異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第四十八話

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 フクロウ団。百人を越える傭兵団で団長はダン・ラッセル。救援もしないで、我先にと戦場から逃げ出した者たち。
 
 
 いつか見つけたら殺して……    殴ってやりたい人が目の前に現れたら、どうするだろう?    ちなみにこの世界の人の命はとても安い。  そして僕はチート持ち。
 
 マクジュルの王都まで行った僕達はその日のうちにギルドから報償金をもらい装備を整えて宿でゆっくりする計画があったが、ダン・ラッセルを見つけて予定を少しだけ変えた。
 
 「アラナ、先にこの荷物も持って帰っていて」
 
 「何か急用ッスか」
 
 「大した事ないよ。知り合いがいたから挨拶してくるよ。夜には戻るからベッドを暖めておいて」
 
 今日の輪番はアラナだったか。用事を済ませて早く帰ろう。べつにダンを殺そうなんて考えてはいない。一発ぐらいは全力で殴りたいけどね。
 
 僕はダンが三人の傭兵を引き連れて宿屋に併設された飲み屋に入るのを見届けて……    どうしたものか?
 
 正面切って殴りに行くか?    ここは宿屋だ、フクロウ団が居ないとも限らない。さすがに百人はいないだろうけど、こんな密閉空間では速さを活かす前に押し潰されそうだ。
 
 諦めるか?    次に会えるかどうか分からないのに、逃がすのも嫌だな。それに早く帰ろう、アラナが待ってる。
 
 宿屋のドアを開け飲み屋の方に行くとダン・ラッセルは一番奥ので飲んでいた。周りの人達は傭兵らしき武装した人もいるが殆どは一般人らしい。これで全員が敵と言う事は無くなった。
 
 先制攻撃を仕掛けるつもりが先手はダンに取られる。奥に座っていたのは周りを見渡す為もあったのか。
 
 「これは白百合団のミカエル・シン団長。殿のお勤めご苦労様でした。お怪我がなくて何よりです。 ほら、席をお譲りして……」
 
 先に帰った割りには良く知ってる。本当なら懐に入って見下ろすはずだったけど仕方がない。
 
 「お久し振りです。ラッセル殿。立ったままで大丈夫です。お気遣いなく」
 
 座っていたら斬りにくいし殴りにくい。そして逃げにくい。ラッセルもテーブルの横に立つものだから、連れの人も立ち上がり五人でテーブルの回りで立っている姿は少し異様だ。
 
 「失礼します」
 
 この異様な風景に終止符を打つには座るしかないだろう。剣を右手に持ち直して敵意が無いことを示すが、敵意はいっぱいあります。
 
 他愛もない挨拶をしてから僕から話を切り出した。さっきから、真後ろに立っているフクロウ団の団員が僕の「つむじ」を見てる様で気になるけど。
 
 「ラッセル殿に二つ聞きたい事があります。第七部隊の後退時に何故、援護をしないで撤退したのか。もう一つは全軍撤退時に逃げ出した理由」
 
 少し強く言い過ぎたかな、座っていた二人の傭兵が立ち上がりラッセルが座るように促していた。
 
 「それは誤解と戦略ですよ。前者に関しては第八部隊の指揮官にしたがっただけ、後者に関してはプロメリヤの部隊が攻めて来るのが分かっていたからです」
 
 「出来ればもう少し詳しい説明を頂きたいんですがね」
 
 こんなので納得出来るわけがない。こっちは命がかかっていたんだ。
 
 「その前にミカエル団長は、どのような考えで団を率いているのですか」
 
 「どのようって……」
 
 「私は出来るだけ団員が死なないように指揮をしています。戦争やっていて「死なない」と言うのも変ですね」
 
 クスッと笑う子供の様な笑顔と白い歯。これに惚れる女は多いのだろうから、イケメンはムカつく。
 
 「先ほどの説明ですが、第七が後退する時は第七部隊が他の前線部隊より突出し過ぎて援護にまわれば第七と第八が敵の投石器に喰われると進言したからですよ」
 
 確かに突出し過ぎたかも知れない……   敵が脆くて前線の味方の進撃が遅くなるとは思わなかった。
 
 「二つ目ですがプロメリヤとハリヌークが手を組んでいたと見ています。プロメリヤが後退したと見せかけてマクジュルを両国で挟み撃ちする計画だったと思っていました」
 
 「そこまで分かっていたならマクジュルに進言はしたんですか!」
 
 「しませんよ。しても傭兵の言う事を貴族の皆さんが聴くはずもありませんしね。我々はマクジュル軍に付いて歩くだけで命を散らす事もなく、お金を稼がせてもらいました」
 
 「そ、そんなの傭兵じゃない!」
 
 「傭兵ですよ、我々は。ミカエル団長とは考え方が違うだけで、死んで殺してお金を稼いでいるだけの傭兵です。ただ団員が死なないように工夫をしているだけですよ」
 
 「……」
 
 「ミカエル団長は団員の事をどう思っているのですか」
 
 「……」
 
 「団員は「駒」ですよ。貴重な駒です。誰にも死んで欲しくはないですし、必要なら死んでもらう事もある駒です。必要な情報を集める事にお金を使うし助ける為に見捨てる事もしなければ生き残る事なんて出来ませんよ」
 
 「……」
 
 返す言葉が見つからなかった。僕は白百合団をどう思っていたのだろう。戦いを好み人の命も何とも思わない団員達。夜になれば輪番だ血だ記憶だと好き放題やったり、やられたり。
 
 何も言わずに席を立った。言えなかった方が正しいんだろう。情けない。
 
 宿屋のドアを抜けて外に出ると、もう暗くなって魔法で点いている街灯が幾つか見えた。
 
 「団長。終わったッスか」
 
 振り返らなくてもアラナの声で分かる。
 
 「終わったよ。帰ろうか」
 
 僕は振り替えれなかった。今はアラナの顔が見れない。僕は団長として間違っているのだろうか。みんなの命は何よりも大事だ、それは正しい。だけど駒の様に扱うなんて考えた事もない。見捨てるなんて論外だ。
 
 ダン・ラッセルの言う事にも正しい事もある。彼だって団員の事を考えての事だろう。僕は一人一人の戦闘力に頼りすぎてるのか。あの位の殿ならやれると思っていた。
 
 「団長、何か難しい事を考えてるッスか」
 
 「うん?   大丈夫だよ。宿題が出ただけだよ」
 
 
 宿題をもらったよ、この年になって。難しい、難しい宿題だよ。
 
 
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