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第五十五話
しおりを挟む後ろも見ずに逃げ帰る。後ろからは木々が折れる音が地響きと共に近付いて来た。
「アラナ! 村人を起こして撤退しろ! ヤバイのが追いかけて来た」
水晶玉で見ていたのであろうか、アラナは既に戦闘体制を整えて待っていた。
「僕も戦うッス」
「それより先に村人を起こして避難して。火事だぁ~って言えばみんな自分の事と思って起きるから」
アラナが動くより先にそいつは森を抜けて僕らの前に表れた。黒鉄色のウロコが気持ち悪く月の光に輝く。
そいつが僕よりも大きな口を開くと前触れもなく火炎を吹き出した。僕はアラナを抱き上げて後方にある納屋の屋根まで飛び上がる。アラナ少し太ったかな。特に胸あたりが……
僕らが飛び上がった家まで火炎は伸び壁一面が燃え広がる。火を吐く大トカゲって森の中では生きられないだろうに。森林火災の原因はコイツだな。
「アラナ、あれは不味いです。本当に火災になりそうです。村人を起こして避難させて下さい」
僕はアラナを降ろすと火の無い所に飛び降りて黒刀を抜いた。広い所の方が戦い易いと思ったけど、それは向こうも同じか。
こちらに火を吐くよりも早く神速で大トカゲの足まで近づいて力任せに切りつける。右足貰った!
「バィィ~ン」
あっさりと黒鉄色のウロコに弾かれる黒刀。さっきの切れ味はどうした。アラナの胸の感触が吹き飛びシビレた手で、我慢してもう一度。
「バィィ~ン」
振り向きざま噛みつこうとする大トカゲを交わして背中に飛び乗る。ロデオは好きだぜ。特に隙だらけの背中なら。全力の打ち下ろし。
「バィィ~ン」
反対側に降り立った所で全力で後退。これはダメだ。あのウロコには傷つける事さえ出来てない。森の中で火を吐けると言う事はあのウロコはかなり強固に出来ているんだろう。
今さらながらに相手の実力を計ったけど、ここは村の中、退ける場所なんてあるものか。逃げれば村人が食われるか村が全焼さえしかねない。
こんな時は大体、口か目が弱点と相場は決まってる。口から脳天まで突き刺し一気に片を付けてやる!
いや、待て自分。あのデカい口に手を入れるのか? 無理だろ。脳天まで突き刺すなら上半身は全部入れる事になる。パクりとやられて身体が半分だ。
例え腕一本で済んだとしてもソフィアさんがいない上に、この村で腕を付けられる程の魔術師がいるとも思えない。
我慢して食われた腕を持ってマウガナの街まで行って治してもらう? これも論外。絶対に破傷風になるし痛いの嫌い。
それなら目だね。あの体に似合わない小さな眼を狙ってえぐって脳ミソ掻き出す。これでもダメならアラナを抱えて、乳の感触を確めながら逃げる。
方針が決まった所で右手を顔の横に、左手は黒刀の背の部分を前で構えビリヤードの玉を撃つように突きの構えを取る。
炎だ! 右に高速でステップしてからの突撃。見られているのか炎が追うように迫ってきた。大トカゲの後ろ足の方まで移動して、やっと炎をかわしたと思ったら、今度は頭上から大きな尻尾を振り降ろしてきた。
寸でで避けてから、続けて横への薙ぎ払い。ガントレットの様に着けていた盾で受けるが体重差は何ともならず吹き飛ばされる。痛てぇ。痛てぇ。
今一瞬、笑ったろ。大トカゲのクセに生意気だ!生意気だけど打つ手が無い。こんなに器用に動けるとは思わなかった。
素早く近づいて噛みつこうとするが、速さなら負けない。二度、三度の噛み付きも全て交わしながら一刀を入れるが小さな目は、硬いウロコに邪魔されて傷を付ける事さえ出来なかった。
「お待たせッス」
「アラナ、これで眼を狙って」
オリエッタ製、二刀流の一本。腰に着けていたナイフをアラナに放り投げた。いくらアラナの爪が丈夫でもあの黒鉄色のウロコは貫通出来ないだろう。
速さなら団の中でも最速。僕は反則。二人で陽動を掛けつつ眼を狙う。僕達二人なら、スピード勝負が出来る。
左右に広がった僕とアラナは距離を取りつつ隙を狙う。先に動いたのはアラナ。フェイントも使わず一気に距離を詰める。噛み付かれる瞬間に残像を残したかと思われるぐらいの速さで交わし下から眼を狙う。
僕も負けじと突っ込む。顔がアラナの方を向いたチャンスに尻尾を掻い潜り背中を走って眼を狙う。
「ガキンッ」
「ジャキンッ」
同時に剣が弾かれる音がする。僕のはズレて当たったけどアラナの方もダメージは与えていない。やっぱり目標が小さすぎるか。バックステップで距離を取ったが、間髪入れず二発目の突きを放つ。
当たらねぇ。眼が小さくて当たらない。回りの装甲の様なウロコを何度、突いても致命傷にさえならない。
アラナも苦戦している。お互いの場所を変えスピードを上げても眼には当てる事が出来なかった。
焦ったのは僕の方だった。もう一突きと、欲張ったばかりに大トカゲの顎の一撃を上からもらい地面に叩き付けられた。
「団長!」
上空からアラナが自分を狙ってくれとばかりに声を張り上げていた。大トカゲがアラナの方を向いて口を開く。
先が見える。こいつ火を吐くつもりだ。宙に浮かんだアラナは避ける事さえ出来ずに火だるまだ。
「口がクセぇんだよ、この野郎!」
大トカゲが火を吐くより前に、下からチートを使った全力の蹴りを顎に喰らわせた。吐かれるはずの火炎は口の中で広がり、牙の間を抜けて一面の空気を焦がした。
蹴った右の膝が向いてはいけない方を向いてる。痛みが伝わるより早く、この大トカゲの喉から腹にかけてピンク色の柔らかそうな肌が見えた。まだ真っ直ぐ付いてる左足に体重と気合いと根性を乗せて跳躍!
「いい加減に死ね!」
黒刀の一閃は喉を綺麗に裂き、鮮血が大地を染めた。十メートルを越す大トカゲは雄叫びを上げる事も無く、のたうち回り吹き出た血が回りの炎を消すようだった。
僕は折れ曲がった右膝を庇いながら座り込み、アラナは僕の左腕を抱き締めて、二人で大トカゲの断末魔をただじっと見ているだけだった。
「終わったッスね」
「終わったね。逃げ出した皆を呼んできて。燃えてる火を消さないと」
「了解ッス。団長は大丈夫ッスか」
「僕は大丈夫。足が折れただけだよ」
「大丈夫じゃないッス。すぐに魔術師を呼んでくるッス」
「アラナ、アラナ。大丈夫だから。みんなを呼んできて。火を消してこれからの事を話さないと」
渋るアラナを説得して、やっと行ってくれた。大トカゲは退治する事が出来たけど、これは思っていた以上に大変だ。
情報ではゴブリンとオークと聞いていたのに、こんなにも厄介なのがいると思わなかったし情報のミスが致命傷になりかねなかった。
村長と話すとこんな大トカゲなんてめったに見た事が無いと言う。村の被害は家と納屋が一棟づつで済んだと喜ばれた。
「本当にいいのかね」
「気にしないで下さい。どうぞ村の為に使って下さい」
この大トカゲ。正確には黒炎竜と言ってウロコや肉や使える所がが豊富にあり、この一匹でこの村が一年は食べて行けると村長が言っていた。
「それでは皆さん、お元気で」
村人に作って貰った松葉杖を荷台に置いて、礼を言うとアラナが馬車を操車して村を後にした。今回は情報通りとはいかなかったし、骨折もしてしまった。
マウガナの街に着いたら魔術師に治してもらわないと。骨折しても直ぐに治るのが魔法の良い所だね。今回の仕事も終わったし治して早く帝都に帰りたいな。
「馬、良く聞くッス。これからマウガナまで自分の力だけで馬車を引くッス。途中で止まったりスピードを落としたら、こうッス!」
アラナは僕から借りていたナイフで馬の尻に切りつけた。何をやってるんだ、お前! 言っては無いけどこの馬は聖獣だぞ。崇め敬う存在なんだよ!
「もう大丈夫ッス。この馬はこうすると言う事を聞くッス」
それは知ってる。そういう馬だからね。だけど切りつけたりはどうかな。動物虐待か同意によるエム。どちらを取るべきか。
「団長は怪我をしてるから、寝ていて下さいッス。後は僕が全部するッス」
マウガナの街まで半日ほど、馬車の揺れと上に乗ったアラナの揺れとで、塞がってた背中の傷が開いた。脂汗を垂らしながらの道のりは少し気持ち良かった。
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