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第六十一話
しおりを挟む切り捨てた左腕は前腕の半分以上は残った。これからは義手生活か。オリエッタに作ってもらわないと。感覚が分かるくらいのはあるのだろうか。暖かさや冷たさの分かる感覚。プシリラさんの、柔らかく張りがある大きな……
倒さないと。きっともうすぐだ。不死の女王は体に肉が付いてから切られる度に苦しむ声を出している。きっともうすぐだ。
止血をしても血が出る。右手の握力が無くなる。もう一回だけでもルフィナの胸を揉みたいが、その左手も腐れて形も無い。それからルフィナに抱き止められるまで無心に切りまくった。
「団長、止めるのである。死んでしまうのである」
あぁ、そうだろ。殺すために殺ってるのだから。
「契約を結びたいのである。従属化の契約を……」
そうだった。ルフィナの目的は契約だったね。すっかり忘れていたよ。
魔方陣の真ん中で、膝を付いた形で立っている不死の女王にルフィナは近付いて行く。まともに話せそうも無さそうもないなら、殺しておくか?
「死にとう無い。まだ死にとうない……」
あれ? まだ話せるのか。話せるなら後の契約はルフィナに任せておこう。魔法なんて分からないからね。何か仰々しい事でもやるのかな?
「我と従属の契約をするのである。さすれば生きられるのである」
不死の女王は力無く肯定し従属化の契約に入った。と、その前に……
「ルフィナの傷を治せ! それが出来なければ殺す」
言っておかないとね。僕にとっては従属化よりルフィナの傷が治るかが一番の心配事。
「治る。従属化した後に、我の肉体が戻るようルフィナ殿の傷も癒える」
それならさっさと契約して傷を治せ。ピカピカの肌にしろよな。出来れば胸をもう少し、どーん大きくしてくれたらオーケー。
それから契約の儀式に入ったが僕は後ろの方で座って見ているだけだった。左腕を見れば傷口から血が滲み、身体中キズだらけだった。避けていたと思ったけど気が付かないだけだったか。
不死の女王が消え魔方陣も消えた時、僕の意識も消えていった。
まる一日寝ていたらしい。目を覚ませばフカフカのベットに柔らかい布団。あぁ、貴族の生活っていいね。現代の日本くらいの生活レベルなのかな。これでアラナが横で寝てなければ、ソフィアさんに怒られる事も無かったのに。
部屋には心配してくれていたのだろうか、クリスティンさんとアラナとオリエッタがいた。二人は大きなソファで眠っていたのに、アラナは僕と一緒にベットで寝てる。
ドアを開けて入ってきたのは、プシリラさんとソフィアさん。アラナを見つけたソフィアさんは「おはよう」の挨拶も無くアラナの耳を引っ張って行ったっけ。
無事にソファに座らされたアラナを横目に、僕も起き上がろうと布団を剥ごうとした左手は空を掴むばかりだった。そう言えば左手は無かったね。
「おぅ、起きなくてもいいぞ。まだ寝ておけ」
プシリラさんの優しい言葉が身に染みる。体だけ起こして僕が眠っている間の事を聞いてみた。
契約は上手くいって不死の女王はルフィナの従属になったこと。ルフィナの体も今では綺麗に戻ったこと。僕の左手は腐り落ちて義手を作らなければいけないこと。
この世界の義手は本当の手の様に動くがやはり無くなった事は僕に大きく影響している。ルフィナの事は嬉しいが喜びきれない僕がいるから。
「団長~、大丈夫です~。オリちゃんが最高の義手を作るです~」
「傭兵なら義手だって当たり前だ。あたいの知り合いなんか頭を変えてるくらいだからな」
大笑いするプシリラさん。そんな人は居ませんよ。頭を変えたら、さすがに死んでます。無理して笑わそうとしているのが逆に辛い。だけどね……
「僕も色男に変えてもらいたいですね」
みんなの優しさに答えないと。根暗な団長はただの団長だ。僕は白百合団の団長だから。
みんなが安心したのか少し笑ってくれた。ここに居て良かった。僕は置いてあった飲み物を一気に飲み干した。ってエールかよ! 怪我人の所に酒を置いてどうするの。
「ゴホッ、ゴホッ、ル、ルフィナはどうしました。どこにいます?」
「ルフィナか……」
ん? さっき体は元に戻ったって言ってましたよね。なんで言葉に詰まるの? 少しの沈黙の後に派手に開く扉。派手に登場するルフィナ。
「団長、大丈夫であるか!」
相変わらずの黒いローブ姿に顔を隠し、両扉を開いて入ってくるなんて何者だよ。お前はスターか!?
「ルフィナ、僕は平気ですよ。ルフィナこそ大丈夫ですか?」
ずかずかと白百合団を退けてベットの前まで来るルフィナを、みんなは不思議そうな目で見ていた。不思議と言うか何か違和感がある。何と言われても困るけどなんだろう。
「見るである!」
ローブを大きくはだけると一糸纏わぬ姿のルフィナが現れた。変態だね。日本でやったら通報されるだろ。
一糸纏わぬ姿のルフィナに思わず見とれてしまった。腐れた肌は綺麗に戻り、それどころか以前より肌に艶がありそうだ。白かった肌は少し赤らんで健康そうにも見える。が、何か変だ……
「ルフィナ、身長が縮んでないか? アラナと変わらないような……」
そう、全体的に小振りになったような。白百合団で一番小さいのはアラナだがルフィナは同じくらいに見える。もちろん胸も残念な事になってる。
「これには少々、訳があるのである。我の肉体を治すとき不死の女王と一時的に同一化してしまったのである。その結果、治すと言うより肉体的時間を引き戻すと言う事になってしまったのである」
分からん。怪我人に分かるようにもう少し簡単に言って。ルフィナはローブを纏いながら続けた。
「不死の王と完全に同一化したのは父上である。同一化すると肉体の衰えは無くなる処か、生きた事のある時間なら何時でもその時の肉体に戻れるのである」
だからラトランド侯爵はあんなに若く見えたのか!? ルフィナの歳や侯爵の地位を考えると若いと思ってたんだよね。いつでも若返るなら老衰は無いのか。さすが不死だね。
と、言う事はアラナも若返ったのか。羨ましいより残念だろ。不死の女王はルフィナの胸までも小さくしたのか。あぁ、余計な事を……
「とにかく、ルフィナが元気になって良かったよ」
ローブを纏ったルフィナは背を正し僕の方に向き直って頭を下げた。
「この度は私、ルフィナ・ラトランドの為に御尽力いたみいる。ネクロマンサーとしての夢、私としての悲願、全てミカエル・シン様があって叶える事が出来ました。この身は未来永劫、ミカエル・シン様に忠誠と敬愛を誓います」
いきなりマトモに話したと思ったら難しい言葉を言い放った! 自分の事を「ワタクシ」と言うし「ある」は無い。
こんな時は何て返したらいいんだ。ちゃんと敬語とか使うのがいいのか? それともテンプレみたいのがあるのだろうか。
「うん」
ルフィナの目を見て答えたのがこれだけ。カッコ悪りぃぃ。余りの恥ずかしさに窓の方に顔を背けちゃったよ。もう少し言葉を考えておかないと。
僕だけが気まずく思っているなか、ラトランド侯爵のアンデッドが食事の支度が出来たと伝えに来た。僕は着替えるからと、皆に先に行ってもらったけど右腕一本は着替えさえも大変だね。普通に出来ていた事が出来ない。
早く義手をオリエッタに作ってもらわないと。ボタン一つに苦労しているとドアのノックの後にルフィナが再び入って来た。
ルフィナは何も言わず僕の着替えを手伝ってくれ僕も何も言う事はなかった。最後になってルフィナから「ありがとう」と。 ……後悔はしていないね。
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