異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第八十五話

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 冒険者ギルドに行けば魔石収集の依頼は沢山あった。望みとしては他の冒険者が参加して期間は一週間くらい。
 
 
 白百合団は自慢じゃないが協調性が無い。言い換えると個々の戦闘能力が高過ぎて周りと合わす事が出来ず、悪くすると邪魔するヤツは敵とみなし見境が無い。こんなのが隣でデスクワークしていたら、胃が痛くなるね。
 
 ただ痛くなってばかりもいられないから、白百合団のメンバーには強制的でも他者に命を掛ける事の重要性を学んで欲しい。
 
 ギルドの受け付けはオヤジか美人と決まっている。僕は迷わず経験豊富そうなオヤジさんを選んだ。オヤジさんが選んでくれたのは期間は約一週間、人数は十人、報酬は歩合。
 
 問題ない。僕達は四人が参加、すでに他の三人が参加希望していて、今日中に定員が割ったとしても七名で収集に行くという。以外とアバウトな感じがするんだが、これは冒険者に対する偏見かな?   団長がそんな事を考えてはダメですね。
 
 宿屋に帰るとアラナに収集が一週間以上はかかる事を告げ、僕は懐から餞別を渡した。少しの間、会えなくなるのは寂しいがアラナなら問題を起こす事もないだろうし、ゆっくりと親孝行をしてきて欲しい。
 
 一つ予定が変わったのはソフィアさんが医療の手伝いを拒否された。人手は間に合っているとの事だが、それだけ回復の魔法を使える人が多いのだろう。魔石はお金になるし、そういった物を還元して魔法使いを増やしているなら、ここの領主は立派な方だ。
 
 ソフィアさんには一緒に来てもらおう。歩合制だから一人くらい増えても大丈夫でしょ。その分、ソフィアさんには頑張ってもらいますよ。
 
 宿屋の朝食の後、アラナに馬車を渡しオリエッタは錬金術師の所に行き僕達は集合場所の城門へ向かった。コアトテミテスの気候は暖かくて今日も天気も良い。
 
 白百合団として協調性や他者への思いやりを学ぶ事に、多少の不安と多大な期待が入り交じって僕はワクワクしている。
 
 集合場所へ行くと既に五人の男が待っていた。三人チームの冒険者と二人の依頼者だった。依頼者からはダン隊長、デニス副隊長と呼ぶように言われ二人とも年期の入ったアーマーにショートソードとスモールシールド、背格好はプリシラさんと同じくらいで目線が上に行くのが悔しい。
 
 二人とも髪を短く切り、南国にいるような色黒で目の穏やかな気の良いおじさんに見えたが、時おり見せる鋭い眼光が冒険者の風格を漂わせている。
 
 三人組は若手だね。たぶん年齢も変わらないだろう。装備も真新しく冒険者成り立てって感じのイケメン。チャラい感じは無くこれからの冒険者を背負って立つような凛々しさを感じる。クリスティンさんの横に立っても釣り合いそうだ。あげないけど……
 
 白百合団で円陣を組んで小さな女子会が始まり、僕はダン隊長の元で冒険者の話を聞かせてもらった。やはり冒険者と傭兵の違いは沢山あり話を聞くだけで勉強になる。ダンはダンでも僕はこちらのダンの方に好感度があるよ。
 
 後ろの円陣をが少し騒がしい。振り替えると三人組がプリシラさんの肩越しに話しかけているようだ。ナンパかな?    チャラい感じはしなかったのに。僕はクリスティンさんの無表情の中に微かな表情の変化を感じたんだ。
 
 こんな時の対処法は……
 
 「クリスティンさん、こっちを見て下さい。僕を見て……」
 
 神速で女子会の中に割って入り、クリスティンさんの前に立って意識を僕に集中してもらう。目の前に立っているのに、僕がまるで見えていないかの様にナンパ男に集中してしまってる。
 
 こんな時はキスの一つでもして意識をこちらに引き寄せればいいのだが、血祭りにされるのはゴメンだ!    僕はクリスティンさんの頬を両手で挟んでタコの様な唇にした。変顔も綺麗だね。
 
 「……た、たんひょぅ」
 
 やっとこっちを向いたか。ナンパ男は無視をしてこちらを向いてくれ。イケメンも喋らなければ、いい男なのに残念君だね。
 
 「おまえ、邪魔すんなよ」
 
 プリシラさんを退かして円陣の中に入って来た残念君は僕の後ろから肩を着かんで離さない。止めてくれ、ここは死の円陣だぞ。
 
 「てめぇが出ていけ」
 
 何っ!   プリシラさん、今なんて言ったんだ!?   本当にプリシラさんの言葉なのか……   本当にプリシラさんの声なのか!?
 
 僕は歓喜に震えた!    あのプリシラさんが話し掛けたなんて。あのプリシラさんが斬らずに話し掛けたなんて。これは白百合団のターニングポイントになるかもしれない。数年後に今日のプリシラさんの会話を思い出して「あぁ、あれが……」と思い出すのだろう。僕は今、歴史の中にいる!    成長したんだねぇ。僕は嬉しいよ、涙が出るくらい嬉しいよ。
 
 「団長、嬉しそうである」
 
 そうだよルフィナ。あのプリシラさんがコミュニケーションを覚えたんだよ。あの斬る事しか考えていないと思ってたプリシラさんが会話をしてるんだよ。こんなに嬉しい事はない。
 
 「はい、とても嬉しいで……」
 
 「あっ、手が滑った」
 
 肩に軽い衝撃と共に僕とルフィナの間に落ちてくる黒い影。二人で何だろうと見てみると誰かさんの手が落ちていた。
 
 「三秒ルールである」
 
 振り返ると仰け反りながら左手を無くした残念君が血を吹き出している。プリシラさんは……   我、関せずとばかりに口笛を吹いていた。
 
 話し合いの言葉は幻聴か……   手が滑ったじゃねぇだろ、だいたい抜刀して下から切り上げて血糊を払って納刀して手が滑っただと!   どんな弁護士だって無罪に出来ねぇよ。
 
 「ルフィナ!   その手を取って……」
 
 拾い上げてるのは見た。だが切り口から血を吸ってるのは見てない。こいつ馬鹿か。拾い食いしてんじゃねぇ。戦後の食糧難の子供だって墜ちてる手の血を吸ったりしねぇ。
 
 「不味いのである」
 
 僕はルフィナから手を奪って暴れ叫ぶ残念君を地面に押さえつけた。早く付ければ大丈夫だ。
 
 「ソフィアさん、早く治して!」
 
 「えっ!?」
 
 会話が成り立って無い。病院に言って治して下さいと言ったら「えっ!?」って答えられた。それって「何で私が治さないといけないの?」の「えっ!?」ですよね。
 
 「ソフィアさん早く!」
 
 斬られた手をソフィアさんに渡して僕は血まみれになりながらも痛みで叫ぶ残念君を押さえた。
 
 「ギャーギャーと、うるせぇなぁ」
 
 ソフィアさんは静かに言うと力一杯に顔面を足で押さえ付けるのを手伝ってくれた。
 
 「静かにしてろよ。団長に手を出して殺されなかっただけ、マシだと思いな」
 
 聞いた事も無いくらいの低い声で話すソフィアさんに背中が違う意味でゾクゾクする。
 
 「治しました」
 
 小鳥のさえずりの様に話すソフィアさん。……本当の貴方はドチラデスカ。
 
 治した礼も言わずに逃げ出す三人組。ちょっ、ちょっと待って、待ってくれ。
 
 「ソフィアさん、残念君の手のひらが反対を向いてませんでしたか」
 
 「はい」
 
 「ナオルンデスカ?」
 
 「一度斬って、つけ直せば大丈夫です」
 
 
 僕はここに何をしに来たんだっけ?
 
 
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