異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百七話

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 僕とソフィアさんは最後にキスをしてから部屋を出た。普通のソフィアさんは優しそうな顔立ちで、守りたくなるような儚げさや時にはお姉さんの様な、しっかり者になる。
 
 
 今はローブを払って腕を組んで歩いている。別に逃げようとして捕まってる訳じゃないからね。プラチナ色に輝いたソフィアさんからは逃げたかったけど。
 
 先に北門に行かせた皆には作戦は伝えてある。初めはルフィナの広域魔法で半壊まで殺りたかったけど、ここでルフィナにスコアを稼がせたら大変な事になりそうだ。
 
 一番槍はソフィアさんのプラチナレーザー。これでスコアを稼いでもらって落ち着いてもらおう。その後はルフィナの広域魔法で全滅。魔法使いっていると便利だよね。僕なんかショートソードで一人一人倒さないといけないからね。
 
 北門には生き残っている冒険者、新規に捕らえられたクリスティン軍団と白百合団が壊れた城壁に陣を構えていた。
 
 「敵は……」
 
 ブウォンと空気を切り裂くカカト落としを、ソフィアさんに腕を絡まれているので避けられず脳天直撃。だ・か・ら、スカートを履いてからにしろよ。
 
 「ずいぶんと楽しんだみたいだな。敵はまだ来ねぇぞ」
 
 痛てぇんだよ、身長が縮むだろ。それだけ言ってプリシラさんは持ち場に戻ってしまった。それだけを言うために、カカト落としを喰らわしてくれたのか。
 
 だが、ソフィアさんが「イー」と口を尖らせて見せた可愛さと、腕に当たる柔らかい膨らみで許してやろう。ふむ、少し成長したかな……
 
 「オリエッタ、ドロンを飛ばして索敵。北門正面から来ますよ」
 
 「はい、は~い」
 
 もう、スク水姿か……   ヤる気があってよろしい。あの魔族の事だ。正面から堂々と来るに決まってる。あいつにとってはもう、どちらが勝とうが関係ないはずだ。狙うとしたら共倒れだろう。
 
 敵の兵力を予想するならば最初の東門に来ていたオーガの五十。それとトロール三くらい。後方に同数がいた事も分かっているし、総数でオーガ百にトロールが六くらいか。それにゴブリンも加えるかな。
 
 怒りのソフィアさんが全て片付けてくれると色んな意味で助かる。それまでは出来るだけ機嫌を取って誰に取ってもウイン・ウインな終わりを目指そう。
 
 撤退?    それも考えの中に入れておいてもいいけど、勝てる戦に撤退はないなぁ。それにあのクソ魔族の思い通りにさせるのは気に入らない。クリスティンさんに手を出した事は絶対に後悔させてやる。三角木馬はまだあるんだぞ。
 
 僕はソフィアさんと北門の近く、今は魔岩の直撃で廃墟にも似た家に入って行った。僕の上にソフィアさんを座らせ、腰に手を回して側に寄せ、耳元でささやく。
 
 有らん限りのボキャブラリーを駆使し誉めまくり!    たまにキス。もう機嫌を取るにはこれしか思い付かないんだもん。馬鹿にするなよ、これも団長の仕事なんだから。団員に気持ち良く仕事をしてもらう。これが大切。
 
 しばらくして誉める言葉も少なくなって来て、そのまま押し倒している頃にようやく敵がやって来てくれた。もう少し早く来いよ。ネタ切れ寸前なんだよ。
 
 「団長~。敵襲です~」
 
 「数と構成は?」
 
 「たぶんゴブリンが百~、オーガ並が約三百よりもっと~、トロールが十くらい~、オーガより大きくてトロールより小さいのが十かなぁ~、ハーピィと思われるのが三、四十~、オーガより大きくて飛んでいると思われるのが三つだといいです~」
 
 これを聞いた瞬間に逃げることを考えたよ。予想を遥かに越える数を揃えたのかあの魔族は。オーガ三百ってサンドリーヌ大森林の全部をかき集めたのか。
 
 「皆殺しにしたらオリエッタを抜けますね」
 
 ソフィアさんはとても楽しそうな声で邪悪な微笑みを浮かべてそう言った。もう貴方に任せます。アッサリ、バッサリやっちゃって。
 
 ソフィアさんは破壊された城門に立ち敵軍約四百を一人で待ち構える。僕達はプラチナレーザーのフルパワーの被害を受けない為に少し下がって見守った。
 
 オーガを中心に両翼にゴブリン、後方にトロールを配した陣形。ハーピィやその他のは暗くて良く見えず、ゆっくりとだが地響きをあげて進んでくる姿は僅かな月明かりでしか確認出来ない。
 
 一番槍。ソフィアさんのプラチナレーザー。
 
 全てを切り裂くこの世界で唯一ソフィアさんだけが放てる悪魔の光。各指の先端から放たれるプラチナ色の光は味方にとっては頼れる光。
 
 「薙ぎ払え」
 
 僕の言葉に頷くとソフィアさんは小鳥のような軽やかな声で言った。
 
 「みなさん、死んで下さいね」
 
 左右の手を広げクロスさせるように動かした指の先からはプラチナ色の光が全てを切り裂くはずであった。
 
 キイィン!!
 
 ソフィアさんの指先から放たれたレーザーは両翼にいたゴブリンを切り裂き、中央に構えるオーガに達した時、軽い金属音させ空高く方向を変えられ消えていった。
 
 「おのれぇ!   このクソ野郎どもがぁ!」
 
 我を忘れるとはこの事。ソフィアさんの体自体が光始める。これは不味い。ソフィアさんは魔力の多い人だけどレーザーなんて規格外の魔法は魔力量も規格外だ。
 
 既に両手の指から十発を放った悪魔の光を、二擊目を撃たせて魔力を消費させる訳にはいかない。ソフィアには怪我人の回復という貴重な仕事があるんだから。僕はすぐにソフィアさんの前に立ちふさがった。
 
 「ソフィアさん落ち着いて下さい。プラチナレーザーを弾かれた理由もわからずに二発目は危険です」
 
 益々、光の強さが増していくソフィアさんの体。もう気分は爆発寸前の核融合炉の前にいる感じだ。だけど止めないと無駄弾を撃てる相手じゃない。僕はソフィアさんの両手を自分の首に当てた。
 
 「ソフィアさんにはやってもらわないといけない事があるんです。回復魔法を使える人はほとんど逃げてしまってます。ソフィアさんが皆を助けるんです。僕を助けて欲しい」
 
 「ノー」と言えば僕の首が吹き飛ぶ中、それを聞いてソフィアさんの体から輝いていた光りは、徐々にくすんでいった。あのまま放っていたら最後の魔力を使ってでも、スコアを稼ぐ為に撃っていただろう。団長って、本当に厳しいなぁ。
 
 「わ、わたし……」
 
 「ソフィアさん。あれは何か分かりますか。レーザーを弾くなんて普通じゃ無い」
 
 「わ、わたしは……   あ、あれは防御魔法です。レーザーを弾く位なので上位の魔法使いが数人いると思います」
 
 考えが甘かったか。ソフィアさんの放つレーザーは科学的なものじゃなくて魔法の一種だと言うのをすっかり忘れていた。魔法なら魔法で防御出来るよね。
 
 しかも、敵には魔法使いがいるのか。いったい誰がやってるんだ。上位の魔法使いが魔族に協力するなんて操られているのかな。
 
 僕は震えるソフィアさんの肩を抱いて城壁をくぐった。作戦を変更だ。近付いて来た所をルフィナの広域魔法で……   出来るのか?
 
 「ルフィナ!    あの魔法を弾いたヤツは分かりますか」
 
 「あれはおそらくリッチである。強力なアンデッドの上位主である」
 
 魔物にもそんな強力な魔法使いがいるのか。レーザーを弾くなんて接近戦に持ち込まないと不利か。
 
 「アラナ、オリエッタは別動で魔法使いを見つけて殺せ。ルフィナは魔法を任すぞ」
 
 ソフィアさんには南門近くまで下がってもらい怪我人の介護、まだ残っている民間人の誘導、僕達が逃げる為の馬車の確保をお願いした。
 
 僕が皆の所に戻る頃にはルフィナとロッサが詠唱を始めて発動まですぐだった。いや、待て。敵はまだ遠いよ。予定ではオーガを毒の沼に沈めるはずだろ。
 
 ルフィナとロッサの毒の沼は左右に広がり敵を真っ直ぐ北門に誘導するかの様に八の字を逆にして組み上げられてしまった。
 
 「ルフィナ、どういう事ですか。毒の沼に沈める予定だったでしょ」
 
 「あたいが命じたんだ」
 
 後ろからプリシラ。急に声を掛けるのは止めて、ビックリして頭を押さえちゃうでしょ。
 
 「敵は真っ直ぐここに来る。横には行けねぇ。舞台を整えてやったんだ」
 
 こいつ馬鹿だろ。あの数を見てまともに殺り合うなんて無謀だよ。数を減らして街中での小数で奇襲をする予定だったよね。
 
 「それにオリエッタやソフィアにこれ以上スコアを伸ばされるのも嫌だしな……」
 
 それか!    その為に負けるかも知れないんだぞ。もう……    この人は……    もう……
 
 殺ってやろうじゃねぇか!    殺ってやるよ!
 
 「オリエッタとアラナは魔術師を探して殺せ。クリスティンさんとルフィナは対空戦だ。ハーピィと大きいのが三匹いるから気を付けろよ」
 
 後はプリシラさんか……
 
 「プリシラさんは僕と舞台へ」
 
 
 コアトテミテス防衛戦、僕の作戦とは無関係で進んでいく……    いつか、あいつをストリップバーの舞台に上げてやる!

 
 
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