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第四十一話
しおりを挟むもうどれくらい戦っていたんだ。 敵はいない、剣はある、盾も鎧も大丈夫だ。今頃クリーゼル男爵はの領地に向かって走っている筈だ。
別れてしまった皆は無事だろうか。僕も…… 合流ポイントにはソフィアさんが先に行ってる予定だ。皆は上手くやったかな、戦時報酬を大量に稼いだのだろうか。あんまり稼がれても大変だ、僕の討伐数と相殺してくれたらいいけど。
合流ポイントにはソフィアさんとクリスティンさん、それにクリスティン軍団がいた。クリスティン軍団ほかなり数を減らしていたけど生き残った人達の目はクリスティンさんに釘付けになっているから邪魔しないでおこう。
「このまま二時間待機。それまでに戻らない時には先に行ってて下さい。後から追いかけます」
二人の有無も聞かずに僕は戦場に舞い戻る。聞いた所で止めるのは分かっている、付いて来ても困る。
探し始めてすぐにオリエッタを見つけた。どうも自慢の鎧が動かなくなったようだ。オリエッタの鎧。昔に見たパワードスーツを不恰好にしたような僕の記憶から掘り出した、この世界に有るはずのないもの。
「オリエッタ、無事ですか」
パワードスーツの胸辺りにオリエッタの頭が来ている作りになっている。スーツの胸を叩いて反応を見ても返事がない。胸に耳を当てて中の様子が聞こえないかと近づけてみると、いきなりハッチが空いて頭を強打した。
「団長で良かったです~」
「一応、痛かったんですけどね。オリエッタは大丈夫ですか。怪我はありませんか」
「大丈夫です~。この子が動かなくなっちゃって、回りも見えなくて真っ暗だったから怖かったです~」
「怪我はないようですね。早くみんなの所に戻りましょう」
「それが服が挟まって出れなくなってます~」
だからヒラヒラの服は止めろと前世で言ったでしょ。普段、着てるのは可愛いから許す。
「手伝って欲しいです~。もうすぐこの子の自壊作用で溶けちゃうです~」
「せっかく作ったのに勿体ないですね。溶けるのを待ったらどうですか」
「オリちゃんも溶けちゃいます~」
それを早く言え。このヒラヒラの服はどこに絡まっているんだ。全部にヒラヒラが付いていてどこが絡まっているのか分からん。
「切るぞこれ!」
「お願いします~。それと前からくるオーガもお願いします~」
な、なに! 服を切るのに忙しいのに後にしてくれ。パワードスーツも溶け出し、触れているオリエッタの服までも溶け出してる。このまま見ていたい…… 仕方がない、服を切って出さないとオリエッタの命に関わる。
オリエッタの服を切りスーツから引き出した時にはオーガはもう目の前にいた。振り向き様にオリエッタの服を切っていたナイフでオーガの腹を突き刺し、あっさりとオーガの鎧で折られてしまった。
「伏せて下さい~」
全力で伏せた。後ろの方からビリビリする物を感じたから。僕が伏せたそのすぐ上をオリエッタの大槌が通り過ぎていった。
一瞬「禿げる」と思わせるくらいの風圧が僕の頭上を通り抜けオーガが吹き飛んだ。振り返れば溶けて切り裂かれ、殆ど残っていない服を身に着けたオリエッタが大槌を担いで立っていた。
「せっかくの鎧が溶けちゃいました~」
服が溶けたのはいいんですか? 殆ど全裸ですよ。可愛いおヘソが丸見えです。 ……これもいい。少し服の損失幅が大き過ぎるが、これもいい。
「さっきの「あれ」はもう一度出ないんですか?」
「あれは、もう出ないです~。なかなか良かったんですけど動く時間が短いんです~」
出す度に溶けたりしていたら、危ないし勿体ない。それに絡まるゴスロリ服は止めた方がいい。切り裂く楽しみはあるけれど。
「オリエッタ、合流地点に戻れますか。」
「大丈夫です~。鎧が動かなかっただけです~」
「それなら何か服を見つけて合流地点に戻って下さい。送れないのが申し訳ありません」
「みんなを探しに行くんですか~。ルフィナちゃんならもっと前にいると思いますよ~」
「行ってみます。くれぐれも気を付けて」
僕は僕が着ていた外套を掛けてあげたが、外套の隙間から見えた白い肌から目を離すのに苦労した。折角なので目に焼き付けよう。今は押し倒す時間は…… 無い!
「気を付けて~。戦時報酬、忘れずに~」
忘れたいですよ。何回、記憶を掘られるのでしょう。
ルフィナ。恐らく最強クラスのネクロマンサー。白百合団ではオリエッタと仲が良く二人で悪巧みをして何度も殺され…… 何度も困らせられている。そんなルフィナがオーガやトロールに遅れをとるはずはない。何せ血が報酬になっているからね。
そんなルフィナを見つけた時、口から血を吐き出した後をそのままに、立て膝で地面に座り込んでいた。僕がルフィナの胸元のローブをつかむと足の方までぐっしょりと濡れていた。
自分の手を改めて良く見ると手が真っ赤に染まり、ローブの濡れた感触からはとても尋常では無いくらいの血が流れ出ている。
「ルフィナ…… ごめん……」
僕はルフィナを優しく抱き締めた。
「だ、団長……」
「ルフィナ!」
ルフィナの弱い声が微かに聞こえた。まだ生きてる! ソフィアさんの所まで全力疾走すれば間に合うか!?
「だ、団長……。 少し離れるのである」
良かった。大丈夫なのか。凄い血の量だぞ。
「少し魔力酔いをしているだけである」
「大丈夫なのですか。凄い血ですよ。ローブまでぐっしょり……」
「これは溢れた血である。急いで飲んだので溢れたのである」
「溢れたって飲んだんですか、血を!?」
「団長は何か勘違いをしていりのである。我が血を飲むのは魔力の回復の為である」
「へっ?」
「ネクロマンサーはソフィアやオリエッタと違って血を飲んで魔力を回復するのである。これらは全てその血である」
だからそんなに血を欲しがったのか。血を飲まないと回復しないなんてネクロマンサーも楽じゃないね。
「特に団長の血は甘美、甘美」
血は鉄味で甘くは無いですよ。とりあえず無事で良かった。ルフィナなら大丈夫だと思ってたよ。
「合流地点には戻れますか? 怪我をしているなら送りますよ」
「大丈夫である。合流地点で待っているである」
ルフィナの足取りは軽い。よほどの数のオーガを倒したのだろう。僕の足取りが重くなりそうだ。いったい僕は何十リットル分の血を分けなければならないんだろう。どうせ一リットルじゃ済まないだろうし、貧血にはレバーを食べれば良いって話は本当だろうか。
アラナを探すとやっぱりだった。アラナは何体ものオーガの中で、もう死んだであろうオーガをいたぶっていた。
「アラナ!」
僕はアラナに声を掛けると体を震わせるほど驚いて、こちらを振り向いた。目が見開かれ毛が逆立ってる、両手は血まみれだ。悪い癖が出てる。
アラナは獲物を奪おうとする僕に向かって爪を立てて襲いかかってくる。オーガなんて入りませんし、この前の様には行きませんよ。
向かってくるのが分かっていれば避ける事は可能だ。速さなら神速持ちだぞ。その分と言うか力は今のアラナにも敵わない。
力が無い分は関節技で決める。通信教育を見せてやる。
向かって来たアラナを後ろ手に決めて地面に押さえつける。いや、叩きつけると言った方が正しかったか。組んだ手を力任せに外そうとしたので全力でやってしまった。
今でも組まれていない左手を振り回し「ウオー」だか「ガォー」だが唸っている。さすがに鋭利な爪がある左手は手首辺りを上から踏みつけて動けなくしたけど、ここまで唸っているアラナは始めて見た。
「アラナ、アラナ!」
呼び掛けには唸り声で答えるし、自分の腕が折れんばかりに力を入れる…… どうしよう。
こんな時はあれだな……
本当に通用するのか知らないけど……
テレビで見た事がある……
でもアラナの牙が怖い……
顔を喰い千切られたらどうしよう……
組み手を離して仰向けに。両手を広げた状態にしてキスをした。両手に入る力を何とか押さえ込む。やっぱりダメか。これが効くなんて事はテレビの中だけか。
少しの間を置いて力が抜けたのが分かる。よし、ここで舌を入れて口の中をなぶるとアラナも舌を絡ませて来た。良かった、少し唇切ったけど。
オーガ三体を倒すくらいの時間を楽しみ僕から口を離す。名残惜しそうにしているアラナもまた可愛い。
「大丈夫ですか。怪我はありませんか」
「ぼ、僕は大丈夫ッス。もう大丈夫ッス」
心配だったので全身を触診して安心した。もちろん鎧の上からで服の中に手を入れたりは少しだけだ。セクハラじゃない。スキンシップだ。
「みんなの所に行けますか? 合流地点で待っています」
「団長はどうするんッスか」
「後はプリシラさんだけだから、探して連れ帰ります」
「それなら僕も一緒に行くッス」
「それはダメです。ソフィアさんと約束した時間までには戻れそうもありません。アラナが合流地点に着いた時点で出発して下さい」
アラナも色々と言ったが時間が無い。とぼとぼと帰る後ろ姿は抱き締めてあげたくなるほどせつなかった。
後はプリシラさんだけだ。きっとライカンスロープで服を身につけてないであろうプリシラさんに、服の代わりに巻いてあげようと、落ちているプロメリヤ軍旗を切り取った。
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