きみの父上に伝えておいてくれないか?」
「あら、そうですか。勘違いとは?」
「ッ、だからっ! 丸く収まるように――っ!」
身を乗り出して、アード様は声を荒げます。
彼はこう言っているのです。婚約破棄をされたというのは、私レイナ・ソファンの勘違いだった。そうお父様に弁解しろと。
「アード様、少し落ち着きになってください。お嬢様が怯えになっております」
「なッ!? うるさい! 従者は黙っていろ!!」
私の傍に控えたティディが、冷ややかに彼を窘めました。
アード様はギロリとティディを睨み、それから小さく舌打ちをします。ちなみに私は怯えていません。今日はティディがいてくれていますし、アード様がなにを言うつもりかは大体わかっていますから。
「急にそんなことを言われても、なにがあったのかわかりませんわよ。よければ事情をお話になって?」
「……察しの悪い女だな」
なるべく優しい口調になるよう注意しながら問いかけると、アード様はボソリと悪態を吐きました。「察しが悪い」などと言われましても、読心の魔法でも使えない限りは、なにがあったのかわかるはずないと思いますけど……。まあ、本当は知ってるんですけどね。
「……アレは、真実の愛なんかじゃなかったんだよ」
「はい?」
「っ、だ、だからだな! この間のアレは、シルヴィアの奴は、俺の運命の相手じゃなかったんだと言っている!」
「はぁ、そうなのですか」
「ぐっ、こ、この……っ」
ぎゅっと拳を握りしめ、アード様は肩をプルプル震わせます。
もし二人きりなら”殴られるかも”と不安になっていたかもしれませんが、ティディがいるのでその心配はありません。アード様には気の毒ですが、やはり今回は同席してもらって正解だったようでした。
「でも、どうして心変わりをされたのですか? 先日お会いしたときは、あんなにも自信たっぷりでしたのに」
「ぬぐっ!? そ、ぐ、く、」
安心感からか、”このくらいの意趣返しは別にいいよね?”と、思わず煽るようなことを言ってしまいます。
見るとアード様の顔色は、なんだかどんどん悪くなってきているようでした。……加減を間違えないようにしないといけませんね。
「……あいつは、あのシルヴィアの奴は、ヨハン伯に言われて俺に近づいただけだったんだ。調子のいいことばかり言いやがって。しかもあの女、もし俺と結婚してたら薬を使って、”風”の属性の子供を産むつもりでいやがった!」
――だから俺は悪くない!
と、そう締めくくるような表情で、アード様は吐き捨てるように言いました。
「そうですか」
私は顔色を変えずに答えます。
本音を言えば、結婚はするつもりだったんだな……と嫌な気分にはなっていますけど。
――”炎と風は相性がいい。”
アード様が私に語った言い訳ですが、これは事実の一面でしかありません。
確かに風には、炎を強める力があります。
ですがその勢いによっては、吹き消してしまうこともあるのです。
アード様の言う”薬”というのは、母親側の持つ”風”の魔力を一時的に強めて、生まれてくる子供に”炎”の属性を受け継がせない効果を及ぼす魔法薬のことでしょう。
跡継ぎとなる子が受け継いだのが”風”の魔力であるならば、タルファン家とハーキンス家の力関係は逆転してしまいますから。
そしてその計画を考えたのは、以前の社交界でアード様と肩がぶつかったという理由で軽い口論になったヨハン伯爵令息。
この事実を、アード様はティディの働きによって”偶然”知ることとなったのでした。
「でも、今日はお父様もお屋敷にいませんし、どうしたものですかね……」
「そんなことは知っている! だからお前がだなッ!」
「お前?」
「い、いや、レイナに、その……頼みたい」
「どうしましょうか。困りましたわね……」
「ぐ、く、くぅ……ッ!」
本当はそもそも、婚約破棄の件をお父様に話してなどいないのですが。
さて、この埋め合わせはどうやってしていただきましょうか。
やはりというか、お父様が留守にしている日取りです。
「あー……レイナ。この間の件なんだがな……」
私に会うなり、アード様は歯切れ悪くそう話を切り出しました。
こういうときだけ”お前”ではなく”レイナ”と呼んでくるのが可笑しいですが、笑ってしまうのはこらえます。
「この間? 一体なんのことですか?」
「俺とおま……レイナとの、婚約のことだ」
今、また”お前”って言いそうになりましたね。
別に無理をしなくてよろしいですのに。なんだか逆にイラっとします。
アード様が「わかるだろ?」とばかりの視線でこちらの顔色を窺ってくるので、作り笑顔で促すと、彼は私が怒っていないと判断したのか続きを話し始めました。
「あの婚約破棄の件は、間違いだ。勘違いだったと、きみの父上に伝えておいてくれないか?」
「あら、そうですか。勘違いとは?」
「ッ、だからっ! 丸く収まるように――っ!」
身を乗り出して、アード様は声を荒げます。
彼はこう言っているのです。婚約破棄をされたというのは、私レイナ・ソファンの勘違いだった。そうお父様に弁解しろと。
「アード様、少し落ち着きになってください。お嬢様が怯えになっております」
「なッ!? うるさい! 従者は黙っていろ!!」
私の傍に控えたティディが、冷ややかに彼を窘めました。
アード様はギロリとティディを睨み、それから小さく舌打ちをします。ちなみに私は怯えていません。今日はティディがいてくれていますし、アード様がなにを言うつもりかは大体わかっていますから。
「急にそんなことを言われても、なにがあったのかわかりませんわよ。よければ事情をお話になって?」
「……察しの悪い女だな」
なるべく優しい口調になるよう注意しながら問いかけると、アード様はボソリと悪態を吐きました。「察しが悪い」などと言われましても、読心の魔法でも使えない限りは、なにがあったのかわかるはずないと思いますけど……。まあ、本当は知ってるんですけどね。
「……アレは、真実の愛なんかじゃなかったんだよ」
「はい?」
「っ、だ、だからだな! この間のアレは、シルヴィアの奴は、俺の運命の相手じゃなかったんだと言っている!」
「はぁ、そうなのですか」
「ぐっ、こ、この……っ」
ぎゅっと拳を握りしめ、アード様は肩をプルプル震わせます。
もし二人きりなら”殴られるかも”と不安になっていたかもしれませんが、ティディがいるのでその心配はありません。アード様には気の毒ですが、やはり今回は同席してもらって正解だったようでした。
「でも、どうして心変わりをされたのですか? 先日お会いしたときは、あんなにも自信たっぷりでしたのに」
「ぬぐっ!? そ、ぐ、く、」
安心感からか、”このくらいの意趣返しは別にいいよね?”と、思わず煽るようなことを言ってしまいます。
見るとアード様の顔色は、なんだかどんどん悪くなってきているようでした。……加減を間違えないようにしないといけませんね。
「……あいつは、あのシルヴィアの奴は、ヨハン伯に言われて俺に近づいただけだったんだ。調子のいいことばかり言いやがって。しかもあの女、もし俺と結婚してたら薬を使って、”風”の属性の子供を産むつもりでいやがった!」
――だから俺は悪くない!
と、そう締めくくるような表情で、アード様は吐き捨てるように言いました。
「そうですか」
私は顔色を変えずに答えます。
本音を言えば、結婚はするつもりだったんだな……と嫌な気分にはなっていますけど。
――”炎と風は相性がいい。”
アード様が私に語った言い訳ですが、これは事実の一面でしかありません。
確かに風には、炎を強める力があります。
ですがその勢いによっては、吹き消してしまうこともあるのです。
アード様の言う”薬”というのは、母親側の持つ”風”の魔力を一時的に強めて、生まれてくる子供に”炎”の属性を受け継がせない効果を及ぼす魔法薬のことでしょう。
跡継ぎとなる子が受け継いだのが”風”の魔力であるならば、タルファン家とハーキンス家の力関係は逆転してしまいますから。
そしてその計画を考えたのは、以前の社交界でアード様と肩がぶつかったという理由で軽い口論になったヨハン伯爵令息。
この事実を、アード様はティディの働きによって”偶然”知ることとなったのでした。
「でも、今日はお父様もお屋敷にいませんし、どうしたものですかね……」
「そんなことは知っている! だからお前がだなッ!」
「お前?」
「い、いや、レイナに、その……頼みたい」
「どうしましょうか。困りましたわね……」
「ぐ、く、くぅ……ッ!」
本当はそもそも、婚約破棄の件をお父様に話してなどいないのですが。
さて、この埋め合わせはどうやってしていただきましょうか。
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