異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第九十九話

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 どのくらい寝ただろうか。
 いや、寝れませんでした。寝床を探そうとした時には東門の方から大きな音がし始めたから。
 
 
 「来ちゃいましたね~」
 
 本当に来ちゃいましたね。内心、来ないだろう、来なければいいなと、思っていただけに残念。どうやら平穏無事にはいられないようだ。
 
 だけど西門には誰も来ない。忘れられたのだろうか。もしかして白百合団の名前に恐れたのかな。平穏なのが何よりです。
 
 敵が来ている以上、寝るわけにはいかないし、西門は暇だしどうしようか。てっきり大きな森のある北門の方から来ると思っていたのにね。
 
 コアトテミテスの街が襲われているなら、城門の首は囮ではないのかな。それとも東門の戦力も囮で本隊は各村や街に向かったのかも。
 
 ジビル村は心配ないだろう、白百合団が四人もいるのだから。もし攻められても後方の街に村人を引き連れて撤退してから、コアトテミテスに戻るのに三日もあれば十分だ。
 
 相手の戦力が分からないが、こちらも三百も冒険者がいるんだ問題ない。油断している訳ではない、出し惜しみをしてるだけ。
 
 「オリエッタ。ドロンを出して東門を偵察。ただし他の人に気付かれないようにしてね」
 
 いくら錬金術で作ったとは言えドロンはオーバーテクノロジーだ。白百合団以外には出来るだけ見せたくない。出来ればオリエッタの装甲服も隠しておきたいくらいだ。オリエッタは城壁を降りて手頃な所からドロンを出すだろう。優秀な娘だ、問題はない。
 
 東門の騒ぎは気になりが伝令も無く西門の指揮官も何をすることもなく、西門は不気味なくらい平穏だ。
 
 しばらくクリスティンさんをジッと見ていると左手の義手に付けられた超振動を試したくなってくる。昼間のユイナちゃんとニイナちゃんには好評だっただけに使いたくなる。本来は盾の防御力アップの為だが使える物は何でも使わないと戦場では生き残れない。
 
 少しだけならと肩から胸の方へ手を伸ばすと……
 
 「団長~。東門は落ちます~」
 
 「はい?」
 
 後、五センチだったのに。……それ所じゃない!   
 
 「本当ですか!?   敵の数は?」
 
 「数は少ないのですが熱量が大きいのがいます~。もう門まで届いちゃってます~」
 
 マジか。熱量が大きいのならトロールか。北門と東門には百を越える冒険者が配置されてるのに、それを突破するくらいなのか。
 
 「まだ破られてはないのですね?   他の熱量はどのくらいですか」
 
 「オーガくらいのが五十くらいです~。その後方に固まってて大きな熱量が一つになってるようです~」
 
 「大きな一つでは無いのですね?」
 
 「はい~。固まりだと思うです~」
 
 東門の一点突破か。北門に来ると思ったんだけど、ハズレたか。トロールに城門を壊させてオーガが突入。後方のは後詰めだな、門を打ち破ったら前進してコアトテミテスを蹂躙、そんな所かな。
 
 「北門からも来ました~。大きさは人くらいでかなり早いです~。通りすぎます~」
 
 見えましたよ。街の中央を飛び抜けてた行った黒い影、恐らくハーピィだ。飛び抜けて東門の城門の上を飛んで北に帰っていった。数は三、四十くらいか、 遊びに来た訳でも無いだろうし何をしに来たんだ。
 
 「僕は東門に行きます。オリエッタ、一緒に来て下さい。クリスティンさんは残って」
 
 さすがに全員行くのはマズイよね。クリスティンさんなら遠距離攻撃も出来るし、男に対しては慈悲の心も無い。東門に行こうとするとクリスティンさんは僕の左手の袖を掴んだ。
 
 もしかして左手の超振動が気になっているのか!?   今は忙しいのに仕方が無いなぁ~。
 
 「……殺してもいいですか」
 
 「……はい。城門の外は全部、敵です」
 
 揉んでも良いですかとは言えず……    仕事しよ。
 
 僕はオリエッタを抱き上げると神速を使って東門に向かった。オリエッタは楽しんで抱き上げられていたけれど女の子一人持ち上げるのは大変なんだぞ。何とかオリエッタを東門の側まで連れて行き、もう一度ドロンを飛ばさせた。
 
 城門には何人もの冒険者が扉を破られまいと押さえていたが、僕はすぐに城壁を駆け上った。城壁の上では弓を持つものが何人もいたが壁に隠れて射ようともしない。
 
 倒れている者達の側には人の拳を上間るほどの大きい石が落ちている。恐らく投石が怖くて弓を射る事が出来ないのだろう。これだから冒険者は役に立たない。
 
 僕は門の前に何がいるのか確認したくて身を乗り出すとトロールが丸太を抱いて城門に打ち付けていた。まるでスワットがドアを破るようだ。白百合団のスワットは足で宿屋のドアを破ったみたいだけど。
 
 ちょっと覗いて見ただけでサッカーボール台の石が側を通り抜けていく。そんなコントロールじゃワールドカップは狙えねえ。
 
 あんなのが飛んで来るのなら壁に隠れていたい気持ちは分かるが、城門を破られたらオーガやトロールが入り込んで来る。
 
 ここの指揮官はいったいどいつだ!?   何をやってる。城壁に着いてる弓兵に矢を射させるか、城門は捨てて城内で待ち構えるかしないと。バラバラに戦っても勝てないぞ。
 
 僕は指揮官を探したが見付からない。死んだか逃げたか。クリスティンさんを連れてくればよかった。クリスティンさんならこの状況を「不幸にも~」を使って強制的にまとめる事が出来たのに。
 
 僕は城門は壊れると見て城壁を降りオリエッタを探した。今はオリエッタの力がいる。装甲服は見せたく無かったけどトロール相手なら着ないとヤバい。
 
 「団長~。北門の方にも敵です~。たぶんハーピィです~」
 
 この忙しい時に嫌な報せだ。取り合えずハーピィは何をしてるか分からないから放っておけ。この東門が破られるぞ。
 
 「オリエッタ、装甲服に着替えて下さい。東門の内側で敵を迎え撃ちます」
 
 「はい~」
 
 間延びした返事と共にオリエッタは装甲服を召喚した。いつ見ても面白い。金色に輝く魔方陣から盛り上がる様に出てくる。
 
 「着替えます~」
 
 え!?    ここで?    オリエッタの普段の服はゴスロリだ。戦闘になってもゴスロリだ。鎧を着ている所は見たことがないしオリエッタの事だから防御力のあるゴスロリなのかと思っていたよ。そう言えばヌーユでゴスロリが装甲服に引っ掛かって大変な事になったね。
 
 オリエッタが回りを気にする事もない脱ぎっぷりに思わず見てしまったけれど、ゴスロリの下に着ていたのはスク水!   しかも白!
 
 「オリエッタさん、その服は……」
 
 「団長の記憶の中にあったんです~。服の下に服を着るのはいいアイデアです~」
 
 手間が省けて合理的なのですが何故にスク水なのか、なぜ白なのか。僕の記憶の暗部には触れないで欲しい。嫌いじゃない、とても似合ってます。
 
 オリエッタはスク水?    の、まま装甲服を着込んだ。装甲服と言っても二メートルを越える巨体だ。装甲服にスク水、記憶の暗部だねぇ。
 
 僕達が東門の前に来るとすでに門を押さえる人は居なくなって皆が剣を構えて破られるのを待っていた。
 
 焦るな。このくらいの数なら僕とオリエッタで殺れるはずだ。僕は改めてショートソードを握りしめ左手に魔力を流す。超振動発動。
 
 派手な音を立てて城門が打ち破られる。小さな木片が散弾の様に辺りを巻き散らかし砂塵をあげた。
 
 
 …………
 
 
 静寂が訪れ、破られた門の外には、敗走する様に逃げていくトロールがいた。
 
 
 僕の頭の中にはクエスチョンマークとオリエッタのスク水が浮かび上がっていた。しかも白!
 
 
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