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第百八話
しおりを挟むオーガは横列で展開。このまま来れば、その広さが仇となって両翼は毒の沼に入り込む。それを防ぐ為には縦列になって北門を目指すしかない。
その北門の前面、一番細くなっている場所が僕達の舞台だ。本当なら上がりたくない舞台なのに……
「プリシラさん、オーガが縦列になってきてますね。先方は五十くらいですか……」
「たかが五十であたいを止められるとでも思ってる所が可愛いねぇ」
一般人なら一体見ただけで逃げ出すよ。僕もさすがに五十を相手は怖いね。変な唸り声を上げてるし、夢に見そうなくらい見た目も気持ち悪い。幸いな事に武器はたいした事は無いし、鎧も着けて無い者が多い。
「では、行きますか」
「待ちな。ステップは左足からだ、ぜ!」
飛んでったよ、あの重いハルバートを担いで。あれでまだ人型なんだから凄い。ハルバートを持ったライカンスロープは想像しただけで輪番が恐ろしい。
見とれていられない。僕は神速を使ってプリシラさんの後方に付いた。プリシラさんはハルバートを水平に振りかぶると、そのまま軽々と振り抜きオーガの首が三つ飛んだ。
負けられない。少しでもプリシラさんのスコアを減らさないと、このまま殺らせていたら五十がプリシラさんの物になる。
神速全開!
プリシラさんの左に飛んだ僕はハルバートを避けてオーガの心臓に魔剣コアトテミテスを突き刺した。魔剣を引き抜くよりスモールシールドに超振動を発動させてオーガにぶつける。
オーガは弾ける様に大きく飛び退いた。やっぱりだ。盾は受けるだけじゃなく、超振動で殴り付ければ強力な武器になる。
冒険者から奪ったであろうバスターソードを軽々と振り回して襲ってきたオーガには、素直に盾で受けてから超振動を全開にしてみた。
案の定、体制を崩したオーガに心臓への一突き。オーガの筋肉の鎧でさえも抵抗も無く貫く魔剣コアトテミテス。
この二つがあれば今まで以上に狩れる。プリシラさんには悪いけどスコアアップは諦めて下さい。主役はもらった。ついでに二つ名も欲しい!
立て続けに五体を倒してプリシラさんの方を見ると既に十以上のオーガの首が飛んでいた。あっちは一振りで二、三匹の首が飛ぶのにこちらは一回に付き一匹か。
本気で殺らないとプリシラさんに五十が喰われる。背中に走った戦時報酬と言う悪寒が僕をさらに速くする。
神速全開モード・ツー!
何となく思い付いたレベルアップの言霊。別に何が変わる訳じゃない。ただ心の持ちようだ。前より速く、ひたすら速く。
ガキンッ!
気が付けば最後のオーガをバスターソードごと切り裂いていた。モード・ツーで少し意識が飛んだかな。危ない、プリシラさんごと斬っていたらと思うと、気を付けないといけない。
「てめぇ、あたいの分のオーガまで取りやがっただろ。少しはこっちに回す愛情ってもんがねぇのか」
負担を軽くしている方が愛情だと思うのですけどね。プリシラさんはどうしてもオリエッタのサンドドラゴンを気にしているようだ。
プリシラさんといいソフィアさんといい、スコアと戦時報酬を見直さないといけないのかな。ドラゴンみたいデカいのがこれから出るとしたら、オーガ一匹で一報酬は僕の負担が大きくなりそうだよ。
オーガ二匹で一報酬。実質的な賃下げ交渉になるから組合は総出で反対するんだろうね。僕は白百合団の団長ですから。社長さんと同じ立場だね。
「お前、途中から二人になってるように見えたぞ。そんなに速かったか」
「そうですね。日々の努力の賜物かと。プリシラさんも凄いスコアですね」
「当たり前だ。このハルバートは使えるぜ。超……何とかって言うのがいいな。スコア三十は越えたぜ」
「はっ!? 三十は僕のスコアですよ。プリシラさんは二十です」
「はぁ~!? 良く見てみろ落ちてる首を! 三十は越えてるだろ。あたいが三十だ」
「僕も途中から首を落としていたので首の数だけではスコアにならないですよ。僕が三十です」
「馬鹿か、てめぇは。あたいが三十だ!」
このような水掛け論的、不毛な会話を続けていてもオーガの第二陣は待ってもくれずに迫って来ていた。
「てめぇは首を落とすな。心臓をチクチクと可愛く狙ってろ」
「いいでしょう。次で決着を付けようじゃないですか」
僕は愛するプリシラさんの為、少しでもスコアを稼いで戦時報酬を少なくして楽をする為、全力で行くぞ!
神速全開モード・ツー!
残像が見えるほどの速さの僕を、捉える事の出来るオーガなんているはずも無く、僕の前に立ちはだかる者は全て心臓を貫かれていった。
「ガハァ!」
思わず息を盛大に吐いてしまった。予想以上にモード・ツーは疲れる。まだ先は長いのに体力の温存も考えて戦わないと。
「見ろ! 落ちてる首の数を! 三十四はあるぞ」
化け物だろプリシラさんは。僕は魔剣に超振動の盾、それにチートの神速。これを使いこなして狩れたオーガは三十五、僕の勝ち。
「プリシラさんも見て下さい。首が付いてるのは三十五ですよ」
「てめぇは、数も数えられねぇのか。あそこの方は第一陣のオーガだろうが。あれは数に入らねぇんだ」
「あそこは第二陣の先頭ですよ。あれは数に入ります」
「入らねぇ、入らねぇ。あれは第一だ!」
もう戦場で不毛な会話は止めませんか。それに前に出すぎたようですよ、少し下がらないと。第二陣までを壊滅させたが全体の二割を殺った所か。
「プリシラさん少し下がりましょう。ここまで出ると毒の沼の効果が薄い」
僕達は逆八の字に陣取った毒の沼の広がった方まで来てしまった。あんまり前に出ると僕達を無視してコアトテミテスの街に向かってしまう。少しでも多く倒さないと冒険者だけではこの数は無理だ。
「あたいの方が多い!」
まだ言ってんのか、この人は。そこまでしてスコアが欲しいのか。
「ソウデスネ。プリシラさんの方がオオイデスネ」
「当たり前だ! 引くぞ!」
もう何とかしてくれよコイツ。この怒れる感情はどうすればいい。全部、オーガに八つ当たりしてくれるぞ!
僕達は逆八の幅が一番細くなってる所まで後退した。オーガの一団は死んだ仲間を物ともせず進んでくる。
「プリシラさんそろそろ魔法使いにも当たるかもしれませんね」
「魔法は面倒だな。 ……あれを見てみろ死んだオーガが起き上がってくるぞ!」
え!? 確かに心臓を刺してえぐったはずのオーガが立ち上がって来る。そんな馬鹿な。確かに殺したはずなのに……
「後ろの方が見えるか!? リッチがいやがるぞ。あいつらが生き返らせたに違いねぇ。てめぇが心臓なんかチクチク刺してるからだ。首を落とせ首を!」
てめぇ、こいつ、マジにブチキレそうだ。プリシラさんが心臓を刺せって言ったんでしょうが!
「アラナ! オリエッタ! 魔法使いが出たぞ殺せ!」
今のは良くない。八つ当たりをしてしまった。城壁までは距離があって聞こえるはずもないのに、何をやってるんだ僕は。
「はい、は~い」
派手な土煙を巻き上げて僕の真横に着地するオリエッタの装甲服。どんだけ飛んで来たんだよ、城壁からは距離があるのに!
「怖かったッス。めちゃくちゃ怖かったッス。オリエッタ姉さんがいきなり抱き上げて、ここまで飛んで来たッス」
怖かったろうねぇ。可哀想にアラナが震えているよ。僕はオリエッタのハンマーのフルパワーを避けた事があるけどそれくらい怖かったかな。
僕はアラナの頭を撫でてやった。 ……それどころじゃない!
「リッチがいる。オーガをアンデッド化しているようです。キリが無い、優先的に狙って下さい」
リッチを殺らなければオーガを何匹殺しても生き返らせてしまう。ルフィナの父親、ラトランド侯爵が戦場でやって功績を上げた戦法かよ。ルフィナが聞いたら死体の取り合いになるのかな。
「プリシラさん、リッチまでの露払いをしますよ」
「任せろ!」
「リッチはオーガの何倍ですか~」
「汚ねぇぞ、オリエッタ! 一だ! イチ!」
「え~、リッチなら~……」
……もう早く殺れ。
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