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第十四話
しおりを挟む撮影が終わった映画に文句を言えるのは観客とスポンサーだけ。観客は知らないがスポンサーは目の前だ。
「いつまで死んだふりしてんの?」
「やっぱりわかりますよね~」
回りは白くどこまでも続くような、不思議な空間。そこに地平線まで続く机とその前に並べられた椅子。
「ゴッドを騙せる訳がないっしょ」
「ですよね~。 でも僕は死んだんですよね?」
「そうだよ。魔王にやられて死んだよ。もうちょっと面白い終わりだったら良かったんだけどね。取り敢えず、椅子に座ってくれるかな」
面白い終わりってなに? 一応、頑張ったんですけど。それにこの部屋はなに? 前に来たときは白い空間だったけど、机や椅子はなかったし、神様だって白い神様らしい服装だったのに、今はダブルのスーツと手には木製のバット。
「頑張ればいい、って言い訳? 面白く楽しく生きた方がいいでしょ」
それが出来れば初めの人生でやってますよ。それにあの世界は命の値段がペットボトルより安いんだよ。
「どう? もう一回やってみない? っ~か、やれ! このエンディングは面白くない」
何言ってるんだ、こいつ。面白いエンディングってなんだよ!? 傭兵じゃなくてコメディアンにでもなれば良かったのか!?
「そんなの自分で考えてよ。何でもゴッドが教えてくれると思ったら大間違いだよ」
「神様…… 最近、昔のアメリカ映画とか見ませんでしたか? マフィアが出てくる様な……」
このシチュエーションは映画でレンタルビデオで見た事がある。確かマフィアの偉い人が部下を座らせて、裏切り者か何かの頭をバットで殴り付けるシーンだったな。
「あっ、分かる~? あれは名作だよ。死ぬ前に一度は見ておいた方がいいよ。あれに見習ってね、ゴッドの下にファーザーを付けてもいいよ。ここは審判の部屋でね、地獄行きは頭を潰して天国行きは熱い抱擁をね」
「それって、女の人が天国に行く確率が高くないですか……」
僕は脳ミソ散らして死んだ。
「いつまで死んだふりしてんの?」
僕はその声で起きた。少し前には起きていたけれど、このまま死んだふりでやり過ごしたかった。天国に行けるかと思ったのに。
「やっぱり分かりますよね~」
「ゴッドを騙せる訳ないでしょ。それと、最近アメリカの古いマフィアの映画を見てリスペクト。ここは審判の部屋で地獄行きは頭を潰して天国行きは頭を撫でる! お前のエンディングは面白くないから、もう一度やり直し! 何か質問は!?」
確か魔王に胸を刺されて死んだんだよね。そのわりに頭も痛いのは何故だろう。
「このまま死ぬのは? 少し考える時間は……」
「両方無し! ゴッド、暇じゃないから」
「それなら、せめてチート下さい。異世界に来た人はもらえるじゃないですか」
「チートに頼るのって好きじゃないなぁ~」
「あの速さのチート、あれをいつでも使えるようにお願いします。速さのチートがあれば戦えるんです」
「どうしようかなぁ~。 楽しませてくれるのかな?」
「頑張ります」
「頑張るだけじゃダメね。白百合団と面白いエンディングを見せてね。……それじゃ行ってみようか。時間は君がゴブリンに追いかけられる前から……」
神様の声を最後まで聞けずに僕は意識を失った。もう一度やり直し。思わぬ事になったけど、面白いエンディングってなんだ? ハッピーエンドは面白いのか? バッドエンドなら? 僕が死ぬのは面白くないエンディングみたいだし、他の団員ならいいのか? 考えても答えが出ないし、生まれ変われば何とかなるさ。
意識を取り戻したのは異世界の地面まで約二十メートル上空で。見えたのは果てしなく広がる森と尖った木の先端。
「マジ!?」
二度目の? 三度目だったか死を意識し木々の隙間を縫って落ちていく。幸い立ったのが木の先端には当たらなかった事。不孝だったのが落ちたのが棘の上。
「痛ってぇぇぇ!」
最初からこんなのなら、この世界で生きていく自信が無くなる。本当に神速はもらえたのかな。身体中に刺さったトゲを抜き将来に闇しか見えない暗い森の中。
絶望と戯れているとゴブリンがやって来た。今回は速さのチートがあるし、戦闘経験もある。包丁持って暴れている小学生くらい問題ない。
十匹を二秒で始末し僕は満足した。ただ速くなるだけの神速だけど、使えそうなチートだ。 ……しまった。本当ならここで逃げなきゃダメだったのに。ゴブリンに追いかけられて白百合団に助けてもらう予定が狂った。
ゴッドファーザーは白百合団とエンディングをって言ってたからやっぱり白百合団と会わないと。このまま森を抜けた街道から来る予定だけど、少し気が重いのは僕だけか……
あの時はゴブリンに追われてボロボロな状態で白百合団に助けられ、今は切り傷一つ無い、棘の怪我で誤魔化せるだろうか。下手に助けを求めてもプリシラさんに切られる気がする。
いろいろ考えているうちに街道でまで来ちゃったし遠くに見える見慣れた馬車は白百合団。行き当たりばったりで行くしかないか。
馬車が近付いて来たのを見て大きく手を振りながら駆け寄ってみた。馬車の運転はアラナか。なんか久しぶり。
「おぉ~い。こんにちは~」
正面に立っても馬車を止めようとしても、速度の変わらない馬車。引く気か!? アラナなら止まると思ったのに。
「プリ姉、野盗みたいッス」
「引いちまえ!」
せめてこっち見ろ、プリシラ。どうせ荷台で酒でも飲んでるんだろう。クリスティンさん、元気? 相変わらず綺麗だね。
「僕は野盗じゃないです。この辺りにゴブリンやトロールが出るんです。危ないから帰った方がいいです」
「知ってるッス。それを片付けに来たッス」
えっ!? 記憶と違う。予定ではこの先の村の殲滅だったはず。 確か領主から村の殲滅を依頼されて僕とであって夜のパーティーになって、村への到着が遅れて村人が逃げた。それで領主に失敗の報告をしたらプリシラさんが領主を切ってみんなで逃げた記憶なのに…… 考えたら酷い事をしてるね。
「トロール退治に雇われたんですか?」
「アラナ! うるさいから、そいつ引け!」
プリシラ、後で覚えておけよ。鳴かしてやる。それとアラナ、馬車を動かすな、引く気か!
「待って下さい、団長。話を聞きましょう」
やっと出ましたソフィアさん。あなたが一番常識人。面倒くさそうに起き上がったプリシラさんは荷台の上で仁王立ちになり
「てめぇ、何者だ!」
と威圧した…… が、怖くねぇよ。慣れてるもん。ライカンスロープの時は怖いけど。
「ぼ、僕はミカエル・シンと言います。隣村からこの先の村まで行こうと思ってたんですけど、途中でゴブリンやらに襲われてしまって武器も無くしてしまったんです」
うん。嘘の中に真実を入れて惑わせる方法はどうかな。襲われたのは事実だし、怪我は棘せいだし。
「そうか。大変だったな、怪我は平気か?」
チョロい、チョロいよプリシラさん。そんなんじゃ騙されますよ。まあ、プリシラさんを騙し通せる男がいるなら勲章をあげたい。
「で、追って来てるのってあれか?」
え!? 後ろの森から出るわ出るわ。ゴブリン、オーク、トロールまで。
「全員、戦闘準備! オリエッタは起きろ、白騎士をだせ。ルフィナはゾンビを起こせ。クリスティン、アラナ行くぞ! ソフィアは待機」
颯爽と馬車を飛び降りてバスターソードを抜くプリシラさん。かっこいいなぁ~。惚れてまうやろ。僕も見ていないで戦わないと。武器なら荷馬車の箱の中にあるからね。
「何をしてるんですか?!」
「武器を借ります。僕も戦えます」
「何でそこにあるって知ってるの!?」
そりゃそうだ。武器の場所を知ってるなんて不思議だろうけど、僕は二度目なんで。ソフィアさんを無視して軽そうな片手剣を二本を両手に持ってプリシラさんの後を追った。
ゴブリン、オークには暴風が通りすぎるように切り裂き神速のチートを実感できた。トロールでさえも足を切り裂き崩れた所を串刺し。この神速のチートは使える。
プリシラさんは相変わらずゴブリンは真っ二つ。オークにでさえ傷も付かずに倒すのはさすがだ。トロールには少し手間取っていたけど、ライカンスロープになっていないから余裕があったのかな。
クリスティンさんは回りがバタバタと胸を抑えて倒れ誰も近寄れず、アラナは倒した相手をもてあそぶのが止められないようだった。
相手が多かったせいか終わった時には暗くなってしまったが、白百合団には怪我人も出ず、むしろ僕が一番の重傷者。
記憶と違うところもあるけど白百合団との初顔合わせはこんな感じで問題はここから。前世とは少し違うこの異世界ですんなりと入団出来るのだろうか。
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