異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
13 / 292

第十三話

しおりを挟む

 「おぉい、こっちに来いよ」
 
 「今、馬車を運転中なんですよ。見ればわかるでしょ。それとメンナの殻を投げるのを止めて下さい。全部、避けてますよ」
 
 「ナマイキになりやがって」
 
 「プリ姉ぇ、僕に当たってるッス」
 
 「お前はいい加減に避けろよ」
 
 
 あのフゲン侯爵との対談より二年近くがたっていた。その間にハルモニアの王家は滅亡したがフゲン侯爵と侯爵が立ち上げた諸国連合は魔王軍と戦っていた。戦いは熾烈を極め魔王軍が少しづつ押すような形になっていった。
 
 「で、あたい達はどこに向かっているんだっけ」
 
 この会話は何度目だったかな。少しはお酒を控えて欲しい。夜のお酒も少な目にして休肝日を作ってね。
 
 「もうすぐ魔王の城に着きます。諸国連合とやりあってる隙間を縫って魔王の首を頂くんですよ」
 
 「でも団長、僕達だけでは少なくないッスか。城の中も強いのがいると思うんでッス。」
 
 「大丈夫よ、アラナ。 私達は強いのよ。自信を持って」
 
 僕達、白百合団はフゲン侯爵と共に戦い多大な功績から「勇者の団」とまで呼ばれるようになった。
 
 「…………私達は勇者の一団」
 
 クリスティンさんも昔に比べたら話す様になったね。これでもう少し笑顔が出せたら完璧なのに。相変わらず夜の声は大きいけど。
 
 「強い者がいたほうがいいのである。強い者から強いゾンビが出来るのである」
 
 変わらないあるね。 そんなにゾンビがいいのかね、ルフィナは。それとベッドの側でゾンビを立たせるのはどうだろうか?   二人きりで僕はしたい。
 
 「今回は最強の青騎士を用意しました~。わたしと青騎士が居れば魔王なんていちころです~」
 
 「いちころ」までは行かないだろうけど、オリエッタが作った青騎士はかなりの戦力になると思いますよ。僕自身が青騎士になったりしなくて良かったよ。
 
 「前から思ってたんだけどよ。何でミカエルの武器は大鎌なんだ?」
 
 「それはオリエッタに聞いて下さい。作ってくれたのはオリエッタですから」
 
 オリエッタが錬金術を作ってくれた武器は死神が持つような大きな鎌の形をして切れ味も耐久力も最高の物だ。まさに僕の理想とする物を作ってくれた、形以外は。
 
 「それはルフィナちゃんがデザインしたんです~。命を取るなら大きな鎌がいいって~」
 
 デザインはともかくとして、この大鎌はいい。魔導師ではない僕でも鎌自体が大気中の魔力を吸い取り切れ味を上げてくれて刃の反対から魔力を放出して大きな鎌の斬撃のスピードをあげてくれる。
 
 「勇者が持つには少し不気味に見えるかと……」
 
 確かにソフィアさんの言う通りですが僕としては気に入っているんですよね、形以外は。
 
 「何でこいつが勇者なんだよ。どうせ言うならヘタレ勇者だろ」
 
 悪かったなヘタレで!    噂だけが一人歩きして僕が勇者になった。功績の話は本当だし僕もプリシラさんも同じように大鎌をもって前線に出てる。
 
 「でも、この前トロールを二匹倒したのは僕ですよ」
 
 「……大きかった」
 
 クリスティンさんフォローありがとう。フゲン侯爵との話の後から僕も戦い始めました。怖かったけど皆が助けてくれて、何とか生きてこれた。その結果が勇者と呼ばれる様になったが、戦果の方は団員の中では最低だ。
 
 「わかったよ。 それよりもミカエル、敵の大将の首を取った時の戦時団則はどうなるんだ?」
 
 「どうって、いつも通りじゃないですか?」
 
 「いつも通りって事はないだろ。大将だぞ。魔王だぞ!    ハルモニア王家を滅ぼして、今だって諸国連合を苦しめてる親玉だぞ!    それをいつも通りって事はないだろ」
 
 いつもは敵の部隊長や将軍クラスの首を取ると「一日何でも出来る限りする券」を戦時団則にしていたけどそれだとダメなのか?
 
 「それなら何がいいんですか?」
 
 「…………■■」
 
 「ん?    何ていいました?」
 
 「結婚!    って言ったんだ……」
 
 結婚だと?!
 
 「「「キャーッ!」」」

 「魔王の首を取ったヤツとミカエルは結婚するんだ!  勇者ならとうぜんだろ。あたいと結婚したら一日中、可愛がってやるぜ」
 
 勇者と魔王の首と分からない理屈ですがプリシラさんとなら一ヶ月で死ねる自信があります。
 
 「……幸せになりましょう」
 
 不幸体質のクリスティンさんと結婚して「不幸にも心臓発作」に耐えられるのか!?
 
 「私が幸せにします」
 
 ソフィアさんとなら幸せになれるでしょうか?他の女の子を見ただけでメテオストライクが飛んできそうだ。
 
 「団長をゾンビ化して永遠に私の物にするのである」
 
 何もゾンビにしなくても生きてる間に幸せになる事を考えませんか。それとゾンビは腐ります。保存には気を付けてね、ルフィナ。
 
 「僕は子供をいっぱい造りたいッス」
 
 アラナはストレートでいいね。顔を赤くしてるのが可愛い。人間と亜人の間の子供はどっちに似るんだろう。
 
 「色んな実験をしたいです~。団長ならそれに答えてくれそうです~」
 
 実験が怖いよ、オリエッタ。そのうち人造人間にされそうで……    まさか下半身だけ強化するとか!?
 
 
 これって僕へのフラグなのか?    勝っても負けても危険な感じがするよ。神様からチートをもらって話せる様になりこの世界で傭兵団の団長として生きてきて楽しい事も苦しい時もあったけど、ここで詰まれる訳にはいかないよ。
 
 神様からはもう一つもらってる、生涯に一度だけ使えるチート。誰よりも早く動ける加速化のチート。「神速」
 
 みんなには悪いけど、先に行って魔王の首は僕が頂いて来ますよ。結婚よりもハーレムの方がいい。出来れば皆に愛されるハーレムを。
 
 「神速全開!」
 
 ミカエル・シンは異世界の地を魔王目掛けて駆けて行った。
 
 
 ……ここは傭兵団です。最悪、最強で知られた白百合団と転生し勇者に昇格した団長のお話しです。
 
 
 
 で、終わるはずでした。
 僕は魔王の首を取ったけれど、魔王の剣を胸に受け、死んだんです。  たぶん……
 
 「つまんねぇ、エンディングだ」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...