99 / 292
第九十九話
しおりを挟むどのくらい寝ただろうか。
いや、寝れませんでした。寝床を探そうとした時には東門の方から大きな音がし始めたから。
「来ちゃいましたね~」
本当に来ちゃいましたね。内心、来ないだろう、来なければいいなと、思っていただけに残念。どうやら平穏無事にはいられないようだ。
だけど西門には誰も来ない。忘れられたのだろうか。もしかして白百合団の名前に恐れたのかな。平穏なのが何よりです。
敵が来ている以上、寝るわけにはいかないし、西門は暇だしどうしようか。てっきり大きな森のある北門の方から来ると思っていたのにね。
コアトテミテスの街が襲われているなら、城門の首は囮ではないのかな。それとも東門の戦力も囮で本隊は各村や街に向かったのかも。
ジビル村は心配ないだろう、白百合団が四人もいるのだから。もし攻められても後方の街に村人を引き連れて撤退してから、コアトテミテスに戻るのに三日もあれば十分だ。
相手の戦力が分からないが、こちらも三百も冒険者がいるんだ問題ない。油断している訳ではない、出し惜しみをしてるだけ。
「オリエッタ。ドロンを出して東門を偵察。ただし他の人に気付かれないようにしてね」
いくら錬金術で作ったとは言えドロンはオーバーテクノロジーだ。白百合団以外には出来るだけ見せたくない。出来ればオリエッタの装甲服も隠しておきたいくらいだ。オリエッタは城壁を降りて手頃な所からドロンを出すだろう。優秀な娘だ、問題はない。
東門の騒ぎは気になりが伝令も無く西門の指揮官も何をすることもなく、西門は不気味なくらい平穏だ。
しばらくクリスティンさんをジッと見ていると左手の義手に付けられた超振動を試したくなってくる。昼間のユイナちゃんとニイナちゃんには好評だっただけに使いたくなる。本来は盾の防御力アップの為だが使える物は何でも使わないと戦場では生き残れない。
少しだけならと肩から胸の方へ手を伸ばすと……
「団長~。東門は落ちます~」
「はい?」
後、五センチだったのに。……それ所じゃない!
「本当ですか!? 敵の数は?」
「数は少ないのですが熱量が大きいのがいます~。もう門まで届いちゃってます~」
マジか。熱量が大きいのならトロールか。北門と東門には百を越える冒険者が配置されてるのに、それを突破するくらいなのか。
「まだ破られてはないのですね? 他の熱量はどのくらいですか」
「オーガくらいのが五十くらいです~。その後方に固まってて大きな熱量が一つになってるようです~」
「大きな一つでは無いのですね?」
「はい~。固まりだと思うです~」
東門の一点突破か。北門に来ると思ったんだけど、ハズレたか。トロールに城門を壊させてオーガが突入。後方のは後詰めだな、門を打ち破ったら前進してコアトテミテスを蹂躙、そんな所かな。
「北門からも来ました~。大きさは人くらいでかなり早いです~。通りすぎます~」
見えましたよ。街の中央を飛び抜けてた行った黒い影、恐らくハーピィだ。飛び抜けて東門の城門の上を飛んで北に帰っていった。数は三、四十くらいか、 遊びに来た訳でも無いだろうし何をしに来たんだ。
「僕は東門に行きます。オリエッタ、一緒に来て下さい。クリスティンさんは残って」
さすがに全員行くのはマズイよね。クリスティンさんなら遠距離攻撃も出来るし、男に対しては慈悲の心も無い。東門に行こうとするとクリスティンさんは僕の左手の袖を掴んだ。
もしかして左手の超振動が気になっているのか!? 今は忙しいのに仕方が無いなぁ~。
「……殺してもいいですか」
「……はい。城門の外は全部、敵です」
揉んでも良いですかとは言えず…… 仕事しよ。
僕はオリエッタを抱き上げると神速を使って東門に向かった。オリエッタは楽しんで抱き上げられていたけれど女の子一人持ち上げるのは大変なんだぞ。何とかオリエッタを東門の側まで連れて行き、もう一度ドロンを飛ばさせた。
城門には何人もの冒険者が扉を破られまいと押さえていたが、僕はすぐに城壁を駆け上った。城壁の上では弓を持つものが何人もいたが壁に隠れて射ようともしない。
倒れている者達の側には人の拳を上間るほどの大きい石が落ちている。恐らく投石が怖くて弓を射る事が出来ないのだろう。これだから冒険者は役に立たない。
僕は門の前に何がいるのか確認したくて身を乗り出すとトロールが丸太を抱いて城門に打ち付けていた。まるでスワットがドアを破るようだ。白百合団のスワットは足で宿屋のドアを破ったみたいだけど。
ちょっと覗いて見ただけでサッカーボール台の石が側を通り抜けていく。そんなコントロールじゃワールドカップは狙えねえ。
あんなのが飛んで来るのなら壁に隠れていたい気持ちは分かるが、城門を破られたらオーガやトロールが入り込んで来る。
ここの指揮官はいったいどいつだ!? 何をやってる。城壁に着いてる弓兵に矢を射させるか、城門は捨てて城内で待ち構えるかしないと。バラバラに戦っても勝てないぞ。
僕は指揮官を探したが見付からない。死んだか逃げたか。クリスティンさんを連れてくればよかった。クリスティンさんならこの状況を「不幸にも~」を使って強制的にまとめる事が出来たのに。
僕は城門は壊れると見て城壁を降りオリエッタを探した。今はオリエッタの力がいる。装甲服は見せたく無かったけどトロール相手なら着ないとヤバい。
「団長~。北門の方にも敵です~。たぶんハーピィです~」
この忙しい時に嫌な報せだ。取り合えずハーピィは何をしてるか分からないから放っておけ。この東門が破られるぞ。
「オリエッタ、装甲服に着替えて下さい。東門の内側で敵を迎え撃ちます」
「はい~」
間延びした返事と共にオリエッタは装甲服を召喚した。いつ見ても面白い。金色に輝く魔方陣から盛り上がる様に出てくる。
「着替えます~」
え!? ここで? オリエッタの普段の服はゴスロリだ。戦闘になってもゴスロリだ。鎧を着ている所は見たことがないしオリエッタの事だから防御力のあるゴスロリなのかと思っていたよ。そう言えばヌーユでゴスロリが装甲服に引っ掛かって大変な事になったね。
オリエッタが回りを気にする事もない脱ぎっぷりに思わず見てしまったけれど、ゴスロリの下に着ていたのはスク水! しかも白!
「オリエッタさん、その服は……」
「団長の記憶の中にあったんです~。服の下に服を着るのはいいアイデアです~」
手間が省けて合理的なのですが何故にスク水なのか、なぜ白なのか。僕の記憶の暗部には触れないで欲しい。嫌いじゃない、とても似合ってます。
オリエッタはスク水? の、まま装甲服を着込んだ。装甲服と言っても二メートルを越える巨体だ。装甲服にスク水、記憶の暗部だねぇ。
僕達が東門の前に来るとすでに門を押さえる人は居なくなって皆が剣を構えて破られるのを待っていた。
焦るな。このくらいの数なら僕とオリエッタで殺れるはずだ。僕は改めてショートソードを握りしめ左手に魔力を流す。超振動発動。
派手な音を立てて城門が打ち破られる。小さな木片が散弾の様に辺りを巻き散らかし砂塵をあげた。
…………
静寂が訪れ、破られた門の外には、敗走する様に逃げていくトロールがいた。
僕の頭の中にはクエスチョンマークとオリエッタのスク水が浮かび上がっていた。しかも白!
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる