料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました

九条 雛

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第5話:エピローグ

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「うん、今日もとても美味しいよ。いつもありがとう、エルネット」

 にっこりと私に微笑みかけて、旦那様がそう仰います。
 彼の名前はデミアルド様……ではなく、全然別の魔族の方です。

 あのシチュー(?)事件のあと、デミアルド様が私に指一本触れていないことも判明し、それならばと彼のお父様は、すぐさま私に別の縁談を持ち掛けたのでした。

 私はいくつかの条件付きで、そのお話をお受けすることにいたしました。

 ひとつは、お相手は優しい方であること。
 ひとつは、外に愛人を作ったりしない方であること。

「こちらこそ、私の我儘を聞いてくださり、本当にありがとうございます。慣れない環境で大変でしょう? せめてご自宅ではお寛ぎになってください」

「いやいや、人間族の国には前から住んでみたかったんだ。きみが気を遣う必要はないよ。それに、自分の妻と一緒にいられるのを嫌がる男などいるはずないさ」

 そしてひとつは、魔族の国ではなく人間族の国で暮らすことです。

 新しい旦那様との生活は、とても上手くいっています。
 彼は優しい方ですし、何より私の作った料理を「とても美味しい」と嬉しそうに食べてくれるのです。

「いやはや、それにしてもきみの料理は、まるで宮廷のものにも引けを取らない美味しさだなぁ。このままだと太ってしまいそうだよ」

「ふふ、そんな、褒めすぎですよ。おかわりはいっぱいありますからね、どうぞ太ってくださいな」

「むむ、これは大変だ。何か運動でも始めるかなぁ」

 おっとりとそう述べる旦那様は、しかし魔族であるからなのか、とても引き締まった体をしています。
 私の作った料理がそんな彼の血肉になっているのだと思うと、なんだか感慨深いです。

 これだけ喜んでもらえるならば、デミアルド様のところでのつらい日々も、修行のようなものだったとして許せるかもしれません。

 最初はもう、どうにでもなれとやけくそで起こした事件でしたが……。
 しかし、こうして私はその結果、幸せな家庭を手に入れて、楽しい食事の時間を取り戻すことができたのでした。

 ただ……。

「――あの、奥方様。またあの方からお手紙が届いておりますが」

「……一応、内容を確認して、前回と同じなら捨てておいていただけますか?」

「えっ、その、使用人ふぜいが、大事なお手紙の中身を見るわけには……」

「いいのです。えっと、それなら旦那様に渡してください。私は見たくないのです……」

 私宛の文を届けに来た使用人の方が、困った顔を旦那様のほうへ向けます。
 旦那様は笑顔で文を受け取って、中身を見てからびりっと破り捨てました。

「……大丈夫だよ、エルネット。彼のほうから、きみに会いにはこれないはずさ。何しろ一生謹慎だからね」

「そうですけど……。そこはその、俺が守るよとか、言ってくださらないんですの?」

「もちろん、きみのことは命にかえても守ってみせよう。俺の愛するエルネット」 

「……っ、ありがとう、ございます」

 軽い口づけを交わしたのちに、旦那様はふと、不思議そうに私の顔を見て尋ねてきました。

「しかしエルネット。きみの料理が美味しいのは知っているけれど、いったいデミアルド殿に何を作って差し上げたんだい? 謹慎中の身でありながら、こんなに何度もきみの”あの料理”が食べたいと手紙をよこしてくるなんて」


 ―― fin. ――
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