異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
105 / 292

第百五話

しおりを挟む

 コアトテミテスの領主、ホレス・ビンガム子爵。キノコカットの髪型で、第一印象から笑いを与えてくれる朗らかな男。まだ若いようだが「準」が付いてないコアトテミテスの当主だ。ここは辺境伯の領地だから部下になるのかな。
 
 
 優しそうな笑顔を見せ、領主としては少し線の細い感じもするが、コアトテミテスの繁栄は魔石と領主の手腕によっての事だろう。
 
 それを挨拶もしないうちから、髪型を見てオリエッタは笑わないように。人は見かけによらないものだよ。
 
 「コーデミアス辺境伯配下、ホレス・ビンガム子爵です。この度のご活躍は聞き及んでおりますぞ、シン男爵殿」
 
 「傭兵、白百合団、団長ミカエル・シン男爵です。今回の活躍の大半は、こちらの錬金術師のオリエッタでございます」
 
 「そなたが、ドラゴンスレイヤーの方か!?    小柄な体でたいしたものだ」
 
 オリエッタも二つ名が付いたみたいだね。これで白百合団に二つ名持ちが四人になった訳だけどプリシラさんが「何であたいには~」って怒りそうだ。
 
 実際な所、オリエッタの活躍は大きい。サンドドラゴンを転ばせたのもオリエッタなら、最終的に首を千切ったのもオリエッタだ。
 
 僕がやった事と言えば、クリスティン軍団を率いてサンドドラゴンに傷を付けたくらい。クリスティンさんは喜んでいたけど、一緒に戦った多数は天国に旅立った。
 
 まあ、クリスティンさんの事を思って死ねたのだから良しとしよう。怪我人もクリスティンさんを見て笑っていたくらいだから。    ……腕が無くなっていても。
 
 挨拶もそこそこに僕達は子爵の執務室通され、ふわふわのソファに座った。やはりお金持ちの領主様が使う物は違うね。ソファも大きくて柔らか、テーブルも調度品も高級そうだし壁には自分の絵まで飾っている。昔はロン毛だったのね。
 
 「さっそくだが、シン男爵。この度の魔物の進行をどうみる?」
 
 話の早い「キノコ」で助かる。僕は魔物の不可解な行動について傭兵としての知見を笑いを堪えて言わせてもらった。
 
 冒険者の首を北門にさらした事。東門を破壊しても撤退。北門へのハーピィの空爆。そしてサンドドラゴンが攻めて来たのにトロールやオーガの姿が見えなかった事。軍事行動としては不合理な事ばかりだ。
 
 「魔物だからとは言えんかね」
 
 魔物だから合理的な戦いをしないと言われるが、それだと北門の首とハーピィの空爆が腑に落ちない。どちらも動機や戦術が必要になってくる。魔物にそこまでの戦いが出来るのだろうか?    僕は常識外れな事を言ってみたくなった。
 
 「もしかしたらですが……   これは一種のデモンストレーションではないでしょうか。ジビル村の牛追い祭りを終わるのを待って北門に首を置き、冒険者を集めた所でのコアトテミテスへの軍事行動。東門の破壊もハーピィの空爆も力を誇示しているように見えます。サンドドラゴンに至っては、最終的にコアトテミテスの街まで二百メートルまで近付いてます。魔岩を放てるのにここまで近付く必要は無い」
 
 僕は今まで考えていた魔物の行動に付いて、ぶちまけてみた。こんな突拍子も無い事を他の団員に言ったら、笑われるか刺されるか犯される。現場指揮官に言った所でも、失笑を買ってどうしようもないしね。
 
 それにこの子爵様相手なら冗談で済ませれそうだ。貴族同士の高度でウィットな会話、なにせ頭がキノコだ。これで押し通してもいいだろう。
 
 「もし……    もしシン男爵の言う通りデモンストレーションとして、いったい誰がそんな事をすると思っているのかね」
 
 「魔族……」
 
 なんて事があったら大変だよね。ここは帝国の北の端だけど魔族のいるノルトランドまではハルモニアとロースファーの二か国を越えて来ないといけない。
 
 ハルモニアからの報告はまだ来てないけど、ロースファーからの報告では魔族の話は出てない。軍事行動の話は少し出てるけどロースファー側のサンドリーヌ大森林で何かあったのかと思っていた。
 
 「すげぇな、分かっちゃったのかよ。分からないと思ったんだけどなぁ。いつ分かったんだ」
 
 「えっ!?」
 
 「えっ!??」
 
 最初の「えっ!?」は僕です。ハッタリ以前に適当とも言える根拠の無い言葉。こんな事が出来るヤツなんて魔族以外、思い付かなかった。それだけを理由に向こうの方から白状してくれるなんて思わなかった「え!?」
 
 二つ目の「えっ!??」はキノコ子爵様。じぶんから正体を白状したのに、実は相手にバレていなかったの驚きの「えっ!??」
 
 「子爵様は魔族でしたか……」
 
 「思わず口にしちゃったけどね。シン男爵から出ているオーラが屋敷の中にいても分かったから、てっきり殺しに来たのかと思ってたよ」
 
 オーラなんて出せてるのかな。寝不足から来るオーラの放出とかあるのだろうか。それなら今の僕のオーラはドス黒い。
 
 いつも持ち歩いているショートソードと盾は使用人に預けている。持っているのは腰に付けているオリエッタナイフと超振動、自慢の神速だけ。
 
 「じゃあ、死んでください」
 
 僕は超振動を全開にしてオリエッタナイフを抜き出して魔族に斬りかかる。神速の最高速まで、あと一歩の所で心臓に走る鋭い痛み。クリスティンさん!?
 
 「血の気が多いなぁ。それに彼女は面白い力を持ってる、心臓を止めるのかな……」
 
 テーブルの上で心臓を押さえて苦しむ僕はクリスティンさんの方を向くと、僕を殺さんとばかりに睨み返して来た。
 
 今まで合った中でも最高に怖い目付きだ。見られているだけで心臓が止まりそう。とてもじゃないが、君の瞳に乾杯とは言えねぇ。
 
 「クリスティンさ……ん……」
 
 「教えてあげるよ。魔物をここに呼んだのは俺だよ。彼女を操ってるようにね。サンドドラゴンも俺がやったよ、あんな大物を操れるなんて凄いだろ、それをあっさり殺っちまうなんて、君達も大したもんだよ」
 
 「この野郎……」
 
 神速最大の心臓マッサージが追い付かないくらい、クリスティンさんの力が激しくなって僕を追い詰める。鋭い痛みに身体を動かす事も出来なかった。
 
 「もう一つ、残ったトロールやオーガもこっちに向かわせてるよ。コアトテミテスでの殺戮をここから眺めようと思っていたのに残念。バレちゃったから帰るよ。最後にこの娘は持って帰っちゃおうかな」
 
  魔族の野郎は手招きすると、クリスティンさんはしっかりとした足取りで近寄り魔族の前に立った。クリスティンさんの顎に優しく手を触れ、上を向かせて顔を近付けてキスをしようと唇を寄せた。
 
 神速!    
 
 止まる心臓、空振るナイフ。僕の捨て身の一撃は、クリスティンさんとの間に割って入る事しか出来なかった。薄れ行く意識の中で、オリエッタが魔族にハンマーを振り上げ、クリスティンさんは倒れた僕に駆け寄って来た。
 
 「残念だったね、ご苦労さん。証人が減ると困るから彼女は諦めるよ。残った戦力で頑張ってね。それと君は死んでいいから。じゃあねぇー」
 
 オリエッタは魔族を窓の方まで追い掛け、クリスティンさんは僕の両頬に手を触れて泣きじゃくっていた。困ったな……    泣いている女性に掛ける言葉を、僕は知らないよ。
 
 もう声を掛ける事も出来ないや……    仕方がない……    傭兵をやってるんだ、死ぬ覚悟はしていたつもりだ。 

 こんな形で死ぬとは思って……    いた。いつかは斬られたり、心臓麻痺だったり、レーザーで真っ二つだったり、刺されたり、血を抜かれて干からびたり、ハンマーで潰されて死ぬかと思っていたよ。
 
 
 良かった……    これは予想通りだ。いきなり連載が終わる漫画家みたいだけど。 死はいつも隣に立って鎌を振り上げているんだ。
 
 
 僕は目の前が真っ暗になって、僕は眠るように死んだ。出来れば女の子の胸の中で死にたかった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

処理中です...