106 / 292
第百六話
しおりを挟む僕は自分の体を俯瞰から見ている。これが幽体離脱なのかと死んでから最初に思った。泣きじゃくるクリスティンさんに心臓マッサージをするオリエッタ。
気が付くと暗闇の中で階段に立っていた。見上げれば階段の先には光が輝き、階段の輪郭をぼんやりと写しだしていた。見下ろせば闇の中にクリスティンさん達がいる。
あれ、ドアを破ってプリシラさんとアラナが入って来た。ジビル村はどうしたんだろう? ソフィアさんとルフィナがいないけど大丈夫なのか?
あの階段の先、光の向こう側に天国があるか分からない。たぶん地獄なんだろうね。あれだけ殺しをやってるんだから。それも、まあ仕方がないね。
皆に看取られてあの世に行くのも悪くないかな。もう少し話したい事があったのが心残りだよ。
クリスティンさん、泣かないで下さい。貴方のせいではないですよ。
オリエッタ、BC兵器は封印して下さいね。
アラナ、いつも可愛いね。あの悪い癖は直すようにしないとね。
プリシラさん、僕は貴方の事が好きでしたよ。色々ありましたが、誰よりも愛してます。ソフィアさんとルフィナには上手く言っておいて下さい。
僕は光に向かって歩み始めた。
光に向かって階段を登って、もう少しで光の先に行けると思った時、僕の胸に激しい痛みが突き刺さる。
「ぐへぇ!」
何だよ、死んでも痛みがあるのかよ。安らかな眠りってのは嘘なのか!? 後、少しで天国まで行けるってのに!
膝を付き胸を押さえて苦しむ僕は、返り越しに見てしまった。プリシラさんが僕の胸にカカト落としを決めている所を。
もしかしてプリシラさん流の心臓マッサージのつもりか…… ふざけるな! あんな事をされたら死人だって生き返る。
「ぐへぇ!」
二発目の心臓へのカカト落とし。死ぬ、マジで死ぬ。死んでいるのに死ぬ。階段から落ちそうになるくらい、のたうち回った。こいつ階段から落として地獄にでも行かせる気か! やらせるかよ! 僕は天国への階段を三段飛ばしで駆け降りて行った。
「もう一発!」
バシッ!
間一髪の所で、左手の超振動を全開に悪魔の心臓マッサージを止めた。
「いつまで寝てやがる、遅刻だ」
「プリシラさん、カカト落としはスカートかホットパンツで、キャロットスカートはダメです」
「なに言ってんだ、てめぇは」
プリシラさんの足を払って抱き寄るクリスティンさん。もう泣かなくてもいいですよ。オリエッタも、もう大丈夫ですから。
「いったい何があったんだ」
「それは歩きながらで…… ここにはソフィアさんもルフィナも来てるんですか」
「ああ、影から連絡を受けてな。ソフィアが不味い事になってるからよ」
聞きたくない報告だ。なんとなく理由は分かるから。僕はビンガム子爵の部下に子爵が死んだ事を告げ、コアトテミテスは一時、僕が預かる事を宣言した。
幸い貴族階級の者はいなかったしこんな状態では誰かが上に立って指揮をしなければ。僕はこの屋敷で一番の名剣を持って来させた。
「魔剣コアトテミテスでございます」
ショートソード、片刃、握り、僕が振るには調度いい。しかも魔剣なんて後で返すのが惜しくなるかも。名前はコアトテミテスを守護する物として付けられたが、もう少しヒネリを加えようね。
僕は歩きながら事の詳細をプリシラさんとアラナに教えた。二人は驚いたようだけど、コアトテミテスに残れば良かったとプリシラさんは怒ってる。きっとオリエッタに付いた二つ名が悔しいんだろう。 ……そう言えば僕もいたんだけど付いてないなあ。
アラナには先に城門の指揮官の所に向かわせた。もう城門や城壁さえもボロボロだが次に来る魔物の備えをしなければ。人と武器を揃えて、次の一波を守り抜けば僕達の勝ちだ。
夕闇が支配する時間になったがこの街の中は明るい。魔法での外灯が時間になったら点くようになっているのだろうけど、一際明るい…… いや、鮮烈な光を窓から放っている場所がある。僕達の定宿にしている場所。きっとソフィアさんがいるんだろうね。あぁ気が重い……
宿屋の廊下にはドアの隙間から放たれている光が線のように見え、その光の強さを物語っている。振り替えるとプリシラさんが追い払うかの様に「行け、行け」と手を振っていた。
ドアノブを握ったまま動けなくなってしまった僕を、後ろからケツ蹴るプリシラさん。分かってるんだ。分かっているけど本当に怖いんだよ。蒸発して死にたくない。
意を決してドアを力強く空けて入ると、眩しくて何も見えない。うっすらと目を空けて見てみると裸で床に倒れているルフィナとロッサ。直ぐに駆け寄り、影になるように顔を光から隠すとルフィナはようやく口を開いた。
「我には無理であったのである。恐ろしい、恐ろしい女であるソフィアは……」
「もう大丈夫ですよ、後は任せて下さい」
「すまない…… すまないのである」
彼女はその言葉を最後に息を引き取ったりはしないで失神した。僕はルフィナを連れ出しプリシラさんに任せて今度はロッサの元に駆け寄る。
「マ、マイ・ロードは無事ですか……」
ロッサはボロボロの服に体には肉が付いていた。普段から肉を付けて来るようにいってあるが、不死の女王としての力が弱くなっても肉が付いてくる。その言葉を最後に彼女は消えていった。余程の事がならなければ、ここまではならない。死んでないよね。
僕は光が発している方に目を細めて「余程」を探す。もう取り返しが付かないんじゃないかと心の隅の方で思った。
ソフィアさんは裸でベットに腰掛けていた。体からはプラチナ色の光が輝き宗教関係者が見たらきっと「神だ!」と言ったろうし映画好きなら「こんなサイボーグが暴れる映画があったね」と言うだろう。
僕はどちらでもない。出来ればどちらかが良かった。ソフィアさんの横に腰を掛けて良く見ると透明な薄い皮膚があり、その下から光輝いているようだ。もうこれ、神レベルじゃねえの。
「団長……」
ソフィアさんは自分の状況が分かっているのだろうか…… 貴方は人間を越えているのではないですか。
「お帰りなさい、ソフィアさん。これが終わったら迎えに行ったのに」
言葉が見つからない。正しい選択をしなければ小型核融合か反物質か…… 人知を越えた者が隣で座っている。
「オリエッタがサンドドラゴンを倒したって……」
この言葉が決定的だ。人知は越えたがソフィアさんには変わらない。オーガ一体に付き一戦時報酬。サンドドラゴンの大きさを比較してオリエッタに負けた上に、自分は何にもしていないと思ってる。
「はい。かなり大きいので苦労しました」
これを聞いて光の輝きが増し、その光自体に圧力があるかの様に僕は外に押されそうになった。ムリゲーか。
「今日の夜にはオーガやトロールの大軍団がコアトテミテスに攻めて来ます。僕達はこれを撃退して街を守ります。スコアはかなり稼げると思いますよ」
これを聞いたソフィアさんは輝きを増してこちらを振り向いた。もう眩しくて見てられん。
「わたし、私、頑張ります。殺して殺して皆殺しにします。だから…… だから私を捨てないで下さい」
いや、いや、いや、いや、なんで「捨てる」とかの話になってるの。どこをどうすれば、こんなに話が変わるのか。女心は分からないねぇ。
「僕がソフィアさんを捨てるなんて事はあり得ませんよ。ずっと大事に思ってますよ」
僕はそっと口づけをしてベットに押し倒した。文句は聞かん! これ以外、思い付かないんだもん。光が収まるまでの一時間半、僕は貴重な体力と神速、魔力を使いなんとかいつものソフィアさんに戻す事に成功した。だから、文句は聞かない。
コアトテミテスの防衛戦、今宵で終わらせよう。敵を殺して殺して…… きっと戦時報酬を払うより楽なんじゃないかな。
そうだ今度、オリエッタにはサングラスを作ってもらえないか聞いてみよう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる