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第六十九話
しおりを挟む帝国騎士団。第六騎士団、団長、イザベル・グレース・サムナー準子爵様。
イザベル嬢は若く華奢な方で、栗色の髪のせいか幼く見える。プレートメイルがとても重そうでヨロヨロと歩く姿はとても戦場に立つような人には見えない。
「初めまして。傭兵、白百合団、団長ミカエル・シン男爵と申します。この度は教導団として参加させて頂きます」
ちゃんと言えてるかな? やっぱり挨拶は大事。貴族になったのだから貴族らしい挨拶も覚えたいが、挨拶は心がこもってこそだよ。
「イザベル・サムナー準子爵だ。教導団など不要。皇帝陛下の命令で演習をやってるに過ぎん。本来なれば我が第六騎士団だけでリザードマンなど討ち果たしてみせるものを……」
挨拶は大事って思うのは僕だけでしょうか。第一印象を「守ってあげたくなる女の子」から「生意気な小娘」に変更しよう。
このイザベラ嬢の親は伯爵様、武門の家柄で今回集まった五百の騎士は全てサムナー家から出ている。第六騎士団の総数は千五百になるそうだが、伯爵家だけでしか演習に参加しないなんて理由があるのかな?
五百も出せるなんて大した伯爵様だか、何故に本人が来ない? 何故に全軍を出さない? 勿体ぶってるのか、恥ずかしがり屋さんなのか。
しかも、たった五百でリザードマンに勝てると思ってる、このオネーチャンの勘違いを正さなければ、良くて壊滅、悪くて全滅しかねない。
戦力としては重騎兵三十、軽騎兵五十、竜騎兵五十、歩兵三百五十、回復魔法を使える者が五人、その他には兵站か。一族としては、なかなかの戦力。戦力として申し分ないけどリザードマン相手じゃねぇ……
馬の戦術は前世でやっていたから少しは分かるけど、聞く耳を持ってくれるかな。一番の問題は竜騎兵と歩兵の戦闘力の底上げだな。
役割分担としては僕が騎兵を、プリシラさん、アラナが底上げを担当してソフィアさんとルフィナには魔法を担当。オリエッタには役立ちそうな物を作ってもらうとして、クリスティンさんは兵站を、お願いしよう。これでもみんな傭兵経験は長いから教導団として申し分は無いくらいの知識はある。
イザベル嬢にこの事を具申したら「我らだけでやる」とあっさり却下。苦手だなぁ、気が強い女性って。分かってるのかなぁ? ムキになっている顔も可愛いって事を…… そして後頭部を叩かれる僕。何故だ! と、言いたい。
「こんなヤツらは放っておけ」
プリシラさん、叩かなくても言えばいいんじゃないですかね。もしかしてニヤけて鼻の下が伸びてたかな。放っておいたら死んじゃいますし皇帝陛下の命令なんですよ。一応、帝国男爵ですから。
それから延々と説得したが、結局は皇帝陛下の命令だと言う言葉で一応の納得は得たしてくれた。 もちろんプリシラさんは十分も待たずに退席しましたよ。
さてと本番まで一ヶ月。最後の一週間は休みと移動に使うとして三週間でどこまで使い物になるのやら。考えただけでメリッサ嬢の乳を思い出す。その心は、あったらいいな隠れた実力!
「リザードマンの集落を討伐する事に決まったそうだ」
帝都の闇の中、ある者達が集まった。
「いずれはこうなると言っていたはずだ」
闇の一人が言う。
「……」
沈黙の答え。
「次を最後の回収としてリザードマンとは手を切るべきですね」
「下手に早めると不振がられます」
誰もが次の言葉を待つように一人の闇を見る。
「ならば時間を稼げばよい。新しく教導団を名乗っている傭兵あがりの男がいるな?」
「ミカエル・シン男爵でございます」
「時間を稼げばよい」
「それならば私にいい考えがございます」
帝都の闇の中、こんな事が話されていたなんて知らなかったよ僕は。
教導団一日目。
イザベル嬢に任せて自由にやって欲しいと言った結果。もう「だぁっ~! てめぇ! コノヤロー!」って言いたいくらいだ。この溢れる怒りを分かって欲しいよ。例えるならサッカーが上手いと言った人がリフティングを二回しか出来ないくらい。
こいつらマジに死ぬぞ。演習そっちのけで遊んでいたり寝ていたり、酒を飲んでいるヤツの中にはプリシラさんも入っていたから見なかった事にしよう。
戦う為の騎士団と言うより式典の為の騎士団だろ。身なりは立派だし魔法の武具もいくつか見たけど使いこなす以前の問題だ。本当に武門のサムナー家なのか!?
今日の輪番はプリシラさん。飲み過ぎで剣を使う輪番はなかったが、せめて歯磨きしてから来い! リバース臭いんだよ!
教導団二日目。
前日の反省を元に僕が歩兵の訓練を見たけれど、皆が適当に組手をしてるし本気でやってる人が本当に少ない。また酒を飲んでるヤツがいたけど見なかった事にする。
今日の輪番はクリスティンさん。防音テントが無かったら第六軍団全員に聞こえる程の喘ぎ声。夜も元気に心臓マッサージ。
教導団三日目。
酒は禁止。一部から暴行を加えられたが断固として禁止。それと、そこの酒飲み! 働け! 歩兵三百五十人、全員と組手をする。一人でするのは大変なのでアラナと酒飲みを組手に参加させた。「手を抜くな。怪我をさせても構わない」と言ったら喜んで参加してくれた。
今日の輪番はソフィアさん。怪我人が続出し夜通し治癒魔法を使う予定が、他の魔法使いに仕事を振って防音テントに来た。
二時間くらいで治癒の仕事に戻ったが、テントに来た時より元気になって帰って行った。
教導団四日目。
怪我人続出の為に四日目にして半休を設けた。ソフィアさんと五人の魔法使いには昨日の夜から頑張って治癒魔法を駆使してもらっている。魔法使いの魔力には上限がある。戦場で助けられる命と助けられない命の選別をする訓練にもなるってものだ。
今日の輪番はアラナ。朝から休日だったから、デートでもしようと話し掛けたら「ソフィア姉さんに悪いッス」と断られ、夜になっても「働いてるソフィア姉さんに悪いッス」と言われてしまった。
よほどソフィアさんがトラウマなんだろうか。だけど、心のリフレッシュは必要だからね。今日は添い寝だけで終わらせよう。
教導団五日目。
怪我から治った者を怪我人にする。竜騎兵も組手に強制参加。竜騎兵は馬で移動し降りて戦う遊撃隊みたいなものだし組手をやってもいいだろう。
今日の輪番はルフィナ。お前は寝てろ、ロッサを出すな! 二人の相手は大変なんだよ。それと出すなら最初から肉を付けて来い!
教導団六日目。
組手を続けてもらう一方で重騎兵には突撃を軽騎兵には弓と投げ槍を重点的にやってもらう。魔法という飛び道具が有るとは言え魔法使いの絶対数が少ない以上、騎兵にはよる突撃は有効だ。
今日の輪番はオリエッタ。何やら役に立つ道具を作ってくれてると思ったら「新しい夜の道具です~」と来たもんだ。
もう少し、戦の役に立つ物を作ってくれ。 ……でも、せっかくなので使ってみた。
教導団七日目。
今日は休みだ。毎日の訓練で疲れた身体を癒すのも戦士にとって重要な仕事だから。僕も休みたいがイザベル・サムナー準子爵様と今後の、もっと先の話をしなくてはならない。
「サムナー準子爵様、お話があるのですがよろしいですか」
可愛い娘とは楽しい話をしたいのに、僕は朝から気難しい話をしなければならない事に気が滅入っていた。
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