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第十二話
しおりを挟むアラナを見付けられるなら、こんな街の一つや二つ、殲滅してくれる。
「暗くなったら領主の屋敷に向かいます。アラナがいるとしたらそこでしょう」
「もしいなかったらどうするんだ!? 他に当てはあるのか?」
「当てはありません。奴隷商の所に行ったのは、この街では亜人に対する扱いが奴隷と同等だからです。領主の所だと思うのは偵察が見付かり捕まったと考えているからです」
「アラナの事だから領主と一緒にお茶でも飲んでいるのである」
ルフィナの精一杯の冗談に心が痛む。アラナに偵察を指示したのは僕だ。こうなった責任は僕にある。もっと早く帰らせておけば……
「今は少しでも休んで下さい。お願いします」
自分でも分かってる力なく言ったことを。
自分でも分かってる力が無いことを。
誰かを守れる力が欲しいと願わずにはいられない。
日が陰っても街中は明るかった。いつもの傭兵の時の鎧を付けて全員での行動は目立つため二手に別れて領主の屋敷を目指さした。
僕とプリシラさんとソフィアさんは正面から、クリスティンさんとルフィナ、オリエッタは裏から。本当は側面からのはずがプリシラさんの「却下」で正面から堂々と。
正面の門に向かえば、一人の男が待ち構える様に立っていた。僕として顔も会わさず、お邪魔しようとしたのだけど、プリシラさんの「却下」が続き、腹いせにケツを触ったら裏拳が飛んできた。
「お待ちしておりました、白百合団の方々。私、フゲン侯爵の腹心、エリヒオ・トルドラと申します」
「おう! ご苦労。何で来たか分かってるな!」
プリシラさん、門に手を掛けて返答するのは止めて下さい。動物園のゴリラに見えます。動物園のライカンスロープか?
「もちろんでございます。小さな可愛い亜人のお嬢さんのことですね」
それを聞いたプリシラさんは刀を抜いた。短い話し合いの時間だった。せめてアラナの安否が分かるまでは静かにしていたかったけど、仕方がないね。
「返してもらう!」
もう少し待て! 出来ればアラナの所まで案内してもらおう。館は広そうだし人質に取れば僕の盾にはなってくれるよ。プリシラさんの力は、必要になった時に必要以上に振り撒いてくれて構わないから。
「 多少、行き違いはございましたが、お嬢様は丁重に扱っております」
丁重だと!? 拷問にかけられているかと思った。もし僕が拷問するなら手足を縛って見動けなくし、服を脱がしてベッドにゴーだ!
「白百合団、団長のミカエルです。すぐにでも引き取ってかえりたいのですが……」
「ここで立ち話もあれですから、どうぞ屋敷の中へ。我が主、フゲン侯爵から話もありますので」
話だと? 敵である侯爵とする話なんて、なんだろう? あるとすれば…… 引き抜きを考えられるけど、もしかしたらアラナとの結婚の承諾を求めて来るとか!? それなら引き抜きに間違いない。そしたらどうしよう? アラナの幸せを一番に考えて……
「わかりました。その前に裏手に回ったうちの団員を止めなければなりません。裏手に行った方が話を聞かない者が多いので」
「分かりました。私が参りましょう。屋敷への案内はこちらのものが」
トルドラの後ろに隠れて見えなかったメイド服を着た女性が横に出て、頭を下げた。可愛い娘だと思うが、目付きが傭兵と同じだ。あれは人を殺している目だが、僕はそれでも構わないよ!
「こちらでお待ち下さい」
正面門から歩かされ、メイドの異様な速さに僕とソフィアさんは着いていくのが大変だった。玄関をくぐり広場みたいに大きな所で僕達は待たされ、メイドは奥に消えていった。
このメイドも何者なんだ? さっきはトルドラしかいないと思ったのに不意に出てきたし、あの歩く速さは人を案内する速さじゃない。
暫くすると、普通の速さで歩いて来るトルドラに、案内されてクリスティンさん達がやって来た。
「無事でしたか?」
「とんでもない。我が屋の手勢、三十名ほどがやられております」
あんた方の心配はしてませんよ。クリスティンさん達の心配をしたんです。 でも三十名がやられてクリスティンさん達を相手に無傷とは、トルドラも普通ではなさそうだ。
「主の所へ案内いたします」
「先にアラナを返してもらいたい」
「お嬢様は主の元におりますので、そのときに」
勿体ぶりやがって。下手な事をしたらフゲン侯爵には消えてもらうからな。僕が消す訳じゃないけど、プリシラさんなら消す。せめて話を効いてからにしてね。
案内されたフゲン侯爵の部屋は会議が出来るほど大きく、豪華な飾りのある明かりは無駄なほどに照らされていた。
「アラナ!」
部屋の応接ソファーでフゲン侯爵とチェスの様なもので遊んでいるアラナ。縛られてる個とも無く、ケーキを頬張っていた。
「た、だんひょうが来たッス」
猫の様に喜んで抱きついて来たアラナを抱き止めたが、本気のダッシュで来るのは痛いから止めて。とろあえず怪我は無さそうで良かった。無事のようだしさっさと帰ろう。
「君が白百合団の団長かね?」
偉そうに! 偉いんだけど、アラナに何かしてたら、ぶち殺すところだぞ! 何かしてもいいのは白百合団の団長だけと、団則に載ってるんだ。
「はい。白百合団、団長のミカエル・シンと申します。この度はアラナがお世話になりまして、ありがとうございます」
「ふむ、実は君達、白百合団に話があってアラナ君を引き留めさせてもらった。連絡が出来ず申し訳ない」
あれ? 以外と下手に出てくるのに驚いた。話があるならゾンビ鳥があったのに。連絡をくれたら一人で来たのに…… 怖いからプリシラさんの護衛を付けて二人で来たのに。
「降伏ならしませんよ」
懐柔されるほど落ちぶれたつもりは無いんだけど、見くびられているのかな? これでも殲滅旅団の二つ名が付いた傭兵団なんだぞ。
「そのような事は言わん。必要ならクレスタはくれてやる」
クレスタだけに「くれてやる」 下手な冗談のつもりか!? ギャグのセンスなら僕の方が上だろ。しかしクレスタの街より価値がある話ってなんだ?
「いったいどのような話なので?」
「君達が欲しい」
心臓が止まる告白。僕にその趣味は無いし、その言葉は女の子に言われると嬉しいが、こんなオジサンに言われてもなぁ。
「詳しく話を聞きましょう」
敵であるフゲン侯爵がクレスタをくれると言い、なおかつ雇ってくれる話なら聞いておいた方がいいのかな?
「あのハールトーク伯の事だ、クレスタの後は何も考えておるまい。よってクレスタをくれてやれば白百合団は必要と無くなるのではないか」
確かにクレスタに攻められる事を想定して守りの為に雇われていたが、クレスタがハールトーク伯爵の物になるなら白百合団は必要なくなる。
「白百合団には我々と一緒に戦ってもらいたい」
「ハールトーク伯爵とは戦いませんよ」
一応の義理もある。今日の味方は明日の敵なんて割り切れるほどじゃないが、傭兵ギルドからの要請があれば別だ。
「敵は魔族だ」
「「「え?!」」」
みんなが驚いているなかで僕は蚊帳の外です。魔族ってなんですか? 美味しいんですか? この世界に来て聞いた事の無い言葉です。
「さすがに動じはせぬか。たいしたものだ」
魔族ってなんですか? ゴブリンくらいは会った事があるけど、白百合団は対モンスターじゃなくて対人が相手なので。
「団長、相手が悪い。止めた方がいい」
プリシラさんにしては珍しく消極的なんですね。って、みんなを見たら、うつむいたりしてそんなにヤバい相手なの?
「そうも言えん。魔族は全てを喰らうまで進撃は止まんぞ。いずれはハールトークのケイベック王国も攻められるぞ。」
それはマズイですね。ハールトーク伯爵に契約金を払ってもらって、みんなで静かな所にでも逃げましょうか。
「逃げるなんて考えん方が良いぞ。ハルモニアの次はケイベックだからの」
参ったなぁ。 相手はかなり強いみたいだし進めば強敵、逃げれば孤立して各個撃破かな。前門の魔王、肛門ではしないでね。
「それならば領軍はなぜクレスタの街に進んでいるのですか? 魔族が来たなら魔族の方へ向かうべきではないですか」
「その通りだ。だが一週間もすれは国家騎士団も来てケイベックを落とす」
まったく何を考えているんだ。そんな事をしてなんになる。前門のハルモニア、後門のケイベック。
「不思議に思うだろう。これが我がハルモニア王家のくだらないプライドだよ。魔王軍に勝てぬと分かったら他国を攻めて王家だけでも生かすと言う事だよ」
「そんな事をしたって無駄なのに……」
「王家は地の果てまで逃げるつもりなんだろうさ……」
沈黙。 争いの意味を考えた事は無い。ただ傭兵として戦って来た白百合団にでさえ、これほど無意味な戦いは無いと思わさせた。
「……それで白百合団を雇おうと言う理由はなんですか?」
「我々はハルモニア王家に敵対しても諸国連合を結成して魔族をこの地から追い払う。その為にも白百合団の力を手に入れておきたい」
「諸国連合はハルモニア、ケイベック、ロースファーの三国ですか? ハルモニアとロースファーは今もやりあってますよね。ケイベックとも少し前まではハールトーク伯爵を攻めていたし、諸国連合が出来ると思ってるんですか?」
「その為の魔王だよ。連合を組まなければ誰一人としていきのこる事は出来ないからの。それを分からないのは我が王家だけと思いたい」
フゲン侯爵の言っている事は正しいのだろう。だからと言って簡単に手を取り合って戦えるはずがない。肛門には…… 後門には気を付けたい。
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