異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第八十四話

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 コアトテミテスの街。別名「魔石の街」
 
 
 帝都からコアトテミテスの街まで約一ヶ月。もちろん直接向かった訳じゃない、大きな街や小さな街、貧しい村に施しもしながらだった。
 
 僕は偉そうに手伝いもしなかったよ。荷物の出し入れも村人への施しもしないで馬車の中で美女を一人付けて、ふんぞり返っていたよ。
 
 あばら骨、骨折。鎖骨、粉砕。義手、出来てるのにくれない。誰か一人が付く二十四時間監視体制。
 
 僕はそんなに悪い事をしましたか。イザベル嬢は不可抗力からの発展、ダークエルフの六姉妹は重要な影としての仕事をしてもらってる。ミラベルさんの事は知られていない。
 
 僕はそんなに悪い事をしましたか。イザベル嬢との仲はプリシラさんのアドバイスもありましたよね。六姉妹はルフィナとオリエッタの説明前に愛人になってましたよね。ミラベルさんとの授業は楽しかった。
 
 馬車の中は座っているだけ。いつも操車してるだけにヒマ。もちろん隣に美女がいても、いちゃラブ禁止ですね。左腕を肩に回しただけで「左も折るか……」の一言でヘドバン並みに首を横に振り大人しくしていました。
 
 問題はここから、トイレだ!   小の方も最初は嫌だった。他人に掴まれるんだぞ!   いや、掴まれる事はあるのだけど場合が違う。頑なに拒否をしても生理現象には勝てずあえなく敗退。
 
 大の方?   こればかりは少ないプライドを守る為、「便秘になって死んでやる」と言うとアッサリ義手を貸してくれた。やっぱり汚いからね。もちろん終われば義手は強制回収。
 
 長くプライドがズタズタにされる旅路もコアトテミテスの街に着いた事で開放された。義手は以前のを直してくれたオリエッタにお礼を言い、折れた骨も自然治癒と悪魔の血のお陰で治り始めていた。
 
 「変な風に付いてねぇか、この骨」
 
 プリシラさんは僕の事を心配してソフィアさんを連れて診てくれている。やっぱり僕の事が心配なのね。
 
 「そうですか。自分で見ると良く分からないのですが……」
 
 「やっぱり変だよ。曲がって付いてやがる。添え木が不味かったか。ソフィア。治せるか?」
 
 「最初に戻せば真っ直ぐ治せますね」
 
 「そうか……」
 
 何をしたと思います?   また骨を折りやがった!   裸にされて、ちょっと恥ずかしいと顔を背けていた隙に鎖骨に手刀、脇腹に膝蹴りを入れたんですよ。
 
 「ぐへっ、うぐぐぐぅ」
 
 「これで「最初」に戻ったろ。ソフィア、治しておけ」
 
 「はい」
 
 鬼、悪魔、プリシラ!   次の輪番、覚悟しておけ。口には出せない事をやってやるからな。三角木馬はまだ売ってねぇぞ。でも曲がって付いた骨は太刀筋に関わる重要な事だ。今まで通りに戦えないのは足を引っ張る事になり兼ねない。
 
 きっとこれは愛だと自分に言い聞かせる。でも一応……
 
 「曲がった骨は折らないと真っ直ぐには治せないんですか?」
 
 「時間を掛ければ治せますよ」
 
 ……きっと、きっとこれは愛だと、思えるわけねぇ。
 
 
 コアトテミテスの街で一波乱があったが治れば団長、直ぐに次の仕事を探さないと。ハスハント商会から報酬を貰って僕は宿屋の部屋にみんなを集めた。
 
 「この街の近くにサンドリーヌ大森林があります。今回はこちらで魔石の収集をするのはどうでしょうか。いいお金になるそうです」
 
 「ロースファーに行くんじゃないッスか」
 
 「今、影の皆さんが情報収集してますので結果を聞いてから、ロースファーでいい仕事につきたいと思ってます。もしくはハルモニアですね」
 
 「あたいは構わねぇよ。他に斬る相手もいねぇしな」
 
 貴女は普通の友達を作るべきです。
 
 「私はここの寺院で医療のお手伝いをしたいのですが……」
 
 貴女は女神です。是非、手伝って来て下さい。
 
 「我は構わんである」
 
 お前を野放しにすると死人が生き返るので一緒に来い。
 
 「オリちゃんは団長の義手とプリちゃんの剣を作りたいです~。魔石が帝都より豊富です~」
 
 魔石を使うんですか。構いませんが変なのは止めてね。
 
 「……行く」
 
 はい。
 
 「……僕は、僕は故郷の村に帰りたいッス」
 
 「えっ?」
 
 「ここから半日も行かないで東に行くと僕の故郷のジビル村があるッス。村を出てから一度も帰って無いし、近くに来たから……」
 
 消え入れそうな声でうつ向いてしまったアラナ。いいじゃないか!   いいじゃないか!   親孝行しておいでよ。元気な姿を見せてやりなよ。でもね……
 
 「アラナは貴族だったり、何か変なものを召喚したりしないよね?」
 
 「へ、変な者とはなんであるか!?   ロッサ!」
 
 「イエス、マイ・ロード」
 
 出さなくていいから。それと僕の前では肉を付けてから来い!   
 
 「そんな事はしないッス。父さん。母さんは麦を育ててるッス」
 
 「そうか~。親孝行して来るんだよ。馬車を使っていいからね。これからギルドに行って仕事を探してきます。一週間ぐらい長いのを考えているのでアラナはその間、実家に帰っていいからね」
 
 「馬車を使われるなら、あたいらは歩きか?」
 
 「そうですね、馬車で行ける所までと考えていましたが健康の為に歩きましょう」
 
 「めんどうくせぇ、アラナが歩け」
 
 「いいんですかプリシラさん。最近、プリシラさんのお腹のミートがファットですよ」
 
 「?……   てめぇ!」
 
 意味を理解したようでなによりです。剣を抜くのは止めて下さい、狭いんだから。

 
 
 部屋の中で抜刀騒ぎがあったものの神速を使って逃げ出した僕の敵ではない。街中を歩くと帝都までとはいかないけれど街は活気に充ち溢れていた。
 
 人の往来も多く、やはり魔石狙いの冒険者の姿が目につく。将来の魔族との戦争において、この冒険者と傭兵の長所と短所が難しい。
 
 冒険者は個人戦闘において傭兵より上だ。これは冒険者の戦闘経験が傭兵より多く、個人能力が戦闘の勝敗に起因する。
 
 ならば戦争になったら冒険者を出せばいいかと言えばそうでもない。冒険者は集団戦闘が出来ない。少人数の戦闘で相手の数が少なければ問題ないが、総数は別として集団戦は殆どが同数で大集団がぶつかり合う。
 
 個人の勝手な行動で戦線を崩すと集中砲火や逃げ遅れがある。ヌーユで僕らがやったのがそうだ。
 
 戦争になったら傭兵が一番だ。と言うのも今回は当てはまらない。相手が魔物でトロールぐらいのなら殺れるが、獣やドラゴンみたいなのは戦った事がない。
 
 理想と言えば冒険者並みの戦闘能力、応用力と傭兵の集団戦闘能力がある人材があれば問題無いんだけど、そんな都合のいい人材は数が圧倒的に少ないよ。
 
 
 今回のサンドリーヌ大森林で二足歩行以外の魔物と殺って経験値を高めたいのが僕の隠れた目標だ。
 
 
 
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