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第七十三話
しおりを挟むクソッ。失敗した。昨日の微かな記憶の中でオリエッタに催淫剤を許可したんだっけ。範囲は狭くて騎士団には迷惑を掛けないからって言っていたけど、範囲は狭いが濃縮されたのが周りに散らばった。
眠くて目を大きく開けられない。まだ僕の上に乗って腰を動かしている人がいる。いったい誰なんだか。僕は疲れているし、このままでいいや。気持ちいいし。
薄目の中で周りを見渡すと側にはアラナが倒れている。死んでるように倒れているけど大丈夫か? 反対側にはソフィアさんがスヤスヤと寝息を立てていた。
あれ? それなら上に乗っているのは誰だ? プリシラさんやクリスティンさんほど背は高そうじゃ無いしソフィアさんで無ければオリエッタかな。珍しいね、いつものオリエッタなら早々に失神しているのに。
「あぁぁっ、はぁぁっ」
聞き慣れない声! 誰だ!? 敵か!? 眠気を吹き飛ばす声に目を全開で開けて見上げると、そこにはイザベル・サムナー準子爵様が、お全裸でお腰をお振りになっていられました。大きなお艶っぽいお声をお出しになって。
僕は何をしていいのか分からないまま上半身を起こして、取り合えず大きな声を出すイザベル嬢の口をふさいだ。
「サムナー様、何をやってるんですか!?」
見れば何をしてるか分かる。目の前で幾度も腰を振り、結合部を見れば何の液体だか分からなくなってるほど濡れている。理由を聞いて口をふさいだのはマズかったかな。
「うふぅん、うふぅん……」
指の隙間から吐息が漏れ出す。押さえて置かなければ大きな声を出されるし…… 身体の動きを止めなければと思っても魔力切れで動かなくなってる左手の義手だけでは、いくら華奢なイザベル嬢でも腰の動きを止めれなかった。
「何やってんだい……」
後ろから悪魔の声がする。怖い、怖くて振り向けない。このパターンはヤバい…… びゅっ、と言う風切り音と共に頭の天辺に衝撃が走った。プリシラさんの得意技、カカト落とし。
あまりの痛みにイザベル嬢の口をふさいだ手も腰に回した手も離して頭を押さえてしまう。カカト落としは止めて欲しい、身長が縮む様な気がする。
頭に回した右手をソフィアさんが地面に押さえ付け左手にはアラナが乗ってる。僕は地面に押さえ付けられているのに、イザベル嬢の腰の動きは止まらない。どれだけ濃縮された催淫剤を受けたんだ?
トドメはプリシラさんが地面に押さえ付けられてる僕の喉仏を踏みつけて囁いた。
「何やってんだい……」
「ぐふっ」
声に出来ない。苦しい、死ぬ。裸で足を広げて踏むんじゃない、見えるぞあそこが。目だけで追い掛けるとソフィアさんもアラナも服を着てない。まだ死にたくありません。
「喉を踏んだら喋れませんよ」
その通りです。出来ればソフィアさんが踏みつけている右手も離して欲しい、手の甲に刺さる小石が痛い。
「おら、イザベル。しっかりしろ。寝ながらやってんのか」
今だにイってしまった目で腰を動かしているイザベル嬢の頬を軽く叩きながら、プリシラさんは喉から足を離したけど、見えるって!
「ゲホッ、ゲホッ」
相変わらずプリシラさんは暴力的だな。もう少しで見えそうだったのに…… 見たら見たで怒るんだけどね。
「イザベル。大丈夫かぁ。初めてが団長じゃ死ぬ思いだったろうに。この残酷団長がぁ!」
鳩尾にカカト落としをするなよ、呼吸が出来ないだろうが。それと横の二人はいつまでも裸で押さえてるんじゃねぇ。
それは、そうと何でイザベル・サムナー準子爵様が、ここに居るんだ。何で裸で腰を振ってる?
「あぁ、プリシラさんですか…… あふっ、も、もう少しだけ……」
「いいかげんにしとけ。やり過ぎだぞ」
僕から離れないイザベル嬢を大根を抜くようにショートソードから引き抜き、放り投げる。馬鹿かお前は! 子爵様だぞ。投げ出されたイザベル嬢はへたりこんでピクリともしない。
「お前らもそろそろ服を着ろ、何時までも寝てんじゃねぇ」
言われなくったて起きたいよ。まず裸で両手を押さえている二人を何とかしてくれ。それと魔力切れのはずなのに凝縮しているショートソードは何とかなりませんか。
「収まるぐらいまで、千切ってやろうか」
自分で何とかします。出来れば他の方に手伝って…… 自分で何とかしますね。
それから少しして皆が森の外に置いた馬車の周りに集まった時、僕に腕を絡ませてイザベル・サムナー準子爵様は立っていた。
ここまで来てやっとイザベル嬢が僕の上にいた理由が分かった。簡単に言うとイザベル嬢は教導団について納得した訳では無くもう一度、その件について話をしたいと追いかけてきたらオリエッタの催淫剤の範囲に入ったらしい。
一度、火が付いたら後戻りする事も出来ずズルズルと白百合団に呑み込まれ気が付いたら百合になってしまい、皆には自分の辛かった人生を語り、これが思いのほか白百合団の同情を引き、折角だから団長の味見をして行けとなりハマってしまって、誰よりも長くハメ合っていたと……
そして今の状態。いったいどうしたものか…… 幸か不幸かサムナー準子爵様直々に「イザベル」と呼んで欲しいと言われているので好意は持たれている。
その好意と言うかバスターソードを振るった事に付いて白百合団からはなんら言われてはいないのが助かる所だ。今、言われないのは今後も言われないか後で刺されるかのどちらかだ。
後はイザベル嬢の事だけど腕を組んでいるのに誰も何もしないのは、どう取ればいいのだろう。まさか白百合団に入れるとか? それとも一夜限りの激しい恋とか?
教導団八日目。
いずれにせよ、イザベル・サムナー準子爵と話す必用がある。演習は白百合団に任せても構わないだろう。
「え~っと、話をしたいのですが……」
騎士団の演習地直前まで馬車で僕の隣に座り腕を組んでいたものの、近くになったら馬車を降りてしまい一人で馬に乗ってしまった。
そしてテントの中に入れば抱き締めキスをせがむ。女心は分からないものだ…… ただ斬られたりしないのがいい。
話し合いをしたいと言えば出来そうだし、朝からエールも出る。ここは前日の誤解を解いて、より良い関係を保ちつつ、演習を成功に導かなくてはならない。
「え~っ、昨日の事ですが……」
テーブルは一つ、椅子は囲む様に四つ。僕はその一つの椅子に座り、イザベル嬢は僕の膝の上で首に手を回して座ってる。エールを口移しで飲ませながら。
たった一日…… いや、時間にしたら三時間も無いくらいで騎士の険しい顔から、今は女の顔に変わって膝の上に乗ってるイザベル嬢の変わり様。いったい何をどれだけすれば、こうなるのか……
「サ、サムナー様…… お話を……」
エールが口から溢れて服が濡れる。これが乾くと意外と臭いし、早めに洗わないと跡が残るのが面倒なんだよ。話をしようぜ、キスなんか後回しで。
「ミカエル… ふぅ… ミ、ミカエル……」
キスをするのか名前を言うのか、どちらかにすればいいのに。二つの事を器用に…… 服を脱ぎ始めたから三つの事を器用に始めた。
「イザベル……」
僕も話ながら服を脱ぎ始め、二つの事を器用に始めた。ここまで来て、話す事なんて後回しでいいだろう。騎士団長と傭兵団長、一つの目標に向かって突き刺し…… 突き進んで行こう。
その日の夕方まで、二人の団長は腹を割った「突っ込んだ話し合い」をした。
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