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第七十七話
しおりを挟む黒刀を返すと決めたけど、まだ全員の記憶を探った訳でもないし密偵にした訳でもない。僕の願いが叶わなかった時には、好きにしていいですよと言う悪魔との約束。
返した所で意味が無いかな、死ぬんだし。そう思うと返すのが惜しくなってくる。密偵に成らなかった時点で全員死亡。本気で返すなら僕が部族の所まで持って行くのか。
それは遠慮したい。どこに有るのかも知らないし第一、部族の人になんて言う? 「すみません。偶然手に入れた黒刀を取り返しに来たダークエルフの皆さんを全て返り討ちにし生き残った人は拷問に掛けて殺しましたが、黒刀がこちらの持ち物だそうなので返しに来ました」 ……死刑確定だな。
何とか生き残ったダークエルフを奴隷にして穏便に返したい。オリエッタは心当たりがあると言っていたし、それに掛けるしかないか。
僕は黒刀をラトランド侯爵の屋敷におき、ルフィナとオリエッタに仕事を任せて、クリスティンさんと一緒にハスハント商会のマノン・ギーユさんに会いに向かった。
「……あの六人……」
「はい?」
「……あの六人、あの時、殺しておけばよかった……」
違う話をしようよ~。 楽しい馬車のドライブなんだからね。真っ直ぐ前ばかり見てないでこっちを見ておくれよ。
「……使えなければプリシラを待たずに私が殺ります」
こっちを見ながら言わなくてもいいよ~。楽しい馬車のドライブが寒くて毛布が必要になってくるよ。
ハスハント商会にマノンさんは居なかった。ハスハントの屋敷いるとの事で僕達の冷えたドライブはもう少し続いた。
「マノンさん、お久しぶりです。毛布はありませんか」
「毛布ですか……」
冗談ですってばマノンさん。本当ならクリスティンさんと、いちゃラブしながら帝都に来る予定だったのに。ダークエルフの人達も襲うタイミングが早かったんだよ。あの森の後だったらと思わずにはいられない。
マノンさんとは二人きりで話そうと思っていた。黒刀の入手経路の詳しい事は、アラナに口止めして誰にも話さない様に言っておいたけど、僕が横領の片棒を担がされたとか聞いたらクリスティンさんなら心臓を吹き飛ばし兼ねない。
「リザードマン討伐に帝国騎士団が出陣する事で決まりました。現在、第六騎士団が演習中です」
マノンさんは驚いた様な顔をしたが考えを飲み込み、今は安堵の表情をしている。集落での悲しみを乗り越えて長く訴えて来た事がやっと叶う。喜びを通り越して胸を撫で下ろしたのだろうか。
「これであの時のお金を貰う必要も無くなりましたが、黒刀は返せないんです。なので黒刀を買い上げようと思いまして」
「あれは差し上げた物ですから気にしないで下さい」
と、言われても黒刀分の料金も返さないと横領になってしまう。今なら在庫品を勝手に処分しただけで済む。どうしても払うと言うと在庫品らしい値段を言って来た。
マノンさんは黒刀を魔剣とは知らずに在庫で処分するつもりだったみたで、手持ちから半額ほど払えた。後はオリエッタの拷問機具を売り払ってお金を用意しよう。
これで帝都での本来の目的は達した。後はダークエルフの六姉妹か。記憶は探れているみたいだけど、奴隷密偵の方はどうなるか。絶対服従って、ちょっと楽しみ。
ハスハント商会を後にしてクリスティンさんも商会の人間を一人しか気絶させていないと聞いて安心した。本当にクリスティンさんに言い寄る男は多いよね。そのチャレンジ精神は称賛しよう。
ラトランド侯爵の屋敷の地下で惨たらしい光景を想像していたけれど、服を脱がされてるだけ静かに繋がれていた。
「ルフィナ、記憶は終わったかな」
「三人目であるが、前の二人と殆ど変わらない記憶である」
ふむ、もう少し陰惨な状況を考えていたけれど、服を脱がすだけなら構わない。構わないんだけど、裸にしてギロチン拘束具を着ける理由はあるのだろうか。
一枚の板を半分にして、手と首が出るように穴を開け、通したら板を元に戻す。奴隷船に乗る奴隷の様で可哀想だ。隠したくても手が動かないだろうし。
「残りも記憶を探って下さい。何か新しい事が分かったら教えて下さいね。」
「団長は奴隷については何も知らないのであるか?」
奴隷については来るまでにオリエッタから聞いたくらいで、主人と奴隷の間には血の契約が交わされて禁止項目と罰が付くぐらい。
禁止項目は「自分を襲うな」とかやってはいけない事で罰は主人が一方的に与えられる苦痛で、これには見える範囲か禁止項目と連動して自動的に与えられる。
僕が欲しいのはもっと自由度の高い。服従した上で危険な任務をこなしてくれる奴隷だ。かなり都合がいい。アラナは前世でやってクレスタの町に潜入してくれたけど、僕を殺しに来たダークエルフに服従とか忠誠心なんて無理だよ。
オリエッタには当てがあるみたいだけど、駄目な場合はクリスティンさんの餌食かぁ。美人の六姉妹、勿体ないぶん気が重いね。
「奴隷にしたらこんな事も出来るです~」
オリエッタが渡して来たのは二メートルくらいの鉄で出来た細い棒。先端は丸みを帯びて先の方から側面にかけて小さな穴が空いている。
反対側の先には小さな四角い箱と赤いボタン。たぶん箱には魔石を仕込むのだろう。そしてボタンを押したら発射するのかな?
「これは?」
「これはチョウヤ・キキです~。こっちに来て懐かしくて買っちゃいました~」
これがチョウヤ・キキか!? ……と、言われても分からんです。確か拷問道具の一つだと言っていたけど、この鉄の棒で殴るのかな?
オリエッタはダークエルフを一人捕まえて、強引に引きずり倒した。パワーなら団内一のオリエッタに逆らえる人はなかなかいない。
哀れダークエルフ、ギロチン拘束具と膝を着いて四つん這い状態。こちらにはお尻を向けて秘部が丸見え。もしかして「ケツ叩き」に使うのだろうか。
長く細い足と小ぶりなお尻に褐色のダークエルフの肌に見とれ、「拷問禁止」と言う前にオリエッタは僕からチョウヤ・キキを取り上げ、あろうことかダークエルフさんの秘部に突き刺した。
「ぎゃ!」
それは驚くだろう。鉄の棒を突き刺されたんだから。 ……そうじゃなくて! オリエッタはなんて事をしてくれるんだ!? 可哀想な捕虜を虐待して楽しいのか!? オリエッタはエムもエスもどっちもいけるんだったね、楽しそうだ。
いや、いや、いや、さすがに止めないと!
いや、いや、いや、もう少し見てからでも……
「もう少し奥まで……」
どこまで入れるんだ!? 女体の神秘か!? 長さなら僕のショートソードくらいが入ったのか!? なんて……
「あがっ! ぐぅ…くっ、あがっ!」
「オリエッタ!」
やりすぎだ! 鉄の棒を女性のアソコにぶち込むなんて何を考えてるんだよ! ぶち込んで良いのは男の相棒だけだ! 勿論、合意の元でね。
「それでここに魔石を入れるんです~」
僕の声を全く聞いてないのか、オリエッタは赤い魔石をチョウヤ・キキの手元の箱に押し込んだ。てっきり黄色の雷系か青の水系の魔石を使うと思っていたのに違うみたいだった。
赤い魔石は火系を表す。街の街灯や食事を作る台所に一家に一個、的にあるものだが、このチョウヤ・キキにも……
チョウヤ・キキ。
チョウヤキキ。
腸、焼き機!
脱兎の如く駆け出してチョウヤ・キキがめり込んだお尻を蹴りあげ、ダークエルフは前のめりに転がった。すかさずチョウヤ・キキを持つオリエッタの手に合わせて上に向ければ、奏でる業火が天井を焼く。
わぁ~、キレイ。チョウヤ・キキの先端に開いていた穴から吹き出す炎は舐める様に天井一面に広がり、火災映画のシーンを思い出させた。
「どうしたんですか~」
あぁ、僕を見上げるオリエッタに、渾身の力を込めて頭突きを喰らわせてやりたい。幸いにも地下室だった事もあり、天井に燃える物は無かった。チョウヤ・キキを差し込まれたダークエルフは見えなかったかもしれないが、他の五人は天井を舐めた業火を見ている。
もしチョウヤ・キキが刺さったまま、炎が噴き出していたら…… 一人は気を失い倒れ、一人は漏らした。これで奴隷密偵なんてなってもらえるのだろうか。
「オリエッタ、拷問は全てが終わってからって話しましたよね!」
「そうでした~」
可愛いから許す。いや、許しちゃダメだよな。ゴスロリ服で上目遣い、両手を握って口元に持って行き、可愛さを主張するオリエッタを僕は許す事に何ら恥じ入る事は無い。
「あのチョウヤ・キキを使って昔は良く賭けをしてんです~。最初に出る炎が口から出るか、お腹から出るかって賭けなんです~」
なるほど、競馬と同じか!? なんて思う訳がねぇだろ! 刺された方はどうなる!? 拷問器具で賭け事禁止!
僕は有無を言わさずオリエッタの首根っこを掴んで、地下室を出た。ルフィナには引き続き記憶の掘り起こしを頼み、オリエッタはラトランド侯爵の書庫に投げ込んだ。
一日にしては充分に働いただろう。明日は演習も休みだしラトランド侯爵の離れ家でお世話になって、今日はゆっくり休もう。
おやすみなさい。
「団長~」
今、おやすみなさいって言ったの! まだ何かあるかと思えばオリエッタか。夜も遅くまで調べものをご苦労さま。出来れば明日にしてくれないか。
「団長~。いいですか~」
「大丈夫ですよ。どうかしましたか」
「例の奴隷密偵に目処が付きそうです~」
いい報せなら大歓迎だよ。これで六姉妹を殺さずに済みそうですね。あの六姉妹、中々の者ですから殺すには惜しい。白百合団の妹分として可愛がってあげたい。
「少し時間がかかりそうです~。ルフィナちゃんにも手伝って欲しいです~」
オリエッタは錬金術で役立ちそうな物を作ってもらっていたけど、こちらの方が優先だね。ルフィナの代わりにはソフィアさんに頑張ってもらおう。
「どのくらい時間がかかるのでしょう」
「六人全てなら一ヶ月くらいです~」
それはどうしようか。リザードマン討伐の時期に二人が居ないのは大幅に戦力ダウンだ。演習は後一週間あり、最後にはアンテッドを使った実戦。次の一週間が休暇と準備に当てて、その後に出陣となる。
「出陣までに二人くらいは出来上がりますか」
「準備からだから良くて二人です~。一人なら何とか~。ちなみに団長、こんな奴隷を「影」と言います~」
「影」か。二人の戦力を失って、出来るか分からない影が一人。ラトランド侯爵にあまり迷惑を掛けられない。早目に出ていかないと。
「オリエッタの予定で進めて下さい。影は一人。何とか都合を付けて下さい」
「分かりました~。頑張ります~」
話が終わっても出て行こうとしないオリエッタ。そうか、今日はオリエッタの輪番か。オリエッタは目立ちはしないが白百合団では無くてはならない凶悪な存在だ。
プリシラさんの鎧もアラナの武器も僕の左手の義手もみんなオリエッタの手が入っている。黒刀を返すし僕の武器もそのうち作ってもらわないと。
オリエッタの大きな瞳が潤んでいる。抱き締めて軽いキス。
「団長~」
「ん? なぁに?」
「今度、買った三角木馬を使ってみたいです~」
「誰が?」
「オリちゃんです~」
「誰に?」
「団長にです~」
速攻で押し倒して神速と義手の暴走を使った。後先なんて考えていられない。わずか十分で沈黙。我ながら必死になったよ。
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